ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

怒涛の秋 トーク・講演のお知らせ

2014年09月22日 22時58分47秒 | お知らせ
9月末から10月頭にかけて、イベント・講演をいくつか行います。

直前になってしまいましたが、24日に原宿駅前のデサントショップ東京で、トークイベント「探検家だけが知る地球の果ての風景」を開催します。
今年のグリーンランド行のスライドを中心にお話しようと思います。
18時半~20時(会場18時) 入場料1000円
詳細はhttp://www.descente.jp/shoptokyo/event27/

27日に「日本ジオパーク南アルプス大会」で基調講演をします。題は「山と冒険~南アルプスから地図のない世界」。
南アルプスは学生の時から親しんできた山域なので、その思い出と、南アルプスでの登山がその後の探検にどのように結びついたかといった話になるでしょうか。
会場は長野県伊那文化会館大ホール。14時半~16時。
詳細はhttp://minamialps-mtl-geo.jp/pr/

10月4日 広島県山岳連盟主催の講演会があります。タイトルは「北極圏を行く」。
今年のグリーンランドと来年以降の極夜探検の展望について語ります。
会場は広島市西区民文化センター。13時~14時半(12時半開場)。2000円
詳細はhttp://hiroshima-gakuren.or.jp/modules/eguide/

さらにこの他に千葉県の企業で講演×1、日本山岳会図書委員で本に関するトーク×1、集英社関連の高校生図書委員への講演×1、日本山岳会北海道支部主催の講演(すでに予約締切)×1、その合間にフィリピンへの取材旅行4泊5日と「怒涛の秋2014」を迎える。

執筆ができない。どうしよう。うわあああ。

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アグルーカ文庫化とフランクリン隊の船発見について

2014年09月19日 14時30分23秒 | 雑記


『アグルーカ』が文庫化された。基本的に大きな加筆・修正はないが、イヌイットの名前や言葉の発音の表記を直した。単行本のときは正確な発音がわからず、ローマ字読みで表記したのが多かったのだが、文庫化に際し、カナダ北極圏のイヌイット文化に関しての著作がある清水弘文堂の磯貝日月さんに協力していただき、現地の研究者に見てもらって、なるべく正確な表記に直すことにした。あとはあとがきを書いたのと、書評家の東えりかさんの丁寧な解説が加わっている。

そういえば、『アグルーカ』文庫化とタイミングを合わせるかのように、カナダからフランクリン隊の船が発見されたとのニュースが届いた。ぼくらがこの旅をしていた頃から、カナダ政府はフランクリン隊の沈没船を捜索していたので、そのうち見つかるとは思っていたが、まさかこのタイミングで……と驚いた。

近年、北極圏では氷の減少に伴い、カナダ、ロシア、アメリカ、北欧諸国、さらには中国も加わり、将来の資源開発や利権をめぐる綱引きが激しくなっている。『アグルーカ』でも描いた北西航路はこれまで年間のほとんどの期間が氷に覆われたため、航路としては事実上使えなかったのだが、温暖化に伴う氷の減少で数十年後には本格的に開通すると言われている。数世紀前の探検家の夢であるヨーロッパからアジアへの近道がついに一本のルートとして地球上に姿を現すかもしれないのである。

その北西航路はグリーンランドを南から回り込み極北カナダの多島海を抜けてベーリング海峡へつながっていく。そのためカナダは航路の主権を主張し、一方、カナダに航路の利権を奪われたくないアメリカは反論している。今回のカナダ政府の沈没船捜索事業はこうした国際政治の流れのなかでの一種の政治的パフォーマンスとしての性格が強いのだと私は理解している。なにしろフランクリン隊は北西航路探検の象徴だったのだ。

ちなみに報道ではこの発見された船について、フランクリン隊のエレバス号かテラー号のどちらかわからないと報じられているが、これはおそらくテラー号に間違いないと思われる。フランクリン隊が遭難した後に多くのイギリスやアメリカの探検隊が捜索に向かったが、そのなかのある隊が今回カナダ当局が捜索していたあたりの海域で、現地のイヌイットがフランクリン隊の沈没船のものだとする遺物を発見しており、そこには〝or″、つまりTerror号の名前の一部だと思われる文字が残っていたと記録されているからだ。

当時、この海域はOotgoolikとイヌイットから呼ばれていた。イヌイットは漂流するテラー号と思われる船に何度も入り込み、橇や生活道具に使うために木材を運び出していた。彼らの証言によるとこの船の中には体の大きな白人の死体や、まだ手を付けていない未開封の缶詰などが残っていたらしく、もしかしたら今回の沈没船の中からそうした物証が見つかるかもしれない。またOotgoolikの近くのアデレード半島には、この漂流船を脱出したフランクリン隊の生き残りと一匹の犬の足跡が東に向かって続いていたらしく、この生き残りの行方はまったく知られていない。

『アグルーカ』ではこうしたテラー号にまつわる謎にまでは触れることができなかったが、フランクリン隊に関しては興味深い謎がまだたくさん未解決のまま残されており、今回の発見で何かヒントになるような面白い遺物が見つかるかもしれない。

ちなみにイヌイットの証言によると、この沈没船を沈ませたのは、ほかならぬイヌイットたちだった。もっと木材を手に入れるために船体の横に穴を開けたところ、夏になって氷が解けるとその穴から海水が進入し沈没したという話が残っている。その穴も残っているのではないかと、私はひそかに調査の行方を注視している。



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kotoba開高健特集

2014年09月05日 21時18分08秒 | お知らせ
集英社のkotoba(2014年秋号)で開高健が特集されています。私も三十数枚の原稿を寄稿しました。

テーマは『夏の闇』にみる開高健の荒地。開高健は『輝ける闇』のなかで、戦後の荒れ地が自身の生にいかに明確なかたちを与えていたかを述べています。彼にとっての荒れ地とは、われわれ冒険者や登山者における自然と同等のものと考えてさしつかえないと思います。死が身近にあるような荒地が開高健という作家にいかに大きな存在だったかを『日本三文オペラ』『輝ける闇』『夏の闇』という三つの作品を通して論じました。私は『日本三文オペラ』を日本から荒地が失われていく風景を描いた作品、『輝ける闇』は失われた荒地を、開高健がベトナム戦争で取り戻そうとする作品、そして『夏の闇』はベトナム戦争で取り戻した荒地に開高自身が身もだえる作品というふうにみています。

今回の原稿では、荒地をキーワードに三つの作品における開高健の内面の変化と苦悶を描きました。開高健の深いところを抉れた自信はありますので、興味のある方は読んでみてください。

ただ、かなり力を入れて書きましたが、力を入れすぎたのか、ほかの方の原稿と比べると、ちょっと浮いてしまっている感がありますが……。

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