ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

映画「アイガー北壁」

2010年03月23日 18時32分40秒 | 雑記
映画「アイガー北壁」を見に行った。アイガー北壁は困難なことで有名なヨーロッパ三大北壁の一つ。初登頂は1938年にヘックマイヤーやハラーら四人により成し遂げられたが、それまでは死屍累々の山が築かれた。映画は1936年にトニー・クルツら四人が遭難した悲劇を描いたものだ。

すごく面白い映画だった。映像がリアルで、音楽が重々しいので思わず手に汗握る。ハインリヒ・ハラーの「白い蜘蛛」を読むと、映画には事実に多少、脚色がほどこされているようだが、その脚色も悲劇をより悲劇として際立たせるために効果的であり、決して嫌味ではない。

それにしても昔の人はすごい登山をしていたものだ。有名なヒントーシュトイサーのトラバースは振り子だったのか! ヒントーシュトイサーは映画の冒頭からがんがん振り子トラバースを決めているけど、あんなの今のロープでやったら一発で切れちゃう。他にも、おっかない傾斜の岩壁をハーケンで中間支点とりながらコンテで登るわ、昆虫の外皮みたいな訳のわからない固そうな袋に入ってビバークするわ、墜落したクライマーを足で踏ん張ってボディビレイで止めるわ、とにかく半端ではない。

しかし昔の登山家は、精神構造も肉体の分子組成も現代のクライマーよりはるかに強かったであろうから、本当にこういう登り方してたんだろうなあ。昔の人は本当に偉い。


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ザ・ロード

2010年03月22日 15時54分27秒 | 書籍
コーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」を最近読んだ。コーマック・マッカーシーの本は以前、「ノー・カントリー」がアカデミー賞を受賞した時に、原作の「血と暴力の国」を読んで以来だったが、「ザ・ロード」の読後感はそれをはるかに上回った。

核戦争だか、大地震だか、巨大隕石の衝突だか知らないが、何かが原因で地球上の文明が消滅した後の荒野の世界を、父と子がたくましく生き抜く姿を描いている。漫画「北斗の拳」の舞台のような世界を想像してもらえると分かりやすい。生き残った人間どもはみんな牙一族みたいな野盗の集団と化していて、父と子はその野盗どもの目を逃れて生きのびるため南を目指す。

筆者が文学的に何を描こうとしているのか、門外漢の私が語るのはやめておこう。しかし感じたのは、絶対荒野の中に存在する生の力強さだ。ヴァーチャルな世界にのみ込まれ、薄っぺらな知識や情報だけがはびこるこの世の中で、生きていることが確かであると認識するには、このような荒野に身を置くしかないとマッカーシーは言っているかのようである。

こういう世界をノンフィクションの世界で書くことはできないだろうか、とついつい考えてしまった。砂漠でも密林でもいいけど、無だけが支配する荒野で生き抜くオレと息子……。あ、しまった。これを実現するには、荒野を目指す前に、誰かと結婚して子供を作らんといけんのか!

無理だな。

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雪も氷もない

2010年03月21日 18時18分36秒 | クライミング
連休は鹿島の北壁だ、と一週間くらい前までは楽しみにしていたが、どうやら三連休の真中に強烈な低気圧がするらしい。同じ時期に鹿島行きを表明していた知り合いも次々と中止を決定したようで、しょうがないので転進先をアプローチが近く日帰りでも行けそうな南ア・鋸岳に決めた。

土曜朝に戸台に到着。まわりの沢はシャーシャー水が流れていて、稜線に雪がありそうな気配はない。これは……、行ってもヤブ山登りになるということで、気温20度のうららかな春の陽光のもと、速攻で錫杖に転進することを決定、午後2時くらいに槍見館前の駐車場に到着した。夕方にクリヤ谷の岩小舎に到着したが、やっぱり錫杖の壁も同じ。左方カンテでも登ろうかと話していたが、夜中の嵐でモチベーションが尽き、雪も氷もないヤブの顔を出しているルートをアイゼンをぎしぎし言わせながら登るのもぱっとしない話なので、結局どこにも登らず帰宅した。

車の中で菓子パンを食べ、断続的に睡眠し、大学後輩Mと下らない近況報告を交換するのに8千円もかかってしまった。しかし山に行かずに東京に残り、晴れ間の広がる空を見て、やっぱり山に行けたかなと後悔するよりはましである。こういう出費は山を続けていくための、一種の必要経費なのかもしれない。


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トンズリン(桐梓林)

2010年03月19日 21時39分58秒 | 雑記
だいぶ前の話だが、絵を描いていたはずの弟が何を血迷ったのか、友人と一緒に坦々麺屋を始めると言い出した。タンタンメン!? なぜ? ひそかに心配する家族をよそに、彼はなにやら自信満々の様子であった。

その店が今日19日、ついにオープンした。店の名前はトンズリン。桐梓林と書くらしい。中国のどこかの通りの名前だという。場所はハッピーロード商店街で有名な板橋区の大山である。実は僕はせんべえで有名な埼玉の草加から、2月に豊島区東長崎に引っ越してきたばかり。家からチャリンコで10分だし、店を開くのが弟なので、トンズリンに行ってみた。

いやー、うまいじゃないか。スープはココナッツか何かのコクと苦みきいていて濃厚。麺は二種類あり、太麺のほうの自家製麺を頼んだけど、コシがあってよかった。坦々麺といえばニンニクと豆板醤のイメージしかなかったが、出てきた料理はなかなかおしゃれ。東坡肉という豚の角煮も味がしっかりしみている。内装もラーメン屋っぽくないので、これなら女性だけでも入りやすい(ちょっとほめすぎか? まあいいや。肉親だから)。

場所は東部東上線大山駅から歩いて3分。ホームページは
tonzlin.com
今ならホームページにある引換券を持っていけば、自家製ラー油がもらえます。みなさんも、トンズリンに行きましょう。

コメント (4)
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唐沢岳幕岩大凹角ルート

2010年03月15日 18時28分54秒 | クライミング
週末は久しぶりの山。唐沢岳幕岩大凹角ルートに登って来た。唐幕は初めてだったが、遠くから見ると大きな岩壁に氷壁がいっぱいぶら下がっていて、クワンデ北壁みたいでかっこいい。

13日は朝から雨。憂鬱になりながら岩場に向かう。1パーティー先行していてトレースがあったのでラッキーだった。彼らは左方ルンゼに行ったらしく、取り付けへのつめのルンゼはラッセルとなった。岩にとりついたのは午後2時くらいだったろうか。ベルグラが雨のせいでウエハースみたいにサクサクになっていて、おそろしく登りにくい。2ピッチ登って、洞穴テラスに着いた時には雨が吹雪に変わり、憂鬱なので右稜までトラバースしてビバークした。14日、日曜日は快晴。ベルグラは相変わらず使い物にならないので、スラブのピッチは苦労したが、なんとか完登。車に戻った時には真っ暗になっていた。





ところで、アイゼンをペツル・シャルレのM10にかえたのだが、高いカネ出して買っただけあって登りやすい。氷にも草付きにも、細かい岩の突起にもグサグサ刺さる。最高。でも、ついでにザイルや、スパッツにも刺さってしまい、買ったばかりなのに穴あいちゃった。おいおい、とがりすぎだよ。

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