ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

信仰が人を殺すとき

2009年10月24日 18時28分48秒 | 書籍
 ジョン・クラカワーと言えば、エベレストの大量遭難を描いた「空へ」や、アラスカの原野をひとり彷徨い死んだクリス・マッカンドラスの評伝「荒野へ」などで有名なノンフィクション作家で、僕も大好きなのですが、この作品は読んだことがありませんでした。というかこんな作品が出ていることさえ知らず、アマゾンでたまたま見つけ、速攻で購入しました。

 宗教については何の知識もないし、それほど関心もありませんでしが、そんな僕でもなんて面白いんだ!と思いながら一気に読むことができました。その理由はこの本の主題がモルモン原理主義の思いもよらない過激な側面についてスポットをあてていることにももちろんありますが、クラカワーの描写力が優れていることに最大の要因があります。膨大な資料を読みこなしインタビューで本音を聞き出す取材力、揺るがない見解、彼独特の皮肉が適度に利いた、飽きの来ないスリリングな文章は、ほとんどノンフィクション作家として完璧のように思えます。とりわけ章の末尾にくる文章やシーンの展開は読者の関心がとぎれないようによく練られていて、良質なミステリー小説を読んでいるかのようです。

 ただ四百ページを超える大冊で、文字も小さい。「空へ」「荒野へ」以外にクラカワーには「エベレストより高い山」というエッセイ集が文庫本で出ていますので、目が悪い人や忙しい人、お金のあまりない人にはそちらをお勧めします。「信仰」とは全然関係ありませんが、クラカワー自身、実は若い時は先鋭的な登山家で、その彼が一般にはなじみの薄いクライマーたちの奇特な世界をユーモアたっぷりに描いています。とても面白く読める、隠れたクラカワーの最高傑作かもしれません。


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錫杖岳 見張り塔からずっと

2009年10月13日 14時29分06秒 | クライミング
 取材で知り合った群馬県のSさんに誘われ、週末、錫杖岳に行って来た。Sさんの大学山岳部後輩のS君、T君が同行。11日に僕はT君と組んで北沢大滝から錫杖岳本峰につき上げる「見張り塔からずっと」を登った。

 まずは北沢大滝の3、4級の簡単な左壁を3ピッチほど登る。すると左側に緩やかなスラブが現れる。トポを見るとこのスラブを登るみたいだが、その先の中央稜の藪こぎが面倒くさそう。ということでルートを外れ、沢をつめて上部岩壁にアプローチしてみたら、案の定迷ってしまった。これから登る人はちゃんとトポどおりにスラブを登りましょう。

 その後に現れる上部岩壁の最初の2ピッチが核心だ。1ピッチ目は洞穴左のクラックを登るのが一般的らしいが、濡れていていやらしそう。T君はホールドが豊富で乾いているカンテから登った。カムで支点も取れるので、傾斜のある壁を豪快に越えられる。次のピッチはかなり痺れる。凹状のクラックで支点をとり、外傾して湿ったホールドを頼りに右へトラバースするが、左手で甘いホールドに耐えて右足を踏み出すところがいやらしい。その先でクラックがあるのでランナーを固め取りして、ガバが連続するフェースをランナウトして左上する。

 後続パーティーは核心2ピッチを避け、洞穴右のフェースを登っていた。簡単らしいが、この2ピッチを登らないとただの3級が連続するつまらないルートになってしまうような気が……。

 その後は緩いスラブと草つき、ちょっとの岩を登ると頂上へつき上げる。翌日は1ルンゼを登る予定だったが、S君が夕方までに会社へ行かなければならないことになり下山。

 1ルンゼはやっぱ冬に登りたいな。

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マン・オン・ワイヤー

2009年10月12日 21時30分29秒 | 書籍
 だいぶ前から見たくて見たくてたまらない映画があった。2008年度アカデミー賞(最優秀ドキュメンタリー部門)を受賞した「マン・オン・ワイヤー」という映画である。以前、愛聴していたTBSラジオ・ストリームで町山智浩が絶賛していた。フランスの「綱渡士」(!?)が当時完成したばかりのワールド・トレード・センターで、厳しい警備の目をかいくぐってワイヤーを仕掛け、綱渡りを敢行するというコアな冒険ドキュメンタリーである。

 何十メートル、何トンもある鋼鉄ワイヤーをいったいどうやって仕掛けたのか知りたくて知りたくてたまらず、8月にインドから帰国したらすぐにネットで上映スケジュールをチェックした。でもおしいことにタッチの差で都内近郊での上映は終了していた。

 しかし最近、そういえばそろそろDVDになったかなと思いアマゾンで調べると、綱渡士本人であるフィリップ・プティが書いた本の日本語版が出版されているのを発見! その場で購入した。

 本の帯には「史上最も美しい犯罪」との文句が踊るが、それも納得。綱渡り自体のすごさも去ることながら、それを実行するために行った事前の偵察活動が圧巻だ。ビルの屋上のどこにどうやって、どの道具を使って鋼鉄ワイヤーを張るかを調べるため、設計図の入手はもちろんのこと、建築誌のジャーナリストを装い広報担当者に屋上でインタビューしたり、ビルの内部に協力者を作ったりとまさにスパイ顔負けの情報活動を展開している。実際、綱渡りが成功した後はビルの管理責任者に乞われて、警備のどこに穴があるのか講義したというから笑える。うーん、早く映画も見たい。

 ところでストリームは復活しないのかな。後継番組はパーソナリティーのしゃべりがただのおばちゃんの世間話状態になっちゃってて、正直聴くに値しない。町山さんは金曜日に映画コラム持ってるけど、番組自体がつまらないので聞かなくなってしまった。小西克哉もコメンテーターより司会の方がうまいよな。
 

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