ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

地震

2011年03月13日 00時35分40秒 | 雑記
本日、レゾリュートに移動する予定であるが、太平洋岸を襲った巨大地震のニュースに気を奪われている。昨日あたりはほとんど一日中、イカルイットの宿でインターネットのニュースを閲覧していた。

平穏そのもののカナダからニュースを読んでいると、ほとんど日本は沈没寸前のように思えてきて、気が気でない。友人からのメールなどによると、東京もかなり揺れたとのことで、自分が住んでいる東長崎駅前のぼろアパートはかなりの確率で倒壊してしまったに違いないような気がし、不動産屋にメールでアパートの安否のほどを確認してみたが、一応、変わったことはないとのことだった。日本で被災に遭われた地域の方々のことを思うと、これから北極圏を長い間のんびり歩こうとしている自分が、まったくバカみたいに思えてくる。

が、北極圏のほうもなかなか一筋縄ではいかないようで、私たちが歩こうと思っているレゾリュート南部の沖合の氷は結氷状態が最悪で、やはり西に大きく迂回する、事前に想定していた最悪のパターンをとらざるを得ないようである。乱氷帯を歩く苦痛のほどを知っている同行の荻田君は、数日前から衛星画像と一日中にらめっこして、これまでの知識と経験を総動員し、なんとか抜け穴となるルートを見つけようとしているが、昨日、レゾリュートの知り合いから最新の衛星画像を送られてきた結果、ついにそれも観念し、西周りルートをとらざるを得ないと決心したようだ。西回りのルートをとると移動距離が100キロメートルほど増えるばかりではなく、乱氷帯を通らないといけないので、荻田君によると、速度が「山道と高速道路くらい違う」とのことである。
コメント (13)
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イカルイット帰還

2011年03月11日 03時42分45秒 | 探検・冒険
フロビッシャー湾沖合での計9日間にわたる耐寒訓練を終了し、本日、イカルイット(正確にはイカルイットの隣のエイペックスという集落)の宿に戻ってきた。耐寒訓練といっても、基本的にはテントの中でコンロをがんがん焚いて、本などを読みつつぬくぬくと過ごし、午後に数時間あたりをぶらつくといった程度で、訓練というより、極寒地でのキャンプ生活への慣れと、装備の点検のほうにより大きな意義があった。実際、放っておくとなんでも氷ってしまうので、クマスプレーなど氷らせてはいけない装備をどうやって保持するかとか、テントも極地用のでかくて使ったことがないようなやつなので、それを風が強い状況下でどう立てるかとかがなんとなく分かり、非常に有意義な期間だった。

写真は訓練中に一日だけばっちりと現れたオーロラ。

それにしても宿に帰ってきて、さっそくシャワーを浴びて、きれいさっぱりした後に、いままで来ていたフリースのにおいを嗅いだ時は、思わず吐き気をもよおした。脂ぎった極地用の特殊食料と、特にキャンプ中においしくいただいていたオイルサーディンの魚臭い悪臭がこびりついており、ひどいことになっている。9日間でこの状況なのだから、本番の50日間の旅行のあとは、いったいどうなるのだろう。

今後の予定としては12日に出発地点となるレゾリュートベイに移動。レゾリュート沖の氷の氷結状態を見極めた上で、キングウイリアム島のジョアヘブンへ向けて出発となる。今年のレゾリュート沖の氷結状態は最悪らしく、2月に犬ぞりでほぼ同じルートを行く予定だった極地探検家の山崎さんは、いったんレゾリュートに引き返したようだ。

山崎さんのブログ
http://hidedogs.blog.eonet.jp/hidedogs/

今回のわたしたちの旅の模様をもっと詳しく知りたい人は、わたしのブログより同行している荻田泰永くんのブログのほうが詳しいので、そちらを見ましょう。

荻田くんのブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/ogita_exp





コメント (4)
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宇宙創成

2011年03月01日 21時47分01秒 | 書籍
宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)
サイモン シン
新潮社


サイモン・シン「宇宙創成」を読む。古代ギリシアの哲学者たちが考えだした宇宙観が、科学史的な暗黒時代だった中世を経て、いかに現代のビッグバン宇宙論にまで辿り着いたかを、シン独特のどんな科学音痴でも理解できる巧妙な語り口で紡ぎだしている。

高校時代、数学や化学はいつも赤点、化学にいたっては隣の生徒の答案をカンニングしたら、そいつが予想以上に出来のいいヤツで、自分もついでに学年5番くらいの点数を取ってしまったことがあるほどの理系音痴の私でも、アインシュタインの一般相対性理論を理解できたような気になるからサイモン・シンは恐ろしい。

昔、シンのデビュー作「フェルマーの最終定理」を読んで、数学者というのはなんてカッコいいんだろうと感銘を受けたことがあったが、今回もどうして自分は宇宙物理学者の道を志さなかったのか、少し後悔した。このブログを読んでいる少年少女は(おそらくいないだろうが)、探検家ではなく宇宙物理学者をめざすことをオススメする。

ちなみに現在、北極圏バフィン島の町イカルイットに滞在中。気温はマイナス25度から35度ほど。いまのところ寒さよりも空気が乾燥していることの方がつらい。カナダ入国以来、のどの痛みが収まらない。この国の人ののどはいったいどうなっているのか、不思議で仕方がない。

明日から訓練のため、ちょっと長めのキャンプ生活に突入する予定である。
コメント (3)
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