2021年8月27日公開 119分 G
一年前、閏年の二月二十九日。雪の降る夜。かつては直木賞も受賞したが今は富山の小さな街でドライバーとして働いている津田伸一(藤原竜也)は行きつけのコーヒーショップで偶然、幸地秀吉(風間俊介)と出会い、「今度会ったらピーターパンの本を貸そう」と約束をして別れる。しかし、その夜を境に幸地秀吉は愛する家族と共に突然、姿を消してしまう。それから一か月後、津田の元に三千万円を超える大金が転がりこむ。ところが喜びも束の間、思いもよらない事実が判明した。
「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」ニセ札の動向には、家族三人が失踪した事件をはじめ、この街で起きる騒ぎに必ず関わっている裏社会のドン・倉田健次郎(豊川悦司)も目を光らせているという。倉田はすでにニセ札の行方と共に、津田の居場所を捜し始めていた……。
神隠しにあったとされる幸地秀吉一家、津田の元に舞い込んだ大量のニセ札、囲いを出た鳩の行方、津田の命を狙う裏社会のドン、そして多くの人の運命を狂わせたあの雪の一夜の邂逅……。富山の小さな街で経験した出来事を元に書かれた津田の新作に心を躍らせる鳥飼(土屋太鳳)だったが、読めば読むほど、どうにも小説の中だけの話とは思えない。過去の暗い記憶がよぎる鳥飼。小説と現実、そして過去と現在が交差しながら進む物語。彼の話は嘘? 本当?
鳥飼は津田の話を頼りに、コーヒーショップ店員・沼本(西野七瀬)の協力も得て、小説が本当にフィクションなのか【検証】を始めるが、そこには【驚愕の真実】が待ち受けていた―。(公式HPより)
直木賞作家・佐藤正午の同名小説の映画化で、監督は「ホテル ビーナス」のタカハタ秀太です。
小説と現実、過去と現在が交差しながら物語が進むので、慣れるまで混乱しました。繰り返される小さなエピソードがやがて一つの流れを形作るという感じです。リリー・フランキー、坂井真紀、岩松了、浜野謙太、駿河太郎他出演。
津田は過去に発表した作品が事実の暴露となり訴訟を起こされて文壇から姿を消しています。再び書き始めたその物語に惹かれながらも、以前の二の舞になることを恐れる鳥飼(この苗字にも深い意味があるのかなと思ってしまった)は、小説に登場する町や人物の検証を始めるのですが、書かれていたのはほぼ事実であると判明するんですね。
秀吉一家の失踪事件、大量の偽札、裏社会のドン・倉田の存在。沢山のエピソードは一つ一つは見逃してしまうような些細な出来事ですが、やがて重なり合い真実に繋がっていくという流れです。
津田が古本屋店主の房州(ミッキー・カーチス)から贈られたスーツケースの中身は3000万円の札束と3万円。この3万が偽札だったわけですが、これが房州の手元に来るまでに紆余曲折があります。バーのオーナーの倉田に届く筈だった偽札が、従業員の女性から彼女が貢いでいる恋人に渡り、その金で彼はデリヘル「女優倶楽部」のまりこを買います。受け取った金でまりこは津田に借金を返しますが、金を挟んだ「ピーターパン」の小説をシングルマザーの奥平の娘が持ってきてしまい、奥平が房州に預けるんですね。あ~~ややこしい!更にまりこの恋人の春山の新しい彼女が秀吉の妻の奈々美(佐津川愛美)ということで、二つの事件が結びついていきます。
ところで、津田は残り2枚も偽札だとATMで確かめると、3000万円も全てが偽物だと思い込みます。しかしそちらは房州老人が妻の死亡保険金を彼に遺したものだったんですね。後難を恐れた津田は、そうとは知らず3002万を倉田に返します。倉田はその3000万を津田の名前で施設に寄付してしまうのですが、そこは彼と秀吉が育った所だったという
更に、秀吉は子供が出来ない体質(無精子症か)なのに、妊娠した奈々美は秀吉の子だと言って騙そうとしました。それを知りショックを受けた秀吉が店を休んだことで、偽札が津田の手に渡ってしまったというわけです。ここで、失踪事件の他に、ダムから見つかった男女の死体という事実が意味を持ってきます。その男女が誰かは明らかにされません。
津田はせめてハッピーエンドにしようと想像を巡らせて結末を書きあげます。
はじめに、秀吉に津田が読んでいた「ピーターパン」を貸す約束をしていたエピソードがありましたが、「今出て行った客から預かった」と渡されたのは、倉田が持っているはずのその小説です。(その客が会計を頼んだ声がまさに秀吉=風間でしたもんね)急いで追いかけた津田と後を追った鳥飼が見たのは、車に乗り込んだ秀吉とその隣には倉田が・・・。
津田は鳥飼に「小説の名前が思い浮かんだ」と言いエンドロールに。
そもそも、何故偽札が倉田の元に届けられることになったのか?奈々美は生きているのか?子供はどうなったのか?細かい疑問も残りますが、あくまでフィクションってことで観る側の想像に委ねられる結末でした