ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

北極はいかに冒険されるべきか

2010年05月27日 08時59分36秒 | 探検・冒険
日本で最後の北極冒険家、荻田泰永さんが北磁極の旅から戻り、東京の方にやって来たので、雑誌の記事に載せるためにインタビューさせてもらった。その後、極地に何度も行っているテレビ関係者、極地に行ったことがないのにその歴史についてはめっぽう詳しい雑誌編集者など3人が合流し、新宿のさびれた居酒屋で大いに盛り上がった。

議題は、極地における冒険の今日的意義とその意義を損なわしかねない諸条件の解決策について。つまり、カネさえ払えば極点すら飛行機で行けるようになった現代において、極地における旅はどのようにおこなえばより創造的な、本物の冒険になるのか、という点についてである(最近、たまたまコンパした旅行業界関係者の某添乗員によると、700万円払えばよぼよぼのじいさんでも南極点に行けるらしい。氷の下でスコットが泣いているに違いない)。

極地における冒険が、冒険的でないように見えてしまう主な原因は次の二つ。飛行機による物資の輸送およびピックアップ=救助体制と、衛星携帯電話の使用が、ほぼ無批判に計画遂行の前提条件となっていることだ。できるだけ他人からの援助なしに自力で行為を完結させることが、現代における美しい冒険のひとつの条件になっていることから考えると、この二点はできるだけ排除するのが望ましい。ただ飛行機を使わないとなると、極点からの復路も歩くんですか、という点が問題になってくる。復路の分の食料や燃料までソリで引いて極点まで歩くのは難しいので、飛行機を使わないとなれば途中に自力でデポを設けるしかないのだが、荻田さんによると北極の氷は海の真中に漂流する物体にすぎないので、帰る時にデポを見つけることは不可能だという。

じゃあ極点からのピックアップは必要悪として認めるにしても、衛星携帯電話の使用はどのように考えたらいいだろう。電話で外部との接触手段を保つということは、いざという時に助けを呼べるということを意味する。冒険の意味が命を危険にさらすことにより何かを得ることにあるのなら、電話の保持は冒険をすることの意義自体を損なわせてしまうのではないか、と指摘することは可能なのである。しかし極点からピックアップしてもらうことを前提に計画をたてるなら、現実的には飛行機を呼ぶために衛星電話は必要になってくる。

しかし生き物を食って山々を散策するという独自のスタイルで登山行為の意味を追及している雑誌編集者H氏は、ピックアップの日にちをあらかじめ決めておいて、それに間に合わないようなら自分で帰って来ればいい、という単純な解決策を披露し、なかなか斬新だと極地関係者をうならせた。おまけに氏は「財布を持たずコメを20キロ担いで、家から北極に行って帰ってくる」という究極形も提示。道中、働き、生き物を食べ、ノグソをし、舟を作り、アザラシを殺し、その肉を氷の上にデポし、極点に到達し、「いやー、北極に行くのに20年かかったよ」と言って自宅に戻ってきたら、それはかっこいいというわけだ。

まあ、そりゃそうだけど、できることとできないことがあるわけで、私がやったツアンポー峡谷の旅も、最も美しいのはインドかネパールからチベットに密入国して、ツアンポー峡谷の無人地帯を完全踏破というのが最上だなと思ったが、それはできなかった。結局、登山や冒険は極めて個人的な行為なのだから、どのようにおこなえば納得できるかたちにおさまるか、自分なりの妥協点を見つけることが必要である、というなんの面白みもない結論を得て飲み会は終わったのだった。

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剱岳R4

2010年05月05日 10時30分47秒 | クライミング
連休は剱岳R4。日本で5本の指に入る「見た目が格好いいアルパイン・アイスルート」(かくはた選定)の一つである。山を登るうえで、ルートの見た目が格好いいかどうかというのは非常に重要なポイントで、こういうルートを登ると、ああ、おれ今、あの格好いい氷のガリーを登ってるんだなと、大変、自己満足にひたることができる。ナルシストクライマーにはお勧めのルートである。

登ったのは5月3日。R4を登るためにここ18年(15年? 13年? 忘れた)で4度(3度?)だかそれくらい通ったという同行のSさんによると、今年の氷結状態は過去に見たことがないというくらいばっちり氷っていて、なおかつ今後、何年も現れないだろういうくらいの好条件に恵まれた。

ネットの記録を見ると、1P目と2P目で苦労しているパーティーが多かったようだが、今年の氷の状態だと何の問題もなく登れてしまった。むしろ、問題だったのは私の左腕で、神経痛が悪化して伸ばすと激痛が走り、これはひどく問題だった(34歳なのに大変ですね、って誰かに言ってもらいたいなあ)。

実質4ピッチ。登りきると、長次郎の頭から氷雪におおわれたドーム右稜が切れ落ちていて、今度登る時はぜひあそこに継続したい、と思わせる光景だ。

ちなみにR4の下のR7かR8に、すごい氷瀑がかかっていた。登れないこともなさそうだったが、ギアが足りずに断念。今度、ここに来た時にこのルンゼがこれほど氷っていることはないだろうから、もう二度とお目にかかれないのかもしれない。



R7? R8?
コメント (9)
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