ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

百年前の山を旅する

2010年11月17日 11時56分02秒 | 書籍
百年前の山を旅する
服部文祥
東京新聞出版局


服部文祥の新刊「百年前の山を旅する」を読む。過去二作のサバイバルシリーズとは若干異なり、昔の登山家や荷役衆の足跡をたどることで、現在の登山や文明のあり方に批判的な視点を投げかけている。ただ山に登るとはどういうことかを考えている点は同じだ

あいかわらず秀逸な山岳ルポには脱帽。資料の読み込みや古い装備のことを詳しく調べる能力にも驚いた。ただ単に詳しく情報を引き出すだけにとどまらず、調査で知り得た昔の登山行為や冒険行の意味を物語に転換させている視点が鋭い。さらにそれが面白いところに、もっと感心させられる。情熱大陸しか見てない人は、ただの危ない人という印象を受けるようだが、著書を読むと、頭のいい危ない人であることがよく分かる。

登山のルポは難しい。確固たる視点を持たずに山に行っても、そこには基本的に自然しかなく、対自然は対人間と違いやりとりがないため、文章にメリハリをつけるのが難しいのである。服部さんの山岳ルポが面白いのは、自然と対話し、そこから読者をうならせる発想を得ているからだ。

近くにこういう文章がうまい人がいると本当に困りもんだ。栗城くんの本を読んで登山のことを勘違いしてしまった人は、服部さんの本を読みましょう。

話は変わるが、本の雑誌がWEBで「空白の五マイル」の記事をアップしてくださいました。ありがとうございます。

NEWS本の雑誌
http://www.webdoku.jp/newshz/azuma/2010/11/17/100259.html

杉江由次さんの「帰ってきた炎の営業日誌」
http://www.webdoku.jp/column/sugie/2010/11/17/104057.html

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北極点初到達は虚偽?ならびに「空白の五マイル」発売

2010年11月17日 00時19分10秒 | お知らせ
NHKhiの番組「世界史発掘!時空タイムス編集部『北極点を目指せ!世紀の大冒険に秘められたミステリー』誰が北極点に一番乗りしたのか?探検家ピアリーとクックの主張を検証」を見る。北極点初到達をめぐる疑惑を論証した番組で、ドイツの製作によるドキュメンタリーをもとにしている。ゲストで荻田君が出演していた。

改めて簡単に説明すると、北極点はアメリカの探検家ロバート・ピアリーが1909年4月6日に初到達したとされているが、ピアリーが米国に帰国途中、フレデリック・クックがその前年に初到達していたと主張したものだから、大論争に発展した。政治力と陰謀にたけたピアリーがクックの到達は虚偽であったとのキャンペーンを仕掛け、クックは世紀のペテン師として歴史の闇に葬られた。

番組ではクックを貶めるためにピアリーが用いた買収や証拠隠滅などのえげつない手法も紹介され、北極点初到達をめぐる赤裸々な人間ドラマがよく伝わっていた。クックはクックで、本の中身が日記とは違っていたらしく、クック派のわたしとしては残念である。番組でコメントしていた専門家は、ほぼ全員、二人とも北極点には到達していなかったという点で意見が一致していた。

北極は大陸じゃなく、海の上に氷が漂っているだけなので、到達の証拠が残らない。歴史や自然環境も含めた、そうした茫漠性が北極の魅力といえば魅力である。

北極探検史についてもっと詳しいことを知りたい人は、今年の「岳人」10月号の第二特集「極地探検のいま」を読みましょう。わたしの記事が載っています。→アマゾンで販売中。


空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
角幡 唯介
集英社


「空白の五マイル」は本日発売です。よろしくお願いいたします。


コメント (6)
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