好きなお酒はなに?と聞かれたら一番はワインをあげるだろうか。
飲み口がくっきりして、体にスッーと浸み入るような…例えばフルーティーな味わいのものが好きだ。
育った土壌や作り手を感じられる質のものが、特に素晴らしいと思う。
夏場には、太陽を感じながら(夜でも)、
シャンパンを飲むのも、ものすごく贅沢な気持ちになって、
たまらなく好き(めったに飲まないけれどね)。
いつだったか、真夏の奈良ホテルで蝉しぐれを聞きながら「ローラン ペリエ」社のシャンパンを3杯飲んで、
その晩は夢にまでシャンパンの香りが忍び込んで…、鹿と仏像とシャンパンの残像に圧倒されるすごいパワフルな
ものを見た。以来シャンパンのすごさも理解する。
おいしい冷えた純米酒と和食という取り合わせもまた、年齢を経るにつれて好きになった。
さて先日、といっても少し前のことになるが、ライター友達のかおりさんと
「おいしいワインのお店をハシゴ」という、愉しい試みを企画した。
夕方6時に待ち合わせて、まずはかおりさん馴染みのフレンチ居酒屋「ブラッスリー・ランコン」ヘ。
お初天神にあるこの店は、私は全くのお初だったのだが、
その雰囲気のよさに、すでにいい気分🎶
黒板に書いてあるオススメのワインを見て、さらにワクワク。
シニアソムリエの方がワインの好みを聞いて、的確にアドバイスをくれた。
1杯目、かおりさんは、ドイツのビール「エルディンガー」を。
私はイタリア産の白ワインからスタートする。
好みのとおり、くっきりした飲み口で、香りがよく、爽やかな夏らしい白だ。
食欲がムクムク花ひらく。
お料理メニューを開くと南フランス風の家庭料理というラインナップになっていて、おいしそうな予感。
まずは「海老とアボガドのサラダ」、そして「キッシュ」、
「ルーム貝の香草焼き」…と出来上がっていくお料理を愉しみながら、
赤ワインを2杯飲んだ。
キッシュはふわふわの生地で卵とチーズの風味がよく調和していた。
ヨーロッパのワインに合わせるなら、やはりルーム貝かエスカルゴを食べたい。なので、
この日はルーム貝を選ぶ。
パセリやバジルの香草がよく効き、新鮮な味わいに、またまたワインが進んだ。
最初は少し軽い、みずみずしいものを選び、
土っぽい果実味の深い赤ワインへと移っていく。
チリ産、南フランス産の赤へと。
お酒が変化するにつれて、舌がどんどん柔軟になって、
迎える料理のレベルや懐を、広く深くしていくようで、
ちょっと素敵な気持ちになっていく…。
赤ワインのおいしさに誘われて「枝付きレーズン」もオーダー。
かおりさんは、非常によく飲める人で(ワインなら2本は友人とあけるらしい)。
お酒の謂われについても深い。一緒に飲んでいて、安心する。お酒について
いつも教えてもらうことが多いし、愉しい。
この日新しい仕事が飛び込んできたらしく、
(ずっと長くやりたかったこと)そんな朗報も聞くことができてよかった。
二軒目は、わたしのオススメの店ということで、
堂島までぷらりぷらりと歩いて「グロリエット」へ。
ここはかつて「キュニエット」を取材した時の印象があまりに鮮明だったので、
いつか訪れたいと思っていた店である。
「キュニエット」とは堂島メリーセンタービル4階にある。
稀少なビオワインを150種扱う大人のビストロ。
オーナーソムリエは今城賢さんという人である。
「ウソ偽りのない本物のビオワイン
(酸化防止剤、農薬・化学肥料なしでブドウを育成し貯蔵するワイン)、
フランスの土壌の匂いを感じられるワインを供するのが自分の使命」と語る彼の話は熱く…。
当時、おそらく真夏の昼下がりだったと思う。
ガラス越しに照りつける太陽を感じながら、
ズッキーニ・ナス・ゴボウ・モロッコインゲンなどでグリエされた「野菜のテリーヌ」を食べ、
黒豆枝豆とトマト仕立てのコンフィを食べ、
素晴らしくみずみずしい口当たりの、酸味・果実味が鮮やかな白ワイン。
野いちごをかじったようなやさしい味の赤ワインをいただいた。
料理のレベルも高く、ワインの味もキリッとしていて本当にびっくりした。
そして味わいだけではなく、オーナーの今城さんの語りに感動し、
私は聞きながら涙が頬に落ちたのを慌ててぬぐったのを覚えている。
彼はフランスのプロヴァンスで自然派ワインづくりを2年以上経験し、
食事もワインも共にし、早朝から夕方まで農園に出て、ぶどうの生命を尊び、
子どもを慈しむように愛情をもってワインづくりに尽くす農夫の生き方に心底から敬愛を抱いていらっしゃった。
そして、その情熱の冷めままに、
きちんと日本に持ち帰って、
生産者を応援するために、フランス産ビオワインを地道に
コツコツと伝道し続けている方であった。
「グロリエット」は、1号店に比べてカジュアルライン。
店の造りはいたってナチュラルで、若い人でも躊躇なく入れそう、
いわゆるカフェ風というバーである。
ボードに書かれたメニューから、私たちはまず「水ナスとトマトのサラダ」。
そして水牛だったか羊だったかの「自家製ソーセージとポテト添え」をオーダーした。
ワインは、赤を。
かおりさんは白からはじめた。
フレッシュ感があって、
体に深く自然にしみ入る素敵なワインだった。
あまりに好みのものだったので、オーナーに質問してみると、
やはり風貌は違ってみえていたのだが今城さんその人だった。
私の隣にいたかおりさんは、数年前、日本酒の利き酒師の資格を持つほど日本酒を、
そしてお酒を心から愛する人だ。当然のことながら、彼女は本当によくオーナーと話しがあったようで、添加物を加えず一切天然酵母でつくる考え方や、
農家や造り手の姿勢のようなものを共感しあい、いくらでも話は続いた。
おいしいワインを傍らでぐいぐい飲みながら、そんな酒談義に耳を傾けているのも、とても心地よいものである。
思いのほかワインが進み、2軒目でありながら4杯は軽く飲む。かなり、ご機嫌な時のピッチである。(普段はもうそんなに飲まない)
彼女のワインは、土っぽいスパイシーな味わいでセクシーなものを。
私はぶどうの香りが柔らかい、すっきりとしたナチュラル感があって
ごくごく飲める赤。雨の街灯とシャンソンを連想させるような酒場っぽさが隠れているようなワインを次々に用意してくれた。
帰り際には、お腹が空いてきて「チーズ盛り合わせ」まで食べた。
(2軒目にしては高いお代だったのだ)
この次、訪れたなら絶対に好みのワインをあまり語るまいと思う。
オーナーの勧めるこの日のおすすめを、先入観を持たずに飲んでみたい。
そのほうが未知の扉を叩けるだろうから。
わたしが聞いたのは「なぜ2号店を立ち上げようと思ったか」、ということ。近すぎる距離で、どういった違いをどんな意図で作られたのか知りたかった。
「1号店は、本格的なビストロ。おいしいお料理にあわせてワインを飲むという方がやはり多いです。
だから、もっと普通の人たちが、フラッと来てビオワインを飲んでほしい。
ワインって、本来はもっと気軽なもの。フランスでは日常の飲みものです。単純に、酸化防止剤が入って翌日頭が痛くなるようなワインでなく、
フランスの土壌に根付いた、作り手の真心が入ったいいワインがあるんだよと。そん風にビオワインの良さを知ってほしいとを思って立ち上げたんです」
そんな風におっしゃっていたと思う。
記憶しておきたいと思ったので、ちょっと詳しく書きすぎたのかもしれない。
(コマーシャル的になってしまったことは勘弁である)
ともかく今後の私たちの仕事のこと、好きなものを伝え人の役にたつ仕事をする人の生き方に、
ハッとするものがあったし、すこぶる心地よい熱い、夜。
おいしいワインのハシゴだった。