杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

チーム

2024年06月22日 | 
堂場 瞬一 (著) 実業之日本社文庫

箱根駅伝出場を逃した大学のなかから、予選で好タイムを出した選手が選ばれる混成チーム「学連選抜」。究極のチームスポーツといわれる駅伝で、いわば“敗者の寄せ集め”の選抜メンバーは、何のために襷をつなぐのか。東京~箱根間往復217.9kmの勝負の行方は――選手たちの葛藤と激走を描ききったスポーツ小説の金字塔。巻末に、中村秀昭(TBSスポーツアナウンサー)との対談を収録。(内容紹介より)


「ゴールの瞬間まで目が離せない ノンストップ駅伝小説」とありましたが、まさに駅伝が始まる頃からページを捲る手が止まらなくなりました。
予選会が行われた昭和記念公園や、箱根駅伝のコースにある地名は馴染もあり、情景を思い浮かべることができたのも親近感を覚えます。

予選落ちした城南大の主将の浦 大地は、吉池 から学連選抜チームの誘いを受けます。浦は長野の高校時代に左膝を痛めた後遺症に苦しみ大学の2年間を棒に振り、昨年アンカー10区を任されながらも失速して順位を落としたことが負い目になっていました。自分だけが本戦に出場しても良いのか葛藤の末、選抜チームに入ることを決断する浦。

吉池は監督を務める美浜大が予選会で11位になったため、学連選抜チームの監督になります。(そういうルールなのね😲 )監督歴30年の「大学陸上界の名伯楽」と呼ばれる吉池ですが、率いるチームを箱根駅伝本戦に出場させたことがないまま今年で定年を迎えるため、最後の希望を寄せ集めのチームに託すのです。

選抜チームには、東京体育大学 の絶対的エース山城がいます。1年生で5区を、2年で3区、3年では2区で10人抜きをし、いずれの年も区間新記録を出した山城は、他の選手たちとは異次元の走りをみせますが、その唯我独尊の性格はチームに不協和音をもたらします。キャプテンに指名された浦は何とかチームをまとめようとしますが、山城だけは遂に皆と交わることはありませんでした。ここまで尊大だと周りはほんと引くわな。😞 

港学院大の門脇 は浦の高校時代のチームメイトで、陸上に対する強い思い入れもなく、卒業後は故郷に戻って高校の教員になる予定です。

東都大の1年生・朝倉 功は広島出身。3区を任され張り切って飛ばし過ぎてペースを崩し大きく順位を下げてしまいます。初めての箱根駅伝で、自分のペースを見誤るという初心者あるあるな展開です。😓 

関東教育大3年の松岡 は5区に抜擢されますが、合宿後に膝を傷めて出場を断念することになります。松岡にとっては断腸の思いに違いありません。松岡の代わりを自ら申し出た門脇はクロカンを得意としていて、山登りの5区においてその実力を発揮します。これまでの飄々とした態度の裏にあった一種の諦観が払拭され、走りたいという純粋な思いに突き動かされていくその変化が伝わってきます。3区で下げた順位を門脇は一気に4位まで浮上させるのです。😃 

浦はキャプテンとしての使命感もあり往路の応援に出ますが、門脇のゴールを出迎えた時に群衆に押され左膝に痛みを感じます。それは彼を悩ませてきた古傷の再発を予感させます。チームと自分の思いのどちらを優先させるか悩んだ末に浦は走ることを選択します。浦の異変を察知した選抜チームの裏方スタッフを務める同じ城南大の青木は吉池に彼を走らせて欲しいと訴えます。3年の時に膝を痛めて主務に転身した青木は、浦の気持ちが誰よりもわかるんですね。

寄せ集めのチームに思い入れもなく、自分の記録だけが目的だった山城ですが、9区を走っている時にアクシデントで足の痛みを感じます。これまで怪我や故障の経験がなかった彼は、どんなに万全の準備をしていても起きる時は起きるのだと思い知るんですね。浦がこれまで抱えてきたであろう痛みや苦しみにも思いを巡らせます。痛みが強くなっていく中、ここで棄権しても構わないとの考えが頭を過りますが、自分の記録のためだけではなく仲間(浦)にトップで襷を渡すのだという思いを力に変えていくのです。
浦に襷を渡した後、これまでの山城だったら自分の身体のメンテを第一に考えたでしょうけれど、大手町のゴールで浦を迎えようと行動します。そこに個人主義の傲慢な彼はいません。チームの仲間としての彼がいます。😀 

途中までは快調だった浦ですが、踏切で長野出身でライバルだと思っている中央大の広瀬と並んだ時にアクシデントに見舞われ左膝の痛みが出ます。どんどん強くなる痛みに苦しみながらもトップでゴールが目前となった時、彼は遂に力尽きて倒れ込んでしまうのね。思わず駆け寄る吉池でしたが、浦は自力で立ち上がりよろめきながらゴールします。

浦を広瀬が抱きとめます。
名門の復活という重責を担い浦と競り合ってきた広瀬にとって、この勝利は嬉しくもあり悔しくもあったのではないかしら。もし浦の膝の故障がなければ結果は変わっていたのですから。

チームの仲間も浦を囲みます。もちろんその中に山城の姿もありました。

物語は一年後の箱根駅伝ゴールに。
選抜チームの応援にきた浦は吉池と出会います。浦は実業団チームに入り膝の手術を受けてリハビリをしています。去年のチームとはメンバーも違いますが、応援せずにはいられない気持ち、わかる気がします。
朝倉は東都大のアンカーとして10位に入りました。
そして・・・今や日本長距離界の絶対的エースになりつつある山城の姿もありました。

駅伝の様子が本当に見ているかのように描写されていて、選手がどんな思いで何を考えて走っているのかも伝わってきてとても興味深く読みました。

同じ釜の飯を食べて来た仲間とは違い、寄せ集めの選抜チームで一体感を作り上げていくことの難しさは山城という飛び抜けた異分子の存在で強調されていますが、そんな彼が駅伝本番で自分のためだけではなく仲間のために、そして仲間の存在に力をもらって走り抜ける姿がとても印象的です。山城の他、門脇や浦、そして朝倉とメンバーそれぞれの成長が感じられる作品でした。

これまでTV中継もあまり見ていませんでしたが、来年は最初からゴールまでみてみようかな😊 

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