月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

この日、この時、この思いを忘れるな

2012-06-23 22:26:53 | 腹腔鏡下 子宮全摘術



6月23日 手術5日目

3時間の外出をするようになって、一日のスピードが加速していっている。

外出するようになって、心は健康になるが、お腹がまたふくらんだ気がする。
腫れているのだ。下腹部が熱を発している。それ以外は特別に変化はない。

今日は初めてJRから阪急百貨店方面へ歩いていった。
新梅田商店街のなかにある「香賀」で鴨汁(つけ麺)を食べ、手打ち麺のうまさに感動し、
阪神百貨店の地下街に行こうとしたら、望月さんに偶然出会った。

新梅田商店街のなかの暗い感じの喫茶店で、20分ほどお喋りをして、
コーヒーをごちそうになって別れた。

読売新聞社での仕事を離れて10年以上が経とうとしているのに、
私はなぜ彼と雑踏の真ん中で再会せねばならなかったのだろうか、と
病院に戻ってからもずっと考えていた。

「みっちゃん、いくつになった。そろそろ仕事以外に自分がするべき何か、
見つけな、あかんよ。自分の文章というのを書かんとあかん。
基礎があるんだ。一生懸命練習すれば、新人賞だって夢じゃあないんだ」。
定年をとうに過ぎても、彼は読売新聞社のグループ企業で働き、家族と離縁、
俳句の世界に没頭した生活をされている。

阪神百貨店の雑貨や靴をひやかし、堂島の「ムジカ」まで歩いて紅茶を買いにでかけ、
病院に戻ってしばらくしたら、
仕事を一緒にしているデザイナーの友達がお見舞いに
訪れてくれた。プライベートではめったに会おうとしないのに、うれしい。
(家族以外に、5人の友達が訪問してくれた)。

外出できるようになって3日目。
ようやく歩くことが怖々でなく、自然な足運びできるようになった!

でも私は忘れない。忘れてはいけない。

手術のあとのはじめての外出。軽くめまいがしてほんの10歩歩くのも不自然な恰好で。

お腹を手で固定させ、ゆっくりと、ただゆっくりとした足を運べないことに驚きつつ、
それでも一縷の希望を抱いて歩いた西梅田のセンスのいい地下街。

雨の空が、したたるしずくが、街の情景のひとつひとつが、
初めて見るかのように新鮮に瞳にうつっていたあの日を。


クライアント先の事務所の灯りを病室から仰ぎつつ、
顔をみられないように、唇をかみ、
うつむいて過ぎていったあの時間を。

出掛けても不安で、人が怖くて、洋服や雑貨をみても白々しくて、
温かいやさしい大阪中央病院の病室に、戻りたがっていたということを。


わたしは、忘れてはいけないのだ。
















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