青木 祐子 (著) 集英社文庫
盗作疑惑が持ち上がる中、美人イラストレーターsacraが失踪した。彼女の幼馴染みでライターの朝倉は、クラスメイトや恩人、恋人などsacraに関わってきた人々にインタビューすることで彼女の真実に迫ろうと考える。盗作、経歴詐称、結婚詐欺など、息をするように繰り返した嘘の果てに姿を消したsacraは今、どこで何をしているのか。そして、彼女が本当に欲しかったものとは―?(「BOOKデータベースより)
嘘をついたことがないという人はまずいないと思うけれど、息をするように嘘がつける「さくら」のような人物には幸いにして今まで出会ったことはない。それはとても幸運なことかもしれないと思わされるお話です。
ライターのインタビュー形式で進んでいくのですが、その中でも女性たちは自分の作品を模倣されたり、恋人を盗られたりの被害者として描かれます。他方、男性たちはさくらにいいように利用されていると気付きながらも彼女に愛されていたと信じ込んでいるのです。これは女性の方が恋愛感情がない分冷静で、男性たちは騙されたという現実を受け入れるのにはプライドが邪魔をしているということでしょうか。
一通りインタビューが終わると、さくらの盗作、経歴詐称、結婚詐欺等々の「嘘」と「実像」が見えてきます。彼女に関わった人たちは一様に被害者ですが、特に声を上げた女性たちの方が加害者のように世間に見られるのが、納得できないモヤモヤが残りました。
さくらが、初めから人を騙そうとしている悪女であったなら、もう少し受け入れられたかもしれませんが、彼女自身、嘘を付いているという自覚があるのか甚だ疑わしいのだから、余計にやりきれないと言うか、気持ち悪いというか・・・。
自分が中学生の時、状況はまるで違いますが、同じような理不尽な目に遭ったことを思い出してしまいました。儚げな美人は得だよな~と思ったものです。
ライターの朝倉はさくらの幼馴染で、兄や恋人もさくらの犠牲者です。彼女の目的はインタビューすることで失踪したさくらの真実を追求して本を出版することでしたが、詰めが甘かったことがわかる驚愕のラストで、ますます気持ちが落ちてしまいました。もしかしてさくらは天然じゃなくてものすごく計算高い悪女だったのかも。 まさに天使の顔をした悪魔で、純粋な悪というのは彼女のような人かもしれないな。
少しだけさくらをフォローするとすれば、彼女は自分が顔と体だけの女だと自覚していたからこそ、他者の才能を自分自身に取り込むという行為に没頭したのかも。プロデュースの才に長けていたのが彼女の不幸であったのかもしれません。
それでもやっぱりこのさくらという女は大嫌い!絶対関わり合いになりたくない人です。