ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

週刊ブックレビュー

2011年07月31日 17時05分24秒 | 雑記
NHKBSプレミアムの番組「週刊ブックレビュー」に出演することになった。収録は8月21日で、放送は27日なのだが、番組のホームページをのぞいてみると、この日はわたしのほかに三人のゲストが登場し、おすすめの本を紹介するようだ。

その三人というのが、谷口けいさんと廣川まさきさんと下川裕治さん。谷口さんと廣川さんはしんこうえんじの会などで顔見知りだし、下川さんは面識はないが、紹介する本が高野さんの「イスラム飲酒紀行」で、まあ、おんなじようなもんだ。なんでこんな同業他社みたいなメンバーなんだ、と思ったら、どうやら旅、冒険特集ということらしい。なっという狭い世界であろうか。

週刊ブックレビューのサイトを見ていて、もう一つ発見があった。4月に俳優の山本太郎さんが私の「空白の五マイル」を紹介してくれていたらしいのだが、同じ日にフリーライターの永江朗さんが「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」を紹介していた。

購読者が共通している理由がこれで判明。読者は敏感にも、あの深い小説と私の本の間に共通したテーマを読み取っているのか、とひそかに喜んでいたのだが、全然ちがったようだ。残念。

そういえば、昨日、台所のシンクの下の扉を開けたら、北極圏に出発する前に買い込んでいた「永谷園煮込みラーメンコクうま鶏塩ちゃんこ風」を発見。冷房をガンガンにかけて、汗をだらだら垂らしながら、一気に食べた。至福だった。


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オスカー・ワオの短く凄まじい人生

2011年07月30日 13時40分59秒 | 書籍
オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)
クリエーター情報なし
新潮社



ジュノ・ディアス「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」を読む。アマゾンで自分の本を見てみると、わたしの本を買ってくれた人の中には、この小説を買っている人が多いらしく、ついでにわたしも買ってみた。自分の本との共通点などはよくわからなかったが、最高の小説であることはわかった。

デブでオタクで女にもてないけど、セックスには人一倍関心がある、ドミニカ系アメリカ人、オスカー・ワオが主人公だが、オスカーが主人公として登場するのは最初と最後だけだ。小説の大部分は姉や母、祖父といった一族の物語が占めており、オスカーの悲しい人生へと連なる一族の呪いに縛られた歴史と、それをもたらした独裁者トルヒーヨの残酷な圧政ぶりをあぶりだす。

オスカーの物語が、オスカー自身からではく、家族や友人の口を通して、しかも時折、彼らの物語に登場するあくまで遠景の人物として描かれていることにより、哀切を誘うオスカーの人生が、より客観的に浮き彫りにされている。とりわけ、この物語の作者に設定されている親友ユニオールの口から語られるオスカーの表情には異様なリアリティーがあり、思わず彼が隣にいるような感情移入を強いられた。

ラストは圧巻。自分の運命に身を投げ出すかのように突っ走っていくオスカーに、悲惨なにおいをかぎ取り、いやおうなしに引き込まれた。そして彼自身の口からついに語られることになる最後の一言に、救われた気がしたのと同時に、呆然としてしまった。

こういう本を読むと、自分はもう文章を書くのはやめようと思ってしまう。まったく、すべての人に読んでもらいたい傑作だ。いや、ほとんどすべての人だ。



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ピルグリメージメソッド、アゲーン

2011年07月28日 17時34分05秒 | 雑記
アエラがスポーツに関するさわやか系のムックをつくるらしく、今日、皇居の周辺で取材を受けてきた。なぜ、皇居の周辺かというと、次のような経緯があったからである。

取材の要請があったのはカナダにいた時で、私は自分のやっていることをスポーツだとは認識していないので、その旨を明記したうえで、しかし、取材を受けるのは一向に構いませんという返事をしたためた。担当のライターの方は、それでもまったくかまわないので、取材を受けてほしいという意向を示したうえで、できれば探検のトレーニング風景を撮影したいので、荒川の河川敷でタイヤを引くなどしていただきたいのだが、それがやりすぎだということであれば、何かいい案はないでしょうかと相談をもちかけてきた。北極探検が終了した今、さすがの私も改めてタイヤを引く気も起きず、しょうがないから半分冗談交じりで、今回は事前に皇居のまわりでビジョガーに囲まれながら50キロのザックをかついでボッカ訓練をしていたので、そちらはいかがでしょうかと返事を出すと、どういうわけだか担当のライターの方は、それはいいと思います、と気に入ってしまったらしいのである。

ということで、本日正午、久しぶりにビニール袋に水をパンパンに入れてブラックダイアモンドの赤いザックに収納し、皇居周辺をボッカした。ただボッカするだけでもちょっとおかしな風であったのは否めないのに、その上、巨大なザックを背負ったままお堀をバックにポーズP、などを撮られたとあっては、もはや奇人変人の域に達していたと思う。私も最近では、衆人環視の元、かっこいいポーズをとって写真を撮られることに慣れてきたので、カメラマンさんに、ハーイ、笑顔をくださいとか言われると、恥も外聞もなく白い歯をニヤッと見せたりした。

その後、毎日新聞の入っているビルディングの地下食堂で取材を受けたが、三時間にわたり冒険と生きることの意味みたいな、全然、スポーティブではないテーマで話をさせていただいた。全然さわやかじゃないし、どう考えても、ムックの趣旨には反すると思うのだが、大丈夫なのだろうか。
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バカ買い

2011年07月26日 19時51分08秒 | 雑記
カナダ北極圏の徒歩旅行中、装備重量の関係で書籍はほとんどもっていかなかった。いや正確に言うと、昔の極地探検家の気分に浸りたかったので、ナンセン「極北」、アムンゼン「ユア号漂流記」、チェリーガラード「世界最悪の旅」、アルヴァーノフ「凍てつく海」はもっていったのだが、そんなものをもっていっても、氷と飢餓に苦しむ同じような男たちの話ばかり読む結果となり、途中からうんざりしてしまった。

最悪なのはアムンゼンで、彼は探検家として極めて優れていたので、行動が万事うまくすすんでしまい、トラブルが全然おきない。探検記なんて死にそうになったなんぼ、みたいなとこがあるので、彼の本は正直言ってあまり面白くないのである。それなのにアムンゼンのルートは、今回の我々の探検とかなりかぶっていたので、何度も読まざるを得ず、あー面白い本が読みたいなあ、と飢餓感を募らせていったわけだ。

その結果、バンクーバー滞在中から活字中毒のリバウンドがすごいことになっており、本のバカ買いという形ではじけている。

とりあえず、バンクーバーのブックオフで辺見庸「眼の探索」「赤い橋の下のぬるい水」「屈せざる者たち」、沢木耕太郎「地図を燃やす」、遠藤周作「海と毒薬」などを買って読んだ。さらに帰国してからは、ジュノ・ディアス「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」、国分拓「ヤノマミ」、イルゼ・ゾマヴィラ編「ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記」、鬼界彰夫「生き方と哲学」、マーク・ローランズ「哲学の冒険」、広瀬隆、明石昌二郎「原発の闇を暴く」、さらに西村賢太の短編集5冊を購入した。

とはいえ、まだ「雪男」が校了していないので、読書の時間はほとんどない。読み終わったのは西村賢太「寒灯」のみ(相変わらず、死ぬほど面白い。文章はほとんど芸術の域に達している)で、いまのところ金が財布からなくなって、ちゃぶ台の上の未読本タワーが高くなっただけだ。本はいっぱい買っているのに、読んでいるのは「雪男」「空白の五マイル」と、自分の原稿ばかりで、まったくどうかしている。

さっきの探検記のからみで、ついでに言うと、わたしの「空白の五マイル」もたぶん読者的には第二章の脱出行が一番盛り上がるんだと思う。もちろん自分はそのように意識して書いた。だが帰国後にある山岳団体の会報に載っていたわたしの本の書評を見て、思わず苦笑いをしてしまった。その最後の文に、次の脱出行が早く読みたい、みたいなことが書いてあったからだ。まったく読者というのは恐ろしいもので、わたしに、もう一度死にそう目にあえ、と思っているらしい。

もちろん、いつか、その期待には応えようと思っているのだが。

寒灯
クリエーター情報なし
新潮社
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「空白の五マイル」とロジャー・ウェイド

2011年07月26日 00時22分16秒 | 書籍
25日午後5時ごろ、わたしはふと自分の「空白の五マイル」という本を手に取り、やおら読み始めた。この本の原稿を校了したのは昨年の9月か10月のことだと思うが、それ以降、まったく読むことはなかった。たぶん読んだら、なんでこんなひどい文章の本を出したのだろうか、取り返しがつかないことをしてしまったと、自己嫌悪に陥るのが目に見えていたからだ。

もうすっかり酔っぱらってしまい、昨日に限ってなぜ自分の本を読んでみようと思ったのかは、もはやまったく思い出せない。しかし、ここでこんなことを書くのは恥ずかしいのだが、実は、読んでみると、わたしは自分の本を、意外と面白いじゃんと思ってしまい、そのまま30分ほど熟読してしまった。恥の上塗りで白状すると、インスタントコーヒーのコマーシャルに出たかったというくだりなどは、読んでいて思わず、ニヤっと笑ってしまった。ええ、すいません。

しかし、突然、チャンドラーの中にあった一節を思い出し、へらへら自分の本を読んでいる姿にぞっとした。チャンドラーは「ロング・グッドバイ」の中で、空疎な内容のエンターテイメント作品しか書けないベストセラー作家ロジャー・ウェイドに、次のように語らせているのだ。

「自分が駄目になったということを、作家はどうやって知ると思う? インスピレーションを求めて、過去に自分が書いたものを読み返すようになったら、もうおしまいなんだ。それが絶対基準なんだ」(村上春樹訳)

チャンドラーのおかげで、わたしは自分の本を放り出し、正気に戻ることができた。もう二度と「空白の五マイル」を読むなんてことはしないぞ、と心に誓いながら。

どうでもいいが、「ロング・グッドバイ」は文庫本をカナダにもっていき、帰りのバンクーバーで読んだ。私はこの本が大好きで、通読するのはたしか4回目くらいになる。しかし記憶力が悪いので、今回も犯人が誰だかすっかり忘れていて、初めて読んだ時のように楽しめた。

ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)
クリエーター情報なし
早川書房








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肩書

2011年07月24日 06時21分11秒 | 雑記
はばかりながら、このブログのサブタイトルの中のわたしの肩書を、ライターからノンフィクション作家に変えた。

朝日を退社してから、名刺などにもライターの肩書を使ってきたが、実はいわゆるライターの仕事はほとんどしたことがない。08年に退社してすぐに「雪男」の取材で一年が過ぎ、「空白の五マイル」で次の一年が過ぎ、北極関連で3年目が過ぎたので、本を仕上げることにしか時間を使っていなかった。

開高賞をもらった時に、ある過去の受賞者から、「あなた、賞をもらったらライターの仕事が来なくなるから、気を付けたほうがいいわよ」と助言を受けたことがあったが、なにせもともとライターの仕事をしたことがなかったので、その心配はほとんどなかった。

     *    *

昨日は山の上ホテルで開かれた開高賞の最終選考のパーティーにお邪魔し、ごあいさつをした後、久しぶりに朝日時代の同期の友人と遅くまで飲んだ。飲みすぎでまだ眠いが、時差ボケが残っていて夜は3、4時間しか眠れない。


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年貢の納め時

2011年07月23日 08時30分27秒 | 雑記
次回作「雪男は向こうからやって来た」の校了が迫ってきた。昨日は版元の集英社に行き、担当の岸尾さんと打ち合わせ。午前中から夕方までデザイン事務所に出す口絵の直しをみっちりとおこなう。

「雪男」の発売は8月26日。岸尾さんに、プロモーションの一環としてツイッターを始めるようにアドバイスを受けた。

ツイッターをこれまで使わなかったのは、ひとつには、面白いつぶやきをする自信がないからだ。日本にいる間は家に閉じこもっている時間が長いし、外出してもたいしたところにはいかないので、わたしがつぶやけることなんて、今日の目玉焼きのできだとか、日々のうんこの大きさだとか、現在世界の山ちゃん・靖国通り店は満員の状態です、とかその程度のもんだろう。

それにツイッターとかフェイスブックとかは、始めると、24時間、何書かなきゃという強迫観念に支配されそうで、それもこれまで避けてきた大きな原因だ。できることなら、次の作品の資料の読み込みとか、どのような構成にするかといったことを考えることに時間をさきたい。

とはいえ、そろそろ年貢の納め時だろうか。うーん、ああ、めんどうくさい。

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帰国・山と探検文学賞

2011年07月21日 23時54分27秒 | 雑記
バンクーバーから21日午後3時半ごろ、帰国した。地震の余波で日本はかなり変わったといろんな人から聞いていたので、かなり身構えて帰国したが、とりあえず空港の移動通路が止まっていたり、駅の標識の電気が消えていたりしていたこと以外には、特に出国前との変化は分からなかった。とはいえ、日本人なら共有すべき傷跡みたいなのが抜け落ちてしまったような、自分は日本人として欠陥を抱えてしまったのではないかというような、変な後ろめたさを引きずっている。

部屋の中もさぞかし混乱をきたしているに違いないとおそるおそる引き戸をあけたが、予想に反して以外に整然としており、乱雑に積み上げていた本の一部が崩れ、倒れているぐらいが、わたしのアパートにおける震災の爪跡だった。食器などは台所の天井近くに据えつけられた棚にいい加減に並べていたので、確実に床の上に落下し、バラバラに割れて惨状をきたしているとばかりと思っていたが、食器たちは2月にどたばたと部屋を後にした時のまま行儀よくならんでいた。拍子抜けといえば拍子抜けである。

出発時、空港に持って行くのを忘れた携帯電話の電源を五カ月ぶりに入れると、早速、非通知電話がかかってきた。読売新聞大阪本社文化部の記者からで、わたしの『空白の五マイル』が「第一回梅棹忠夫 山と探検文学賞」を受賞したので、コメントをくださいとの電話だった。

開高賞、大宅賞に続き、三つ目の賞となり、大変ありがたい。だが正直言って、そこまでの内容を自分は書けていたのだろうかという戸惑いは、たしかにある。
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北極圏徒歩旅行終了

2011年07月07日 13時27分33秒 | 探検・冒険
本日午前10時頃(カナダ中部標準時間)、ジョアヘブンを出発してから43日ぶりに人間に遭遇した。その2人はベイカーレイクに在住する推定年齢60歳くらいの中の良さそうな老夫婦で、ツンドラ荒野を延々と横断し、間もなく最終目的地ベイカーレイクの町を目指し小さな丘に登っている我々の目の前に突如現れた。いや、ちがうな、ジョアヘブンを出発して、たしか3日後くらいに、ジョアヘブンの住民たちがたくさん参加する釣り大会に出くわし、二日間ほどお世話になった上、その翌日にはカリブー狩りにでかけたにもかかわらず一頭も仕留められなかった家族とも出会っているから、正確にいうと、本日37日ぶりに人間と遭遇し、今現在はベイカーレイクのホテルでパソコンをぱちぱちとたたいている。

というわけで、長かった北極圏徒歩旅行は無事、本日終了。詳しい報告は、いずれどこかの媒体で作品として発表できると思うので、その時にまたこのブログでもお知らせします。
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