ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

苦役列車

2011年01月31日 23時39分42秒 | 書籍
苦役列車
西村 賢太
新潮社


西村賢太「苦役列車」を読む。言わずと知れた芥川賞受賞作。まだ表題作しか読んでいないが、職人芸的に面白い日本語だ。読んでいて、思わず笑ってしまう小説である。下ネタ的な描写が少なくないので、女性が読んでどう思うのかは不明であるが、男なら楽しめる。

簡単に言うと、うだうだと自分がいかにダメかを書いているのだが、ひとつひとつの言葉のなかに高度なユーモアがあふれている。ユーモアというのは、周囲の状況から自分を外に置いて客観視し、自分を笑えないと生まれない。さすがに平成の私小説家だけあって、自分の客体化はほとんど芸術の域に達している。

個人的には、こういう文体って理想的だなと思った。ぜひ読んでもらいたい、男には。
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荒川河川敷の治安

2011年01月31日 18時35分22秒 | 雑記
新年そうそうのよくないことが、今も続いている。

先週の土曜日、最近のマイブームであるタイヤ引きをおこなうため、さっそうと戸田橋周辺の荒川河川敷に向かった。自転車をこぐこと約40分、いつものように少年野球の練習を横目に見ながら、草むらのタイヤの保管場所に向かうと、ストックが盗まれていた。

盗まれたのは10年くらい前に購入したブラックダイアモンド社のスキー用ストックで、調節機能が一段ついていた。たたんでも長さが70~80センチあり、いちいち持ち運びするのが面倒なので、タイヤと一緒に草むらに置きっぱなしにしていたのだ。

別にストックがなくてもタイヤはひけるが、しかし北極の現場ではスキーで移動しながらソリをひくので、やはりストックと連動した足の動きが重要だよな、などと思い、その日はタイヤを引くのを断念し、自転車で東長崎まで戻って、そのまま新宿のICIスポーツで新品のストックを購入した。

新品のストックは調節機能が二段で、これならたたむと50センチくらいになるので、持ち運びに便利である。本日はその新品をもって荒川河川敷でタイヤをひいた。しかしトレーニングも終了し、帰宅するため自転車をまたぐと、今度は自転車のLEDライトが消えていた。わたしが汗と鼻水をたらしつつタイヤをひいている間に、賊に盗まれてしまったらしい。まあ、盗まれたLEDライトは接触不良で、もはや20回に1回くらいしか点灯しない代物だったので、買いかえるきっかけになり良かったくらいだが。賊も盗む前に点灯状態を確認すべきであった。焦っていたのだろう。

それにしても戸田橋周辺の荒川河川敷、なんという治安の悪い場所であろうか。いったいどこのどいつがわたしの役に立たなくなったLEDライトやストックを盗むのだろう。ひょっとしたら、ストーカー?

そういえば例のタワシはまだ見つからず、シンクの三角コーナーは今や緑茶色のゲル状物質がこびりつき、冬にもかかわらず富栄養化の状態を呈している。早急にタワシが必要である。

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2月3日北海道で講演会

2011年01月27日 11時20分12秒 | お知らせ
2月3日に札幌で講演会を開きます。わたしの母方のおじが札幌で進学塾をやっていて、その関係です。

場所は札幌市西区民センター(同区琴似2条7丁目)、入場無料。朝日新聞によると「第1部では、角幡さんが、峡谷などで撮影したスライドを使って体験を話す。第2部では、角幡さんが参加者の質問に答え、語り合う」予定です。

先着50人。問い合わせ、申し込みは進学塾「向学会」(011・616・4005)へ。

   *   *

昨日の講演会もたくさんの方に来ていただきました。どうもありがとうございます。おかげさまで「空白の五マイル」の売れ行きは好調で、現在4刷まで決まっています。ご購入いただいた方に改めてお礼申し上げます。
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講演会のお知らせ

2011年01月24日 12時22分59秒 | お知らせ
今週水曜日夜に新宿で、憚りながら、講演会を開きます。主催者によると、まだ10人ほど空きがあるようなので、興味のある方はいらっしゃってください。ビジネスマンや学生など、しっかりとした目標を持っている人が対象のようなので、ツアンポーの探検よりも、わたしの社会人経験なども含めたこれまで歩みみたいのを中心に話そうと思います。

演題は「冒険的人生のすすめ」ということになっていますが、現在プレゼン資料作成中で、ちょっと変わるかも。

以下詳細です。

■演題 :『冒険的人生のススメ!』
「空白の五マイル」~開高健賞・角幡唯介氏
講演 : 角幡唯介氏 (冒険家/作家)
日時 :2010年1月26日(水)19時~22時 (懇親会あり)

■講演内容
・そもそも「冒険家」「作家」を志すようになったきっかけ
・早稲田大学探検部での経験
・開高健賞受賞「空白の五マイル」を書くきっかけとなった、
チベット、ツアンポー峡谷探検について
・朝日新聞記者時代の仕事、経験
・これからどういう冒険をしたいか

■対象
・日常・非日常問わず「冒険したい」ビジネスマン、学生
・新聞、出版、作家活動等に興味のある方
・面白いことが大好き、好奇心旺盛な方々

■日時 2010年1月26日(水)
19:00 開場
19:30~20:50 講演/質問等
21:00~22:30 懇親会(軽食、お酒をご用意)

■場所
株式会社フォトクリエイト オープンスペース(タツミビル2F)
※フォトクリエイト本社へのアクセス↓
http://www.photocreate.co.jp/company/map_tokyo.html

都営大江戸線 西新宿5丁目駅/都庁前駅 各駅より徒歩5分
丸ノ内線 西新宿駅から7分
JR新宿駅から永福町行きバス10分 十二社池の下下車

■会費
社会人3,000円/学生2,000円 (懇親会費込)
参加者約40名で〆切ります!(予定)

参加をご希望される方は以下のフォーマットにご記入の上、
フォトクリエイト事務局
担当:並木 namiki@photocreate.co.jp まで
1/21(金)頃までにご返信ください。


●お申込み記入フォーマット●

========================================
1月26日の角幡氏講演会に参加します。
会社・学校・団体名:
氏名(代表者):
連絡先(メール):
参加人数(団体の場合):
何か一言(あれば):
========================================
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北西航路縦断養成マシン

2011年01月20日 18時27分12秒 | 雑記
よく一緒に山に行く、群馬県のSさんからとんでもない贈り物が、佐川急便の営業所にとどいた。北極徒歩旅行訓練用のタイヤである。年末に塩沢に行った時に、極地探検の訓練にはタイヤひくのがいいみたいですと話したら、本当に送ってくれてしまった! おかげで、本当にタイヤをひいて訓練しなくてはならなくなった……。どうしよう。

本日、戸田橋近くの佐川急便にタイヤを取りに行ってきた。でかい! しかも二つもある。ザックにロープでくくりつけ、荒川河川敷まで、チャリンコに乗って運搬したが、大変だった。ありがたいことに、ハーネスからのロープが通せるように、タイヤに穴を開けてくれている。しかもロープつき。おまけに、上に重りを載せても落ちないように、タイヤの真中にコンパネで作った特製の荷台まで作ってある。

風邪気味ではあるが、Sさんの期待にこたえるため、近くの土嚢をタイヤに載せて、1時間ほどひいてみた。タイヤの自重も合わせて60キロくらいであろうか。横の球場で練習している野球部員たちからの好奇の視線が痛い。最初は尻の筋肉に疲労を感じたが、すぐに要領を覚えて、それほど苦痛を感じずにひけるようになった。次はもっと重量を増やしてひいてみよう。

以前、ノルウェーの有名な極地探検家ボルゲ・オズランドがタイヤをひいてトレーニングしている写真を、ナショジオのホームページで見て、こんな大人にはなりたくないなと思ったものだが……。Sさん、どうもありがとう。
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やっと届いた本

2011年01月18日 14時20分36秒 | 雑記
妻と最期の十日間 (集英社新書)
桃井 和馬
集英社


昨晩は探検部OBの太田さんと、フォトジャーナリストの桃井和馬さんと飲む。桃井さんとお会いしたのは二年半ぶりくらい。今年の開高賞の最終選考で当落が分かれたので、会う前は少し気まずい思いがないでもなかったが、別に桃井さんにもそういうわだかまりはないみたいで、楽しく飲めた。書くことは業であるという言葉が重かった。

桃井さんの本は集英社ノンフィクション新書から発売されている。奥さんを突然亡くされた時の体験をつづったもので、涙を流さずには読めない内容である。

Exploring Polar Frontiers: A Historical Encyclopedia
クリエーター情報なし
ABC-Clio Inc


二日前から風邪気味で、飲み会は早めに撤収。昨日は11時間ほど爆睡する。コンコンというノックで目を覚ました。四か月ほど前にアマゾンで注文していたウィリアム・ジェームズ・ミルズ「エクスプロリング・ポーラー・フロンティアーズ」という洋書がようやく届いたのだ。北極と南極の探検に関する辞典で、上下巻あわせて800ページほど。値段は226ドルなので、二万円近い。今までで購入した本の中で一番高額な本だ。注文しても全然届かないので、何度もクレームを出した経緯がある。

こういう重厚な本は本棚に置いた時の存在感に満足してしまい、二度と手に取らないケースがあるので気をつけたい。注文した時はまだ北極探検について勉強不足だったので重宝しただろうが、今となってはだいぶ理解で進んだので必要ないかもしれない。届かなかった四カ月の間に、本の価値はわたしの中で150ドル近く低下してしまった。

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ハーモニー

2011年01月15日 12時03分53秒 | 書籍
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃
早川書房


伊藤計劃「ハーモニー」を読む。「虐殺器官」もそうだったが、物語の舞台設定に恐ろしくリアリティーを感じるところが、伊藤計劃の小説のすごいところだ。

「ハーモニー」の舞台は現代の政治的、社会的なパラダイムが影響力を失った、生命至上主義社会である。健康が最も価値を持った社会だ。生命至上主義社会において、人間は体内にインストールした分子機器で、病気やストレスの兆候を事前に読み取り、そのリスクを排除している。老い以外に死へのリスクはない。このようなリスク回避的な傾向は人間同士の関係性の中にも現れ、他者を傷つけるような言動、行為は、モラルとしてすべて避けなければならない。倒錯した慈愛にみちた、窮屈でやさしくて、生きにくい社会である。

このような社会を伊藤計劃は、不安定でリスクに満ちた自然を管理下におこうとしてきた人間の歴史の必然であるととらえている。人間の肉体こそが、まだ管理できていない残された自然の一部であると定義し、ハーモニー的社会において、ついに人間は自らの肉体を完璧にコントロールすることに成功する。そして残された最後の自然は人間の意識である。意識をどのように封印するかをめぐり、小説は進んでいく。人間は自然の管理を進め、その結果、自らの肉体、意識までも管理に置こうとして、そして人間であることをやめていくのだ。

今の日本の社会を覆う異常なまでのリスク回避的な傾向、健康への不健康なまでの傾斜を思うと、ハーモニーで描かれたような生命至上主義的な社会には非常に説得力を感じる。以前、フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」の中で、現代の資本主義と民主主義こそ人間の社会制度の最終的な姿であり、その意味で歴史はすでに終わっているとの論を展開したが、伊藤計劃の小説は完全にその先を行っている。夭折が惜しまれる。

*  *

夜は第二回しんこうえんじの会。極地探検家舟津圭三さんが、1989~90年の犬ぞり南極横断のスライドを披露。北極旅行に向けて非常に刺激になった。

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早川荘

2011年01月12日 16時37分57秒 | 雑記
午前中、NHKラジオの「ラジオビタミン」に出演させていただいた。このブログでも事前に告知しようと思っていたが、すっかり忘れていた。集英社の方から番組を収録したものをメールで送ってくれた。さっそく聴いてみたが、自分の声というのは、まったく聴くに堪えない代物だ。たまらず5分くらいで聴くのをやめてしまった。

午後は東京商工会議所のツインアーチという冊子の取材で、大学生の時に住んでいた早稲田の早川荘というアパートに向かう。タテバヤシさんという管理人のおばさんと久方ぶりの再会を果たし、取材スタッフを横で待たせたまま昔話に花を咲かせてしまった。

わたしが住んでいた当時は、早川荘新館という、新館とは名ばかりの四畳半一間のぼろアパートだったが、今ではハヤカワアネックスなる、さらに意味が不明な横文字の、瀟洒な鉄筋コンクリートのマンションに代わっていた。おかげで、わたしの隣の部屋に住んでいた劇団員Mは家賃を払えなくなり、近くの別のぼろアパートに引っ越したという。非常になつかしてく、話がはずんだ。

肝心の取材のほうであるが、東京の思い出の場所について語るという趣旨であったが、よく考えてみると、早川荘に住んでいた時代は、ただアパートと探検部の部室を日々往復していただけなので、特に話すこともなく困ってしまった。大学時代の思い出というのは、その場所でうだうだしていたというのが思い出で、本人にとってはどことなく切ない大事な記憶なのだが、何かが起きていたわけではないので、他人が聞いてもさっぱり面白くないのである。

早川荘ではなく、もう少し別の場所を探すべきだった。
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塩沢右俣

2011年01月10日 23時11分53秒 | クライミング
三連休は錫杖岳でクライミング! と思っていたが、天気が悪そうなので、パートナーの探検部後輩Sと相談の上、目的地を南アルプスに変更。結局、年末のリベンジということで塩沢に向かった。

金曜夜に東京出発。翌日未明、茅野駅でSの車に拾われ戸台へ。寒波が来ているらしく、めちゃくちゃ寒い。尾勝谷出合で数時間、車中泊し、9時半ごろから登り始める。右俣をつめ、F1~F4を登ったところで幕営。翌日、F10を登り終わったのが10時半ごろ。このペースだと余裕で仙丈ケ岳を越え、北沢峠に抜けられると思ったが、谷の源頭部の吹きだまりのラッセルが半端ではなく、稜線に出たのが午後4時前になる。さらに一般登山道もフカフカ腰ラッセルで、仙丈はあきらめ、馬の背から林道経由で下山した。

氷結状態は完璧。核心のF10が5級あるぐらいで、あとは登りやすくて、快適な高さの滝が連続する、静かでいいルートだった。今回はアイゼンの部品も適切に装着し、準備万端整えた、と思っていたが、カメラのバッテリーが切れていた。Sのカメラもバッテリー切れで、一枚も写真を撮影できなかったのが残念。まあ、雪崩に遭わなかっただけ、よしとしよう。
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タワシ

2011年01月06日 22時21分44秒 | 雑記
新年早々、ついていないことが続いている。

まず、ipodを壊してしまった。夜のランニング後、ポケットにipodを入れたのを忘れたまま、ウインドブレーカーを洗濯してしまったのだ。気付いた時は後の祭り。水をしっかりと内部に含み、重さが二倍くらいになっていた。ボタンを押しても反応なし。合掌。

さらに本日、台所のシンクにおいてあるはずのタワシがどこかにいってしまった。タワシがないと三角コーナーの網の目にこびりついた汚い脂分などを落とせない。どこに行ったのか、台所周辺の細かなすき間なども丹念に探したが、どこにも見つからない。どういうことだろうと思い、はっと気がついた。

ひょっとしたら……、ストーカー?

開高賞受賞後、わたしも新聞、週刊誌、ラジオなどのメディアにささやかながら何度か登場させていただいた。その結果、わたしにも幾人かのファンができて、その一部が暴走し、西武池袋線東長崎駅などで密かにわたしを待ち伏せ、追跡し、自宅アパートを突き止め、張り込み、留守時を見計らって侵入、ついには盗みをはたらいた、ということか……。

だが、なぜタワシを狙ったのだろう。確かにわたしの部屋にはこれといって金目のものは見当たらないが、多少努力すれば通帳等もどこかにあるはずで、タワシよりはカネになるだろう。あ、そうか。賊の目的は金銭的価値の高い物品の入手にあるわけではなく、ストーキング、すなわちわたしとのなんらかの触れ合いにあるのだから、銀行通帳よりもタワシのほうが目的に近いということであるのか!

とかなんとか思いながら、朝、三角コーナーの汚い脂分を指でこそぎ落とした。最近、北海道の実家から大量の羊肉が送られてきて、それを毎日食いまくっているので、三角コーナーの脂分は頑固なのである。おまけにわたしのアパートはお湯がでないうえ、冬なので水温も低く、羊の脂分は硬化するので余計落ちにくい。

というわけでタワシが必要なのだが、夜になっても見つからない。どこいったんだろう。

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