
白川紺子(著) 集英社文庫
今宵も、夜明宮には訪いが絶えない。泊鶴宮の蚕室で、大切な繭がなくなったという宮女……。一方、花娘を通じ城内での謎多き失せ物探しも舞いこむ。烏妃を頼る者は日に日に増え、守るもののできた寿雪の変化に、言いようのない感情を抱く高峻。やがて二人は、真実眠る歴史の深部へ。鍵を握るのは名もなき幽鬼か、あるいは――。
第一話 蚕神
鶴妃・晩霞は、父朝暘から烏妃と距離を取るよう指示されます。一方、侍女の九九から泊鶴宮の蚕室に宮女の幽鬼が出るという噂を聞いた矢先、寿雪はそこで働く宮女、年秋児(ねん しゅうじ)から件の幽鬼が蚕の繭を盗んだと聞かされます。繭は貴重かつ皇帝への献上物であり、事が発覚すれば重い罰を受けるため、寿雪に事件の解決を願いに来たのです。
調査に向かった寿雪は、犯人は幽鬼ではなく宦官であることを突き止め、繭は無事に戻ります。
この話には晩霞の登場はないのですが、以前主を救い、今回は自分たちを救ってくれた寿雪への泊鶴宮の官女たちの崇拝の度合いが増しています。
第二話 金の杯
夜明宮に淡海を捕縛する為、勒房子(ろくぼうし)がやってきます。寿雪が理由を問うと、内侍省の宦官・牧憲(ぼくけん)殺害の容疑だと答えます。牧憲はかつて淡海の家の知家事(召使い頭)で、淡家が没落した際に家宝の金の杯を盗んで逃げていました。淡海は過去に殺人を犯しており、牧憲が内侍省にいる事を知って復讐したのだろうと言われた寿雪は、あり得ないと断じて、彼の引き渡しを拒否します。今目の前にいる彼を信じる守ると言い切る寿雪に、淡海も自らの過去を打ち明けるのです。淡家が没落し、人買いに売られて逃げ出し盗賊の仲間になったこと、盗みに入った家で奴隷として囚われていた従姉と出会い、助けようとした刀で自害されたこと・・殺人の罪を甘んじて受けたのは、愛していた従姉を救えなかった後悔と自らへの罰だったのです。「助けて欲しい」と言えずにいた寿雪が高峻の言葉で救われた。その言葉を今度は寿雪が淡海へかけます。「願ってよいのだ」と 言葉は繋がっていく・・良いエピソードです。淡海、完落ちですね
寿雪は、牧憲が隠し持っていた金の杯の行方を追い、犯人を突き止めます。実は淡海を捕えに来た勒房子の弟だったのです。弟に罪を打ち明けられた兄が、いったんは淡海に罪を着せようとしたのですが、元々真面目な性格だったために弟を殺して自らも死を選んでしまいます。寿雪は彼らを憐み楽土へ送る儀式をしてあげます。宦官は死ねば弔いもなくそこらに棄てられる存在のため、寿雪の情け深い行いは宦官たちに崇拝の感情を抱かせます。寿雪は淡海に金の杯を渡しますが、彼はそれを砕いてしまいます。人を惑わす存在は無くしてしまうのが一番だものね。
第三話 墨は告げる
何明充の部下の令孤之季は、白雷への恨みを捨てられず、今も袂を妹の小明に引かれながら学士として働いています。
ある日、洪濤殿書院の史館を訪れた鴦妃・雲花娘は、之季と共に自らの書いた書物を探す幽鬼を見て、寿雪に相談します。幽鬼の正体は、前王朝の時代に、紙を盗んで処刑された古文書の写本を行う経生でした。調べると、彼は無実の罪で処刑されたとわかります。当人はそうと知らずに処分する筈の古文書の写本をしていたのを時の皇帝がたまたま見つけたことが彼の不運だったのです。しかしこの幽鬼は無実の罪で処刑されたことより自分が書いたものが焼かれてしまったことに拘っていて、それがまだあるはずだと探していました。寿雪は之季や千里の助けも借りて、それが屏風の下に塗りこめられていると推理します。高峻が命じて取り出されたそれには、烏漣娘娘と鼇の神に関わる重大な秘密が書かれていたのです。 そこには、二人の神の戦いとその結果が記され、寿雪の身の内に封じられているのは烏漣娘娘の半身で、残り半身は海に沈んでいるとい書かれていたのです。失われた半身を探して烏漣娘娘は寿雪に苦痛を与えながら体を抜けて飛んでいたのですね。鼇の神が再び力を取り戻してきた今、新しい展開が予想されます。
第四話 禁色
人との関りを持たず生きるという先代烏妃・麗嬢の言いつけを破って後宮や内廷での問題を解決してきた寿雪ですが、彼女の知らない間に緇衣娘娘と呼んで崇める者が増え、偽の護符まで出回っていました。烏妃が人心を集める事は災いの種になると恐れた寿雪は、夜明宮への訪問者を入れぬよう温螢と淡海に命じますが、花娘が心配してやってきます。信仰の根が泊鶴宮にあると推測した花娘は、鶴妃に注意を促しに行きますが、逆に騒動を引き起こしてしまいます。実は朝暘に命じられた白雷が官女頭の吉鹿女を使って裏で画策していたんですね。騒ぎを鎮めた高峻は、寿雪の責任を問わざるを得なくなるのです。朝暘の狙いはまさにそこにあったわけです。それにしても、ひと声で場を鎮める描写は、まさに皇帝のオーラ全開でした 衛青が身を挺して寿雪を守ったのは高峻の命もあるでしょうけれど、彼自身無意識に肉親としての感情が芽生えているのかも。
朝陽は一族の存続と安寧が何より大事で、娘の晩霞や吉鹿女も道具でしかないようです。大事のための犠牲は仕方ないことという考えは、今の政治にも通じるものがあるような 彼は、烏妃の存在が国の揺らぎの元になることを危惧し、できれば排除したいと考えています。危険を冒して白雷を都に呼び寄せたのもそのため。白雷と寿雪が対決する場面(相変わらず寿雪はやるときはやる!強い力を魅せてくれます)では、彼の出自と烏漣娘娘を憎む理由が明かされます。隠娘が白雷を凌ぐ強い力を見せたり、晩霞の兄たちが今後何かしら関わってきそうでもあります。
高峻は、探し出した巫術師・封一行の話と、三話で登場し一部復元できた古代伝承神話から、東海に沈んでいる烏漣娘娘の半身を見つければ、烏妃=寿雪を解放できるのではないかという希望を見出します。そのためには9つの封印を一斉に解かなければならず、その力を持つ者があと一人必要です。寿雪は白雷を思い浮かべますが・・・
白雷は、子供には案外優しい おそらく根は善を持つ人物に書かれているので、梟がそうだったように、寿雪の味方になってくれるかもという期待を持たせて終わります。
しかし、一番驚いたのは、晩霞の懐妊だわ 高峻ってば、帝としての責任はしっかり果たしているわけで・・・そういえば、これまでにもまめに妃たちを訪れていると書かれてたっけね
でもよりによって寿雪と同じ年頃の晩霞だもんな~~
そして晩霞も新しい命を宿したことで、父の命令に盲目的に従うことを止め、自分の意志を持つようになっていきそうです。