杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

スターリングラード

2021年03月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2001年4月14日公開 アメリカ・ドイツ・イギリス・アイルランド合作 132分

2021年3月4日 「午後ロード」放送

1942年9月。1カ月にわたり、ナチス・ドイツの猛攻にさらされてきたスターリングラードに、新兵として赴任してきたバシリ・ザイツェフ。彼はウラルの羊飼いの家に育ち、祖父に射撃を仕込まれた天才スナイパーだった。やがて彼の射撃の腕はソビエト軍の志気を高めるために利用され、バシリは英雄へとまつりあげられていった。(映画.comより)

 

映画の中で描かれる戦争のシーンは、臨場感に溢れています。新兵として招集されたばかりでろくに訓練も受けていない兵士たちが、降り注ぐ銃弾のなか、敵陣へ突撃を命じられ、逃げれば銃殺という、進むも戻るも地獄絵図が続きます。アノー監督は保存資料やニュース映像を元にこの壮大なシーンを作りあげていて、カメラ7台にエキストラ700人を動員したそう。

物語の舞台は1942年のソ連の指導者の名を冠した大都市スターリングラード。ドイツ軍有利の中、ソ連は名誉にかけて死守しなければならない状況に陥っています。バシリはウラルの羊飼いで子供の頃から祖父に狼撃退のための射撃を仕込まれていました。一兵卒として銃も与えられず弾丸だけを渡され突撃を命じられたバシリは、政治将校ダニロフの代わりに狙撃を任され見事にドイツ軍の将校たちの殺害に成功したことで、才能を認められ、ダニロフと親友になり、有能な狙撃兵として英雄となっていきます。

一方、ドイツ軍はバシリを葬ろうと狙撃の達人のケーニッヒ少佐を派遣、殺るか殺られるかの息詰まる対決が始まるのです。

スターリングラードへ向かう列車の中でターニャに一目惚れしたバシリは、女兵士となった彼女と再会します。ターニャの助けを借り、ケーニッヒ少佐への反撃に成功したことで2人の仲も急接近。やがて2人は結ばれます。しかし、ダニロフもまたターニャに想いを寄せていること、ターニャが世話になっている家の少年サーシャがスパイとしてケーニッヒ少佐の下に送り込まれていたことや、英雄としての自分の虚像が独り歩きしていくことにジレンマを感じるようになっていくバシリは、過労から居眠りをして狙撃記録を奪われドイツ軍から戦死の誤報が流れます。

ケーニッヒ少佐はベルリンに戻るよう命令を受けますが、バシリとの対決に拘る少佐は彼の死を信じずに命令を無視し、一人の男としてヴァシリとの対決に挑みます。バシリもまた戦死した英雄として戦線から離れ、やはり一人の男としてケーニッヒ少佐を迎え撃つのです。

息子がソ連兵に狙撃され仇を討とうと行動する少佐、ユダヤ人である家族をドイツ軍に殺され復讐心に燃えるターニャの目的は明快です。ダニロフもまたユダヤ人で、ソ連の軍人としてナチスに立ち向かいながらも、反ユダヤ的なスターリン主義に対して懐疑的です。

サーシャはバシリを英雄として崇め、彼なら勝利に導いてくれると無邪気に信じスパイ行為を続けますが、少佐はその正体を見抜いたうえでバシリをおびき出す囮として利用します。この非情な行為をする少佐は冷酷というよりは哀し気にすら見えます。きっと少佐なりにサーシャのことを慈しむ気持ちがあったのではないかと想像しました。もしかしたら亡くした息子に重ねる部分もあったのかもなぁとかね。

サーシャの母親を避難させようと、嘘の「真実」を告げるダニロフとターニャのシーンも切なかったです。息子が死んだという事実を伝えれば彼女は共に死ぬことを選ぶと思い、敢えて息子がソ連を裏切ったと言って諦めさせようとするのです。どんな立場でも生きているということが希望になることを知っているのですね。ダニロフはサーシャの母親と一緒にターニャを避難船に乗せようとしますが、砲撃を受けてターニャが負傷します。ダニロフは彼女が助からないと思ったのでしょう、バシリのところに戻って自分が囮になると言ってケーニッヒ少佐に撃ち殺されます。確認のため外に出てきた少佐に狙いを定めるバシリ。自分の行動の誤りに気付き、自らの死を悟ったケーニッヒ少佐と正面から対峙したバシリは銃の引き金を引きます。世に知られることもなく決着した2人の天才的狙撃兵の対決は静かな迫力がありました。

数か月後。ドイツ軍は撤退し、勝利に湧くスターリングラードの病院でバシリはターニャと再会。そして幕は下りるのでした。

戦争映画を観るたび思うのは、名もなき者たちの犠牲の上に築かれる平和に意味はあるのかということ。ほんの一握りの権力者の欲望のために大勢の犠牲者の山が築かれることへのやり場のない怒りです。将棋の駒のように扱われる命の不平等さについても怒りを覚えます。

本作はそんな戦争の実態を生々しく描いた傑作に思えました。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 幸せへのまわり道 | トップ | スネーク・アイズ »
最新の画像もっと見る

映画(DVD・ビデオ・TV)」カテゴリの最新記事