環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

東日本大震災:使用済み燃料 搬出計画(朝日新聞 朝刊)、  景気、震災で下方修正(朝日新聞 夕刊)

2011-04-13 08:05:17 | 自然災害
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                              第6章の目次



エネルギー政策の今後

 スウェーデンのエネルギー政策は福祉政策、環境政策など、国の他の重要政策と整合性のあるものでなければなりません。国の福祉政策を発展させるためには、調和のとれた産業の発展が不可欠です。

 エネルギー事情やエネルギーに対する考え方はその国のおかれた状況により異なるわけですから、エネルギーの選択はその国の国民と政府が一緒になって考えなければなりません。しかし、そこで重要なことは「環境への負荷」を考慮に入れて、エネルギーの総供給量を増やさないような努力が必要となりますし、国際協力が今までにも増して重要になってきます。

 スウェーデンのエネルギー政策を分析する際には、経済的な要因ばかりでなく、環境への配慮、政策の決定に国会がかかわっていること、福祉社会の根底を形づくる公正・平等・連帯などの考え方、平和の希求、オンブズマン制度などに代表される行政のチェック・システム、国の政策決定システムとそれを支える世論への対応手続き(国民の参加)など、スウェーデンが100年前のヨーロッパの最貧国からこの50年間で民主的な福祉国家に変わった過程の中で絶えず模索し、築き上げてきた、わが国にはない社会のさまざまな機構が有機的に機能していることや量的・時間的視点などを考慮に入れた幅広い視点が必要となります。

 最も開かれた民主主義を模索し、実践してきたスウェーデンでは、政府に対する国民の信頼は私たちの予想を越えて厚いものです。200年を超えるというスウェーデンの情報公開制度はその信頼感形成の一要因です。政府機関は国民が議論を起こし、その関心事に国民一人一人が自ら判断を下せるように積極的に情報を公開し、提供しています。意見の異なるものがお互いを理解するためには、共通の情報源から得た共通の資料をもとに議論する必要があるからです。

 スウェーデンは1814年以来、戦争に参加したことのない世界でも珍しい国の一つです。「情報公開制度」に加えて、自らの意志により、およそ180年間守り続けてきた「中立政策」と「自由貿易」という国の基本姿勢もスウェーデンのエネルギー政策を理解する上で忘れてはならない重要な視点です。

 スウェーデンは1980年に掲げた2010年を最終目標年度とす「原発の全廃」を現在でも堅持しています。わが国のジャーナリストや原子力関係者の一部には、スウェーデンはそのエネルギー政策で“苦悩あるいは迷走”しているという表現を好む向きがあります。

 順調に稼働し、しかも自国の原発技術に対して政府や国民がかなりの信頼を寄せている原発を廃棄し、自然破壊の原因となる水力発電の新規拡張を禁止し、さらに、環境の酸性化の原因や二酸化炭素のおもな発生源とされる化石燃料の使用に厳しい規制をした上で、「現行の原発に依存したエネルギー体系」から「持続可能な開発のために、原発に依存しない、環境にやさしい、再生可能なエネルギー体系」への転換をめざすスウェーデンのエネルギー政策を、そのような判断基準を持たない国の視点で現象面だけを見れば、「苦悩あるいは迷走しているように見える」のも当然です。

あえて、「苦悩」という言葉を使うとすれば、スウェーデンは、わが国のように、現在および近未来のエネルギーの「供給量」で苦悩しているのではなく、自らに厳しい条件を課して、2010年以降のエネルギーの「供給の質と量」を修正するために苦悩していると言えるでしょう。 

 スウェーデンが自国の技術で造り上げた原発の安全対策は世界最高水準を行くものですし、しかも原子炉の安定した運転状況は国際原子力機関(IAEA)の高い評価を受けています。正常に運転されているかぎり、スウェーデンの原発は世界で最も安全性の高い原発と言えるでしょう。

 放射性廃棄物の処分も着実に進んでおり、この分野でもスウェーデンは世界のリーダーです。順調に稼働する安全性の高い原発を長時間かけて段階的に廃棄し、環境への影響が少なく、安全でしかも経済的なエネルギー・システムへ転換しようとするスウェーデンの試みは技術論を踏まえた上で、それを越えた政治的判断に基づくものです。

 スウェーデンは原子力を技術的に否定したわけではありませんので、原子力の研究開発は今後も継続されます。スウェーデンは超安全炉(固有安全炉とも言います)のパイオニアでもあり、すでに、1970年代には超安全炉「PIUS」の開発にも着手しています。

 現行のエネルギー政策に反対の主張を要約すれば、

   「国民投票は10年前の技術と知識に基づいた判断であった。なぜ、これだけ安全度が高く、経済性が良く、しかも環境面   でも有利な原発を寿命がくる前に廃棄しようとするのか? 廃棄に伴う社会的、経済的負担があまりにも大き過ぎるのではないか?」

というようなことになるでしょう。

 原発の段階的廃棄は社会全体のコストを考慮して、 スウェーデンの国民と政府が選択したものですし、スウェーデンの脱原発を含むエネルギー政策は国の様々なレベルでの議論を経て、一歩一歩必要な手順を踏まえて今日に至ったものです。

 原発廃棄の方針自体は今後も変らないでしょう。世論が大きく変化し、国会の議席に大きな変化が到来するか、あるいは新しい判断の基準が生まれれば、新しい局面が展開するかも知れませんが、少なくとも今後3年間はエネルギー政策に大きな変化はないでしょう。

 しかし、原発廃棄の最終目標年度の2010年は、まだ、20年近くも先のことであり、今後、5回以上の総選挙があるわけですから、そこに至るまでの経緯を現時点で予想するのは不可能です。

 1990年9月の社民党大会で、社民党は1995年および1996年に予定されていた「早期原発の廃棄時期』の延期」を決定いたしましたが、このことを報じた1990年9月29日付けの朝日新聞はカールソン社民党党首(当時の首相)が次のように演説した報じています。  

   原発で第3の事故が起これば、代替エネルギーの準備がどうあろうと脱原発の声が大きくなるであろう。
   そのためにも、廃止の準備は必要だ。