ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

すばる連載について

2011年11月16日 21時34分20秒 | お知らせ
これまで北極の連載は「すばる」2月号から始まると宣伝してきましたが、急きょ予定が変更いたしまして1月号(12月発売)から始まります。現在、ゲラの校正作業中。一行、一行、誤りや表現の飛躍がないかを、英語の資料と首っ引きで格闘中。

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錫杖そして三大北壁へ

2011年11月13日 23時11分25秒 | クライミング
近々奥さんに子供が生まれる探検部後輩Sから、育児の前に最後山に登っておきたいと懇願され、この週末は錫杖に行ってきた。山でのクライミングは一月の塩沢以来だ。ルートは、これもSの希望で北沢大滝~見張り塔。錫杖岳本峰まで無理なく登ることができるルートだ。私は以前登ったことがあるが、これも頂上まで行きたいというSの希望を受け入れた。

土曜の未明に槍見館前に着いたが、まだ雨が残っていた。翌日はまだ岩が乾いていないだろう、ということで、クリヤ谷でテンバでたき火をして(写真)酒を飲んでうだうだして、日曜に登りに行った。

残念ながら、下部から濡れ気味で、上部の一番面白い見張り塔は浸み出しがひどく、水がぽたぽたと落ちてきて登れる状態ではなかった。やむなく下山、「それでは少なくても一年以上は登れないと思いますが」とSの見送りを受けて平湯温泉からバスで帰京した。

Sによると、就職、結婚、子供は俗に三大北壁というらしい。この北壁を登りきって山に登り続けられる人は、そう多くないのだ。なかでも子供は最も困難な壁だ。就職、結婚を乗り越えても、子供という壁を越えられず山から足を洗った人は無数にいる。なにせ子供は山なので、子供ができたら山に行かなくても、もっとすごいものが体験できてしまうらしいのだ。Sは一年ちょっとで山を再開するつもりらしいが、果たして最難関の北壁を登りきれるかどうか……。

ちなみに私は三大北壁のうち就職だけ途中まで登って下山したへなちょこである。結婚、子供に関しては、取り付き点すら見つからず、麓でうろうろしてばかりいる。

    *    *

なお「山と溪谷」12月号に冬の利尻山の紀行文が載っています。

山と渓谷 2011年 12月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
山と溪谷社

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木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

2011年11月09日 23時02分07秒 | 書籍
木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
増田俊也
新潮社


増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』を読む。とんでもない傑作ノンフィクションだ。著者は柔道出身者。執筆までに十八年あまりかかったというが、その偏執的なまでの木村政彦と柔道に対する愛情に圧倒された。

木村政彦は主に戦前に活躍した史上最強と呼ばれる柔道家だ。密かに柔道ファンである私は、木村政彦が力道山に敗れたことや、プロレスラーになってブラジルに渡り、グレイシー柔術のエリオ・グレイシーに勝ったことぐらいは知っていたが、まさかこれほどの柔道家だったとは。

木村政彦が力道山とガチンコでやってまけるわけがなく、それを証明するために著者は取材を始める。27歳の時だ(本の出版時は45歳)。本書は木村の柔道を解剖するために、ほとんど柔道史すべてを網羅した本になっている。つまり木村政彦は戦前の古流柔術や高専柔道の流れを受け継ぎ、現代の総合格闘技すら先取りしたあり得ないファイターだったわけだ。

あまりにも木村政彦と柔道に対する愛が溢れすぎて、時々、情報の信ぴょう性を疑いたくなる部分もないではないが、しかしもし冷静に記述していたら、逆に本の価値は下がっていたに違いない。熱すぎるまま突っ走ったところが、この本のすごいところである。そしてそうした徹底した取材に基づいた、力道山との試合に関する著者の最終的な結論、というか告白は圧巻だった。これこそノンフィクションだ。すごい。読後は木村政彦の大外刈りを食らって、脳震盪を起こしたような気分になる。

わたくしごとになるが、今月の『群像』12月号にエッセイを書いた。最近、コンパで全然もてないというどうでもいい話なのだが、目次を見ると、増田さんもエッセイを書いていた! 

題は「女性を強く感じた瞬間」。

読んでみると、こちらもすごすぎる。なんだかダブルで寄り切られた気分だ。

群像 2011年 12月号 [雑誌]
講談社



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講演会のお知らせ&アフガン諜報戦争

2011年11月02日 02時02分21秒 | 書籍
地元の北海道芦別市で講演会を開きます。

「冒険することと書くこと」
5日午後6時半から、芦別市総合福祉センター大ホール。入場無料
主に北極圏の冒険旅行について話す予定です。

   ☆   ☆

アフガン諜報戦争(上) ─ CIAの見えざる闘い ソ連侵攻から9.11前夜まで
スティーブ・コール
白水社


スティーブ・コール『アフガン諜報戦争』を読む。本文だけで約800ページの大冊。細かな文字がぎっしりで読み応え十分だ。

ソ連の侵攻からアフガンの歴史を振り返り、そこにCIAがどのように絡んでいたのかを膨大な資料と関係者のインタビューで構成している。サウジとパキスタンの情報機関と、アフガンの政治勢力、とりわけタリバンとの関係が興味深かった。タリバンやビンラディンの背後でサウジとパキスタンがどのような動きをしていたのか、この本を読むとよく分かる。同じ白水社のローレンス・ライト『倒壊する巨塔』と併読すれば、現代アフガン事情に精通すること間違いなしだ。ただし、双方とも分厚すぎて、読み終わった頃には細かなところを全然覚えていないという欠点がある。あともう少し話を先に進めて、ラストにしてほしかった。どっちか読むなら『倒壊する巨塔』のほうが面白い。

倒壊する巨塔〈上〉―アルカイダと「9・11」への道
ローレンス ライト
白水社



実はアフガン、イラク関係のノンフィクションは大好きで、本屋で見つけたものは大体読んでいる。『誰がダニエル・パールを殺したか』とか『ホース・ソルジャー』だとか。これだけ読むと、いい加減アフガンに行きたくなってくる。最近はタリバンも息を吹き返しているようだし、米軍も撤退するし、また熱くなるのだろうか。

アフガンものじゃなくてもアメリカの分厚いノンフィクションはなぜかよく読む。最近は他にもA・J・ジェイコブズ『聖書男』を読んだ。これは約600ページ。現代ニューヨークで聖書の教えを教条的に守って生活した記録。企画は最高に面白いが、日記なので途中で飽きてしまった。家にある未読本としてはデイブ・カリン『コロンバイン銃乱射事件の真実』があるが、これは面白そう。こちらは約500ページ。

聖書男(バイブルマン)  現代NYで 「聖書の教え」を忠実に守ってみた1年間日記
A・J・ジェイコブズ
阪急コミュニケーションズ



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朝日の雪男の記事

2011年11月01日 09時49分36秒 | 雑記
朝日の朝刊スポーツ面に、例のロシアでの雪男騒動の記事が掲載された。ロシア担当記者と、雪男担当記者で私の本にも主要人物として登場した近藤さんが共同で執筆したもの。ロシアの騒動と、ヒマラヤのイエティと呼ばれる動物についてまとめて紹介している。

ロシアの騒動のついては、私も三つぐらいのラジオ番組から電話でコメントを求められた。最初のラヂオプレスの配信記事を読んだ時は、面白いと思ったが、会議の結果、95パーセントが生息するという見解が発表されると、正直、ちょっとひいた。

95パーセントという数字に根拠はないだろうし、会議にどんな専門家が出席しているのかもよく分からない。マスコミは数字と初物が大好きだから、大きな数字が発表されただけで報道される。マスコミにとって重要なのはニュースが事実かどうかということより、ニュースがどこから発表されるかの情報源である場合が多い。95パーセントという数字が突拍子もないものでも、ケメロボ州という行政当局が発表したら、それはニュースとして権威づけされて、安心して報道できる。という報道の論理が透け透けで、ケメロボ州当局の観光誘致宣伝策に、世界中のマスコミがいいように利用されたようにしか見えない。

などという話を、ラジオ出演のたびに話したら、だいたいパーソナリティーの方から、「でもね、かくはたさん。雪男、いると思いませんか?」とたしなめられた。

雪男、いるんでしょうか。気になる人は、私の本を読みましょう。

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