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2011-04-12 11:22:49 | 自然災害
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                              第6章の目次



1991年のエネルギー政策

 3党間で成立した「早期原子炉廃棄の延期に関する合意」に基づいて、政府は1991年2月に「エネルギー政策案」を国会に上程しました。この政策案は6月に承認され、国の正式な「エネルギー政策」となりました。

 この政策の概要を知るために、「政府のエネルギー政策案」の英文要約版『Summary of Government Bill 1990/91:88 on Energy Policy』を参考にしながら、政策案の要点をいくつか拾ってみましょう。この31ページの英文要約版は

   ①政策案の主な内容
   ②エネルギー政策のガイドライン
   ③エネルギーの供給
   ④政府の提案

の4項目と付表から成り、付表には1990年秋のチェックポイントのために、1989年および1990年に公表された16点の調査報告書のリストが掲載されています。

「政策案の主な内容」の項では、スウェーデンのエネルギー政策の目標が「福祉社会の維持」と「環境への配慮」に重点を置いていることを明らかにしつつ、原子炉廃棄の時期と廃棄の速度について、次のように述べています。
   
 エネルギー政策の目標は国際的な競争力の下で、電力およびその他のエネルギーを長期的、短期的に確保し、それにより、スウェーデン国内の良好な経済と社会の発展を促進することである。エネルギー政策は自然で、環境的にも持続可能 なものに基づくものでなければならない。エネルギー体系の修正にあたっては、安全性の要件に加えて、雇用と繁栄の維持に必要な電気エネルギーを考慮に入れて決定しなければならない。

 原子力の段階的廃棄の開始時期と廃棄の速度は

      (イ)節電施策の成果
      (ロ)環境に適合する発電方式による電力の供給、および
      (ハ)国際的競争力を持った電気料金を維持できるかどうか

決定される。

 「エネルギー政策のガイドライン」の項はエネルギー政策の基本原則、新しい発電手段など(1990年代の発電、長期的な発電、自動車燃料用エタノールの生産)、現在より良好な省エネルギーへの道、気候への影響提言の戦略、原子力の安全性の側面からなっています。

 この項では、エネルギー体系とその気候への影響を非常に重視していることに注目する必要があります。ここで興味深いのは、わが国とは違って、原発を二酸化炭素の抑制策として取り上げていない点です。この英文要約版では、原子力にかかわる記述は安全性にかかわる側面に限られています。

 ここでは、「気候への影響を低減する戦略」の部分と「原子力の安全性にかかわる側面」の部分を要約しておきましょう。


気候への影響を低減する戦略

 気候変動の問題(わが国ではしばしば「地球温暖化問題」といいます)に対処するための国内的対応はスウェーデンが他の西欧諸国と連帯して国際的対応に弾みがつくような方法で組織されなければならない。スウェーデンの気候変動に対する戦略は実行性のあるものであって、気候変動にかかわるすべてのガスを対象とし、社会のすべての部門が参加するものでなければならない。
 
 エネルギー部門の二酸化炭素(CO2)排出を可能な限り低く維持するためには、「エネルギー供給を持続性のある、環境にやさしい、しかも、可能であれば、再生可能なエネルギー源を効率的に長期的に利用すること」が必要である。したがって、省エネルギーと再生可能なエネルギー源の利用が気候への影響を低減するための戦略上の極めて重要な基本要因であり、以下に掲げる施策が二酸化炭素の低減の有効な基礎を形づくるものである。
   
 1991年1月1日から導入された二酸化炭素税(二酸化炭素の排出量1トン当たり250クローネ:6250円相当)の導入の下で、次のような総合的な施策を行う。
 
   (イ)効率のよいエネルギー利用
      すでに提案中の省エネルギー推進の強化と同時に、省エネルギーのためのインセンティブ(刺激策)や二酸化炭素の      排出低減を図るための一環として、エネルギー多消費産業の二酸化炭素の削減方法を現在、調査中。

   (ロ)気候への影響の少ない、環境に適合したエネルギー生産
      風力発電、太陽エネルギー、バイオ燃料による電熱併給システム(CHP)      
      など。

   (ハ)交通手段による気候への影響の低減
      二酸化炭素排出量の少ない公共輸送、新車の燃費改善、自動車用アルコールを燃料とする車両(都市部)、高速道路
      の平均走行速度の低減。航空機および船舶からの二酸化炭素排出の低減。

   (ニ)廃棄物処分方法の改善による気候への影響の低減
      メタンの燃焼による廃棄物からのエネルギー回収

   (ホ)農業分野の各種施策


   (へ)各種フロン(CFCs)の廃止
      HCFCs、ハロン、四塩化炭素、トリクロロエチレンなど。

   (ト)揮散性有機物質(ある種の溶剤など)の排出低減


原子力の安全性にかかわる側面

 スウェーデンのすべての原子炉は十分な安全が確保されており、原発には原子炉事故発生時に放射能の漏出を制限するよう設計された技術システム(フィルトラ・システム)が設置されている。政府は、政府の予算案の中に、スウェーデンの原子炉の運転状況および安全性の年次報告を盛り込むこととする。予算案に盛り込まれる報告は原子力監督機関(SKI)および国立放射線防護研究所(SSI)の四季報に基づくものである。
    
 現行の原子力責任法の規定では、原発事故時の原子力産業の責任を8億クローネ(200億円相当)に限定している。スウェーデンの国内法規は西欧諸国で適用されている補償システムと整合しており、2つの国際条約:パリ条約およびその補足条約に基づくものである。

 一般に、責任保険は責任額の120%を賠償しなければならないので、事故時の原子力産業の責任を10億クローネ(250億円相当)強に増額し、責任額を増額すべきである。スウェーデンは原発の安全性に関して特にバルト諸国との2国間支援を行うべきである。

「エネルギー供給」の項では、1970年から1990年までの20年間幅エネルギー収支、電力消費、発電の実績および将来の電力料金をレビューしています。この20年間、総エネルギー供給量は横ばいでしたが、電力消費および供給量は同期間に倍増したこと、また、電気料金はさまざまな要因を総合すると、1990年代の前半にやや上昇すること可能性があることなどが示唆されています。

 「提案」の項では、前述したエネルギー政策のガイドラインおよびエネルギーの供給の実績を踏まえて、次のような提案をしています。

 エネルギー政策の目標を達成するために、今後5年間に37億6500万クローネ(950億円弱相当)の予算枠内で、以下のような施策を実施する。

     (イ)いっそう効率のよいエネルギーの利用プログラム 
        今後5年間に総額10億クローネ(250億円相当)を割り当てる。        
 
    (ロ)電熱併給システム(CHP)の促進のための施策
        税制措置を講ずる。
 
    (ハ)バイオ燃料を用いたCHPの支援
        今後5年間に総額10億クローネ(250億円相当)を割り当てる。
 
    (ニ)新エネルギー技術の導入および開発のいっそうの強化

         (a)バイオ燃料
            バイオ委員会の活動資金として6億2500万クローネ(155億円相当)を供与する。委員会は19
92年7月1日までに最終報告書を政府に提出する。
 
        (b)風力
            今後5年間に投資用補助金として、2億5000万クローネ(62.5億円相当)を割り当てる。
 
        (c)太陽熱施設
            今後5年間に5000万クローネ(12.5億円相当)を割り当てる。
 
        (d)現在の「エネルギー技術基金」を拡充する。


 さらに、この政策案では、現在、進めているスウェーデンの農業再調整の一環として、エタノール生産の支援を提案しています。