環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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2011-04-15 11:11:00 | 自然災害
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福島第1原発事故後の3月20日から連載を始めた20年前の私の本「いま、環境・エネルギー問題を考える 現実主義の国スウェーデンを通して」の第6章 エネルギー体系修正への挑戦が今日で終わりとなりました。いかかでしたか。私はこの中に日本の将来のエネルギー政策を考えるときにヒントになりそうな事項がかなり含まれていると思っています。この機会に、この本の中で、十分に触れてなかった次の2つの視点を補強しておこうと思います。


原発をなくすだけなら、スウェーデンの「脱原発」は簡単だ

ただ単に原発をなくすだけなら、スウェーデンにとって「脱原発」は技術的には容易なことです。日本のように安い海外炭で火力発電所をつくる(スウェーデンに石炭を売りたい欧州の国はありますし)とか、天然ガス火力発電所をつくるとか、あるいは、水力発電所(開発の余地はかなりある)をさらに新設すればそれですむことです。

しかし、あえてそのような政策をとらなかったのは、スウェーデンのエネルギー政策が原発をなくせばよいとする「単なる脱原発政策」ではなく、1980年以降、「エネルギー体系全体を環境に十分配慮したエネルギー体系に変えていく政策」に発展的に変わってきたからです。

次の関連記事はいかにもスウェーデン的な考え方を示しています。

関連記事
緑の福祉国家25 エネルギー体系の転換④ 水力発電の新規拡張の禁止(2007-04-25) 

日本原子力産業会議の招きで90年5月に来日したスウェーデン・エネルギー庁のハンス・ローデ長官は、東京で開催された「スウェーデンのエネルギー政策に関する講演会」で、「北部4河川の周辺環境は、スウェーデンのみならずヨーロッパ全体に残された自然という観点から保全されなければならない」と述べ、一国のエネルギー政策のために貴重な自然を破壊することは避けなければならないという認識を示しました。



エネルギー体系を修正する原則

日本の原子力関係者の間では比較的よく知られているスウェーデンのエネルギー源に関する“一見矛盾する3つの原則” 

     ①原子力を段階的に廃棄する、
②水力は増やさない、そして、
③化石燃料への依存を少なくする

があります。この3つの原則のもとで「エコロジカルに持続可能な社会を支えるエネルギー体系に転換して行きたい」ということから「再生可能なエネルギーの開発」に予算をつけてきたのです。

その努力を1980年から現在まで、およそ30年間ずっと続けてきました。けれども、最初に想定されたほど簡単には再生可能エネルギー主体のエネルギー体系を構築するのは難しく、結局、政治的には原発を2基廃棄しただけに終わりました


これまでの話は国際的な冷戦構造のもとでスウェーデンの国内事情だけで原発を段階的に廃棄するという話だったのですが、90年代後半になりますとナショナル・グリッド(国の電力網)も国内だけでなく隣国と連携するようになり、スウェーデン国内だけでエネルギー問題を完結させるという考えは、時代の流れに合わなくなりました。1995年に、スウェーデンはEUに加盟したからです。

日本の原発推進派の人たちがおそらく気づいていないことは、スウェーデンが今日までのおよそ30年間に確かに原発を2基しか廃棄しなかったけれども、この間「再生可能エネルギーの開発」や「熱の有効利用」に継続的に予算をつけて研究開発を続けてきたという事実です。

ですから、その積み重ねというのはものすごいものがあります。特に「熱利用技術」の分野で、スウェーデンは現在、おそらく世界一の技術を持っていると思います。スウェーデンのエネルギー政策の基本は、日本と違って、「電力だけでなくエネルギー全体の総量を減らすに方向に持っていかなければ環境・エネルギー問題は解決できない」と考えている点にあります。ですから、まず、省エネです。

関連記事
不十分な日本の「省エネルギー」という概念、 正しくは「エネルギー効率の改善」という概念だ!(2007-11-26) 

「省エネルギー」の考え方(2007-11-27)



日本の省エネの意味は「総量の削減」ではなく、「原単位の向上」  

「日本の省エネ」はこれまでのところ、エネルギーの総量を減らすという方向にはありません。
私が不思議に思うのは、「日本の省エネ」の概念です。政府の政策担当者や歴代の首相も経済界のリーダーも評論家も、そして、マスメディアもそろって「日本は世界に冠たる省エネ国家だ」「世界に冠たる日本の省エネ技術で世界をリードする」「日本は乾いた雑巾を絞るような・・・・・」などと言うのです。

たとえば、2009年になって日本の経済界が「温暖化に関する意見広告」を2回出しました。全国紙の全面広告です。ご承知だと思いますが、一つは「考えてみませんか? 私たちみんなの負担。」(2009年3月17日)です。もう一つは「考えてみませんか? 日本にふさわしい目標を。」(2009年5月21日)です。

3月17日の広告には、経済界が「省エネをどう考えるかを示す判断基準」が明確に図示されています。それによりますと、日本の省エネは、「エネルギーの総量を減らすという概念」ではなく、「原単位」と呼ばれる製品ごとの、あるいは、産業分野別ごとの、たとえば鉄鋼業の分野でしたら、鉄1トン作るのにどれだけのエネルギーが必要だったかという相対的な割合を示す 「原単位」とか、「効率化」という概念で、それらを向上させることが省エネだというわけです。 
ですから、日本政府をはじめ政治家、経済界、評論家、マスメディアも日本は省エネの最先端の技術を持っていると言うのですが、日本のエネルギーの総量は、少しも減ってはいないのです。逆に増えています。

CO2も減っていいはずなのですが、全然減っていません。「原単位の向上」、あるいは、「効率化の向上」には一生懸命努力しましたが、それらを向上させてエネルギーの総量の削減をはかるという努力をしてこなかったからです。これが日本の現状です。

 このことは、産業界の立場で「日本の温暖化対策」について、精力的に論評を続けておられる澤 昭裕さん(元通産省環境課長で、現在、日本経団連のシンクタンク「21世紀政策研究所」研究主幹)の近著にはっきりと次のように書かれています。




 つまり、日本が主張する「省エネ」は国際社会が決めた総量規制に対応していないということなのです。