杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

後宮の烏

2022年01月13日 | 

白川紺子(著) 集英社オレンジ文庫

後宮の奥深く、妃でありながら夜伽をしない特別な妃・烏妃。その姿を見た者は、老婆であると言う者もいれば、少女だったと言う者もいた。彼女は不思議な術を使い、呪殺から失せ物さがしまで、何でも引き受けてくれるという――。時の皇帝・高峻は、ある依頼のため烏妃の元を訪れる。この巡り合わせが、歴史を覆す禁忌になると知らずに。

中華ファンタジーというジャンルらしい 

舞台は古代中国風の架空の国・霄(しょう)で、若き帝・高峻と烏妃・寿雪が織りなす恋物語・・・ではなく謎解きのお話?

第一話:翡翠の耳飾り

寿雪のところへやってきた高峻は、拾った翡翠の耳飾りの持ち主が知りたいと頼みます。耳飾りに術をかけると絞殺された妃が浮かび上がりますが、名前がわからないので楽土へ送ることができません。高峻が不憫だと漏らした言葉に寿雪も心を動かされ調査を始めます。

官女に変装した寿雪は、後宮の官女たちから先代の皇后に殺された妃の話を聞き、その際知り合った内膳司の九九(じうじう)を口実に、名簿を手に入れてその幽霊の正体が班鶯女と判明します。(現皇太后は高峻の母を毒殺し、息子の高峻を一時廃太子にした張本人でもあります。)班鶯女の官女だった蘇紅翹(そこうぎょう)に確かめに行く途中、何者かに襲われた寿雪と九九を助けたのは郭皓(かくこう)という男で、後に彼は班鶯女の許嫁で、真実を探るため後宮に潜り込んでいたことが判明します。蘇紅翹は舌を切られていましたが、筆談で真相を伝えます。実は高峻が拾ったのは蘇紅翹が郭皓に渡していたもので、蘇紅翹が持っていた耳飾りは、昔泣いていた高峻に彼女があげていました。二つの耳飾りが揃ったことで班鶯女は成仏することができ、同時に皇太后の罪も暴かれて処刑され、高峻は彼女に毒殺された実母の復讐も成就しました。

寿雪は前王朝の皇族の証の銀髪をしていて、それを隠しています。皆殺しになった一族殺戮の難を逃れた母親が生んだ娘でしたが、正体がばれて逃げる途中に母は殺され、彼女自身は人買いに売られて奴婢となっていたところを、烏連娘娘の使いの金鶏・星星(しんしん)に選ばれて烏妃となっていました。先代の烏妃・麗娘(れいじょう)から愛情深く育てられ、烏妃としての生き方を教えられてきたことが書かれています。

 

第二話 花笛 

烏漣娘娘を祀る寿雪。かの神は海の向こうからやって来た夜と万物の生命を司る女神で、大きな黒い化鳥の姿をしていて、艶をおびた羽根は四枚、胴は猪、足は大蜥蜴だが、顔は美しい女の姿をしています。
そこへ、花娘(かじょう)が頼み事をしにやってきます。彼女は高峻の妃ですが、彼の幼馴染でもあり姉のような存在(男女の仲ではないようです)で、高峻が度々寿雪の元を訪れていることを気にして確認に来たようでしたが、その本当の目的は、彼女の持つ花笛が鳴らない理由を探って欲しいというものでした。花笛は、悼む相手が還って来たことを知らせるものであり、それが鳴らないという事は魂が還って来ていないという事なのね。 花娘の許嫁だった、欧玄有(おう げんゆう)の魂を探すため寿雪は調査を始めます。

かつて流行していた月真教の教祖の月下翁が関わっているのではないかと推察するものの、彼は既に死亡していました。ところが後宮で花娘が高俊から下賜された壺が消え、その影に欒冰月(らんひょうげつ)という前王朝の欒家の美形の巫術師がいたことがわかります。この欒冰月は月下翁に取り憑いていた人物でもありますが。彼もまた亡き人で、寿雪に何か頼み事があって現れたのです。彼が壺に閉じ込めていた魂の中に欧玄有もいて、寿雪が解放し、花笛が鳴って彼は楽土へと成仏することができました。

 

第三話 雲雀公主 

殿舎にやってくる雲雀の中の一匹は生きたものではありませんでした。雲雀は烏漣娘娘の眷属で、人の魂を楽土に導く手伝いをする鳥なのですが、楽土へも行かず迷っているのはどうしてか気になった寿雪が九九に話すと、雲雀公主(ひばりひめ)の雲雀かもしれないと言います。彼女は高峻の異母妹で、母が身分の低い宮女だったため後ろ盾も無く、後宮の隅で一人で暮らしていたが、ある時池に落ちて亡くなっていました。
雲雀を楽土に送って欲しいと頼まれ、寿雪は雲雀公主について調べます。

高峻の母の鶴妃の侍女だった羊十娘(ようじゅうじょう)が、雲雀公主のために池に花を手向けているのを見た寿雪が、彼女から話を聞く中で、公主が池に落ちたのは、羊十娘の咳を鎮める薬草を取ろうと足を滑らせたのだと知るのでした。寿雪がかけた言葉で羊十娘も救われ、高峻が作った燕の木像を使って雲雀も楽土へ送られます。

優しさと悲しみの入り混じったお話でした。

 

第四話 玻璃に祈る

皇太后を処刑した頃から、高峻の寝所の外に、亡き母と高峻の親友で腹心の宦官・丁藍(ていらん)の幽鬼が現れるようになります。日増しにやつれて行く高峻を心配する側近の宦官・衛青(えいせい)の進言を聞き入れない彼は、別件で寿雪に相談を持ち掛けます。

それは後宮に出る銀髪の幽鬼のことで、柳の花が咲く時期だけ現れるのです。欒冰月かもと思った寿雪は高峻たちと柳のところへ出向きます。
(現王朝の初代皇帝の炎帝は前王朝の一族を根絶やしにしましたが、彼の寝所に前王朝の幽鬼たちが現れ悩ませていたのを先代の烏妃が追い払ったのですが、寿雪はそのことを麗娘から聞かされていませんでした。)

幽鬼が身に着けていた装飾品を宝物庫で確認した寿雪は、その正体が欒王朝最後の帝の二番目の公主で、後宮に禁軍が押し寄せた際に柳の下で自害した明珠公主(めいじゅこうしゅ)であることを知ります。欒冰月は彼女と恋仲になり、皇族の身分を捨てることで婚約が成就していたのですが、王朝交代の乱で二人とも命を落としていたのです。明珠公主は自害する前に欒冰月から贈られた櫛を柳の木の根元に埋めていて、それが心残りで幽鬼になっていて、公主の魂を探して欒冰月もまた幽鬼になっていたのです。それに気づいた寿雪が櫛を掘り出し、二人はめでたく楽土へと成仏します。

一件落着の後、衛青から高峻のことを相談されていた寿雪は、高峻の寝所に向かい術を使います。実は皇太后は処刑される前に高峻への呪いを残していて、母と丁藍の幽鬼は高峻を守ろうとしていたのでした。

 

物語が進むにつれ、寿雪と高峻の絆が深まっていきますが、同時に彼らの置かれた状況が、歴史に隠された真実と共に明らかになっていきます。

烏妃の誕生に隠されていたのは夏の王と冬の王の歴史であり、国の乱れの原因が二人の王の愛憎だったことから、同じ轍は踏むまいとする二人の意志が感じられる終わり方でした。とはいえ恋する気持ちは誰にも止められないものですから、今後が楽しみでもあります。


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