杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ソハの地下水道

2013年07月15日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年9月22日公開 ドイツ ポーランド 144分

1943年のポーランド。下水修理工のソハ(ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ)は、迷路のように入り組んだ地下に盗品を隠しながら日々をしのいでいた。そんなある日、ゲットーから、地下水道に繋がる穴を掘っているユダヤ人たちを発見したソハは、ドイツ軍に売り渡して報奨金を手にする代わりに、彼らを地下に匿い、見返りに金銭を得ることを思い立つ。しかし執拗にユダヤ人狩りを行う将校が目を光らせ、ソハの妻子や若い相棒は処刑の恐怖に怯えるようになる。一度は手を引いたものの、ユダヤ人たちの悲惨な窮状を目の当たりにしてきたソハは、再び彼らを支援する決心をして・・・。


ナチス・ドイツ占領下のポーランド・ルヴフ(現ウクライナ)で、ユダヤ人を地下にかくまった下水道修理工ソハの実話を基にした作品です。

貧しさの中、妻のヴァンダ(キンガ・プライス)と幼い娘のステフチャを養うために空き巣を働くソハと若い同僚のシュチェペクは、ゲットーから逃れようと下水に繋がる穴を掘ったムンデク(ベンノ・フユルマン)やヒゲル(ヘルバート・クナウプ)らユダヤ人たちを見つけた時も、見逃す代わりに彼らに金銭を要求します。彼らから絞れるだけ絞り取った後でナチスに通報して報奨金もせしめようという狡猾な考えです。

しかし強制収容所に送られる日にゲットーから穴に逃げたユダヤ人は彼らが思っていたより遥かに多く手に余るため、人数を指定して匿うことにします。残されたユダヤ人たちは後に兵士に見つかり悲惨な死を遂げます。ヒゲルと妻のパウリナ(マリア・シュラーダ)、幼い子供のクリシャとパヴェラ、ムンデク、若い女性のクララ、愛人関係にあるヤネクとハヤら11人が、ソハの案内で、新しい隠れ場所に移動するのです。

ある日ユダヤ人と間違われたソハは旧知のウクライナの将校ボルトニック(ミカエル・ルワウスキー)に救われます。酔ったボルトニックがソハの家に押しかけた時に、娘の一言から彼がユダヤ人を匿っているとボルトニックが疑いますが、何とか誤魔化すソハ。ヴァンダはそんなソハを家族を危険にさらしていると責めます。怯えたシュチェペクがまず手を引き、ソハもヒゲルから金が底を尽いたと聞かされ手を引く決意を固めます。

しかし、食糧を探しに地上へ出ていたムンデクを助けようとしてドイツ兵を殺してしまったソハは、報復としてウクライナ人が10人処刑されたことを知り、また地下水道内で迷子になっていたクリシャとパヴェラを保護したことなどから、再び彼らを支援しようと決心するのです。

地下水道と言ってもいわゆる下水道ですから、暗いし汚いし臭うしの劣悪な環境です。ここに一年以上も隠れていられたこと自体が驚きです。
クララの妹はそんな環境に耐えられず早々に地上に逃げ出し収容所送りとなります。妹の面倒を見ると亡き親と約束したクララは彼女を探しに行こうとしますが、そんな彼女の代わりにムンデクが危険を冒して収容所に潜入するというエピソードもありました。死と隣り合わせの収容所の不条理も短いシーンの中で鮮烈に描かれています。

ヤネクと妻・愛人の三人に交差する愛憎の感情も描かれます。妊娠してしまった女性が地下で出産した我が子を窒息死させるというエピソードでは、ソハ夫婦がその子を引き取って育てようと話し合った直後の出来事だったことがより悲劇的でした。

娘の聖体拝領式の日に大雨が降り、地下水道が気になったソハは妻の制止を振り切りユダヤ人の
元へ向かうのですが、ボルトニックに見つかります。地下水道で彼をまくソハ。置き去りにされたボルトニックは迷って溺死です。(横柄だけどソハへの友情は一応本物だったのだろうボルトニックがちょっぴり可哀想でもありますが、そもそもユダヤ人狩りに加担してる時点で共感できる人物ではないのよね)そしてユダヤ人たちは奇跡的に無事でした。(まぁ、ここで死んじゃってたら物語が終わってしまうけど)

やがて、ソ連が侵攻してきてポーランドは解放されます。その日、地下水道から外に出てきた彼らを好奇の目で観る人々にソハが叫ぶ「私のユダヤ人たち」という言葉が耳に残りました。地上の光はまさに希望と未来の光ですね

ソハは狡さも弱さも持った普通の市民です。そんな彼が次第にユダヤ人たちを無私の気持ちで支援していく姿が心を揺さぶります。ソハ夫婦やユダヤ人たちの夜の生活も赤裸々に描かれていていわゆる「ヒューマンドラマ」にそぐわない気持ちもあったのですが、真実を描くという視点からは避けて通れない人間の営みなんですよね

それにしても人が人を力で支配する姿は何と醜いものでしょうか。

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