環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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2011-04-04 09:03:31 | 自然災害
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                              第6章の目次


2015年の環境に適合するエネルギー体系

 スウェーデンでは、過去20年間、総エネルギーの供給量および需要量がほとんど伸びていないという実績がありますが、それでは、2010年に予定どおり原発が廃棄されたとして、その後のエネルギー体系はどのようなものになるのでしょうか?

 その一つのシナリオとして、1990年秋に設定されたチェック・ポイントのために政府の指示により、エネルギー庁と環境保護庁が共同で作成した「環境に適合するエネルギー体系のシナリオ:スウェーデン 2015」と題する報告書があります。ここで、このシナリオを簡単に紹介しておきましょう。

 このシナリオの大前提は、いずれの場合でも、「原子力は全廃、水力は、今後、新規拡張しない」というものです。「基本代替システム」とは環境への配慮にはやや欠けるが、とにかく原発をなくすことを主眼においたシナリオです。これに対して「環境シナリオ」というのがあります。これは原発をなくすと同時に環境に十分配慮したシナリオです。この2とおりの基本的なシナリオに対して、それぞれ経済成長率が高い場合(基本代替システムのGDPの成長率:2.4%、環境シナリオのGDPの成長率:2.3%)と低い場合(いずれの場合もGDPの成長率:1.1%)の2とおりのシナリオがありますので、シナリオは全部で4とおりということになります。


電力需給の収支 

 表13を見てください。1987年の実績に対して、2015年の電力需給の収支をそれぞれのシナリオで外観してみましょう。原子力は2010年までに全廃するということになっていますので、いずれのシナリオでもゼロです。水力はこれ以上新規拡張しないことになっていますので、いずれのシナリオでも66TWhという数字が与えられています。

 
 1987年の水力が71TWhなのに、4とおりのシナリオでは66TWhになっています。この理由は、たまたま、1987年は平年に比べて雨や雪の降水量が多かったということす。平年の降水量は66TWhという実績に基づくものです。

 化石燃料についてみると、「基本代替システム」、すなわち、環境への配慮をやや欠いても脱原発を優先するというシナリオでは、石炭火力は経済成長率が高いシナリオでは60TWhという数字が与えられています。天然ガスを用いた複合発電についても、それぞれ数字が与えられています。ところが、「環境シナリオ」では石炭火力と天然ガス複合発電はゼロとなっています。

 その代わり、何が増えているのかといいますと、一つは風力発電等です。1987年の風力の実績はありませんが、「環境シナリオ」の経済成長率が高い場合のシナリオでは、2015年に23TWhという数字が与えられています。もう一つは「産業背圧発電」、「背圧コ・ジェネレーション」と呼ばれる技術が相当量導入されていることです。これらの技術は既存の技術ですから、今後、意識的に改良を加え、利用していけばこの程度の電力量は賄えるという計算に基づくものです。

 ここで注目すべきことは新たな電源として期待されているものは燃焼を伴わないものあるいは燃焼を伴うものでも環境への負荷が比較的少ないものであることです。産業背圧発電や背圧コ・ジェネレーションと呼ばれる技術は電力多消費産業である紙・パルプ産業、化学工業、鉄鋼業などの産業で用いられている既存の技術で、わが国でも電気事業用ではなく、産業用として上記の電力多消費産業では古くから用いられている技術です。

 このことは、先にも述べましたように、将来のエネルギー・システムは従来の集中型エネルギー供給システムからローカル・エネルギー主体の分散型エネルギー供給システム、すなわち、消費地に密着した分散型エネルギー供給システムへの転換を計ろうとするものであることが理解できるでしょう。

 ここで、もう一つ注目して欲しいことは1987年の総発電電力量(141TWh)が2015年の「環境シナリオ」の経済成長率の高いシナリオでも140TWh、低いシナリオにいたっては104TWhとなっており、今後25年間の供給すべき総発電電力量が増えないように読み取れることです。 


総エネルギー需給の収支 

 これら4とおりのシナリオでは、電力需給の収支だけでなく、総エネルギー需給の収支についても同様の試算があります(表14)。1987年の実績では総エネルギーの供給量は456TWhとなっていますが、「環境シナリオ」の経済成長率が低いシナリオでは442TWhという数字が与えられています。


 ですから、このシナリオをとれば、総エネルギー供給量は、今後、25年間増えないことになります。つまり、このことは過去にさかのぼって1970年から約45年間ほとんど総エネルギー供給量が増えないことを示唆しています。特に環境保護の観点から考えると、総エネルギーの供給量が増えないようなエネルギー体系は環境への負荷を増大しないために望ましいエネルギー体系といえます。

 また、これらのシナリオをもとにして二酸化炭素の排出量も試算されていますし、その他にも、それぞれのシナリオにしたがって、2015年の電力料金、地域暖房料金、燃料価格、工業生産指数など興味深い試算が行われています。以上がスウェーデンのエネルギー庁と環境保護庁が共同で政府に提案した「環境に適合するエネルギー体系のシナリオ:スウェーデン2015」の概要の要約です。