月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

洗足池のカフェ634

2021-10-06 12:57:00 | 東京遊覧日記

 

 

6月24日水曜日晴れ

 

いよいよ東京に来て5日めの朝。昨日は、昼と夕方、別々の仕事先から連絡があった。

今朝も、朝から定期モノの冊子のことで打ち合わせの電話。そして、友人からは、シャンソンライブをする件で席をとるなら早めにと、メールがある。

東京4泊5日もいよいよ幕引きだ。

 

 

Nはもう少し、東京にいてほしそうであったが、昼すぎの便で帰ることにした。午前中、近くのスーパーで買い物をして、簡単なものをつくる予定でいたが、Nがおすすめのカフェが洗足池にあるというので、出かけた。東急沿線の洗足池という。駅をおりて、商店街を歩く。

「634」というカフェ。 

こぢんまりとしてよい雰囲気。通りをあるく人の姿が席からみえるのが、楽しい。テイクアウトのお弁当をとりにくる人が多い。これは、なかなか期待できそう。

野菜はシャッキリ新鮮で濃い味。野菜ちぢみのつけあわせ。豚のしょうが焼きも、肉厚でしっかり食べ応えがあり、家庭的な味付けでおいしかった。食後のコーヒーには、自家焙煎のケニアのものを。こんなマイナス要素がみあたらない気さくなカフェが、近くにほしいなと思う。

この頃の良いと思うカフェは、フィンランドのヘルシンキを舞台にした「かもめ食堂」のイメージが強いように思う。関西には意外に少ない。









 

 

せっかくなので、洗足池まで足をのばす。






 







 

スワンタイプのボートがつないであり、ぐるりと散策するには十分の広さ。近くの邸宅やマンションも高級、洗足池はハイソな環境だった(聞くところ、パイロットの方なども何人かお住まいという)。千束八幡神社や、弁天神社を参拝し、半夏生が咲き誇る池のまわりをぐるりと歩いて、のんびりできてよかった。東京にもこういう広々とした自然があるのだ、と思いホッとした。

 

昼3時の便で、帰阪。

家へかえると、蝉がなきはじめていて、風がひんやりと山から吹いてきて、ああ、やっぱり関西は、風が湿っていて(山が多いから)いいなと改めて。うちへもどって落ち着いた。5時から、仕事の打ち合わせをZoomでする。

 

 


ぶらり根津・谷中

2021-10-02 15:23:57 | 東京遊覧日記

 

6月22日(火曜日)曇り

 

今日は、根津・谷中に行こうと決めていた。

 

「何があるの?」と、Nはいまひとつ乗り気でなさそうだったが、「大丈夫。とっても面白いよ。下町なのに、巡るたびに面白い宝物がざくざく出てくるみたいな町よ。夏目漱石も暮らしたことがある文豪の町!」と、よく知りもしないくせに胸を張り、Nを無理矢理に引っ張っていった。

 

 かれこれ4年前、古い友人に連れて行ってもらって以来、いつかもう一度、訪れてみたいと思っていたのである。

 

根津駅へ降りる。町に挨拶するために、根津神社へむかった。

 





 

 

境内で「大祓 茅の輪くぐり」をしつらえてあった。主に、スサノオノミコトを祀る神社で行われているもので、茅でできた輪をくぐることで心身を祓い清めるというもの。 

 

ゆっくり20分ほど参拝し、朝倉彫刻館に向かう前に、「芋甚」さんで休憩。アイス最中(アベックアイス)を注文した。

銀色、脚付きという懐かしい器。原材料を吟味したさっぱりとした昭和のアイスを最中に挟んでいただく。おいし。大阪本町にある「ゼー六」というアイス屋を思い出す。Nは葛きりを食べていた。

 

 



 

 

気分よくなったところで、町を歩く。台湾スイーツの「愛玉子」でおなじみの店。4年前と同じく中には入れなかった。残念!

 

 





 

住宅地を歩くが、小さな暖簾を上げる古風な店のつくりが多い。町の風情がほっこりとする。シュークリーム屋さんがあったり、草加せんべいの店があったり、古本屋や骨董の店があったり、お墓や社寺が顔をのぞかせたり。かと思えば、小学校の校舎、カステラを売る店……などなど。

商店と人の営みがごく自然に共存している、それが無理のない自然な距離でつながっている、実に心地いい町であった。昭和っぽいのか、大正っぽいのか。よくわからないけれど、急いでいないところだけは間違いない。昭和レトロと一言でいえばそうかもしれないが、本当に人が暮らす町という感じだ。階段や坂が多く、町の街灯も、味がある。

 

お目当ての「朝倉彫塑館」がみえてきた。

 

 









 

ここは、朝倉文夫の立派な彫刻に出会えるのももちろんよいのだが、それよりも、アトリエと住居だった建物自体がもう一度見たくて、立ち寄る。昭和10年に建てられた建物は、浅倉氏が設計し、和風建築(数寄屋の住まい)と洋風建築(コンクリート造りのアトリエ)の共存。中央には、池のある石と樹木が織りなす庭を設け、建物のどの場所からも庭が望めるように配している。1階、2階、3階の構造で屋上には園芸実習の場としていたようだ。屋上からは町全体が眺められて気持ちいい。

 

1時間も建物を堪能したとあって、気持ちも高揚し、てくてく歩いていると、よい古本屋があった。

喜び勇んで、持ち歩くのが辛いことも考えず、白洲正子の随筆と、アリス・マンローの短編を購入した。

 おしまいは、谷中銀座をぶらり。今回は谷中霊園などは行かなかった。

このまま歩くと、東京芸大があったり、上野までもすぐらしい。今度、荷物を減らして、ゆっくり歩いてみたい。

 




 

 

夕食は、予約していた串カツの「はん亭」へ。

 

 







 

夕暮れの日差しに古い佇まいが映えていい感じ。

 

白ワインをのみがら、コース料理をいただく。

 

牛ホホ肉、生麩、いんげん、コーン、えびの大葉巻き、れんこんの肉詰めカレー風、ショウガ芽、ほたて、あゆの稚魚、いか、なす、おくら、スモークチーズ。12種の串揚げをペロリと平らげた。

 


表参道のカフェラントマンでウィーンをしのぶ

2021-09-23 10:56:50 | 東京遊覧日記
 

 

朝7時。夢の中で雨が激しく降り、雨だれの音ぽたぽたしていた。が、起き出してみたら光が強く差し込んでいた。

Nが紅茶を入れてくれ、マンゴーとパンケーキで朝食をとる。

 

きょうは、表参道へ繰り出す予定だ。以前から、Nがチェックしていた「カフェラントマン青山店」へ行きたいのだという。

 

 

1873年、フランツ・ラントマン氏により最もエレガントなカフェとして誕生した。ウィーンのカフェ文化において社交界、政界の著名人も利用されてきた店。2019年12月、わたしと、Nは市庁舎でのクリスマスマーケットをみた帰り、手足がコチコチに凍るほどに寒くて、お腹も減っていていたので、「カフェラントマン」を目指して歩き、5組ほど待ってはいる。そうして確かに、エレガントだった。店の内装もさることながら、女優、男優きどりのお洒落な人が多かったのが印象に残っている。

温かい牛肉のスープとチキンの揚げ物、ポテトサラダ、ウィーンのビール、サラダ、ケーキなどを食べたことを思い出す。

 

 

 

さて、表参道の店である。

ただ、そこにある、カフェの周りの空気も町並みも、働くスタッフも当たり前だけれど違う。思い出すのに十分な舞台装置が整っているといったところだろうか。

 

コロナ感染症を心配して、屋外テラスを進めてくださるが、やはりここはソファー席である。懐かしいシュニッツェルとサラダ、かぼちゃのクリーム、そして「ザッハトルテ」をデザートに。ウィーンでたくさん食べたパンが食べられて、囓っているうちに、過去に飛んでしまう。とても懐かしかった。

 







 

 

 

それからケヤキを見あげながら界隈を散策した。

根津美術館に行ってみるが休館日。

南青山「コテージ」に立ち寄り、アンティークの雑貨をひやかし、表参道ヒルズに。エヴァム・エヴァムの新作をみて、ナチュラルスキンケアとアロマフレグランスの「THANN」。

ここは、タイのフレグランスを取り扱い、リゾート感が漂うアロマが揃う。Nが東京のインターコンチネンタルホテルで、スパを受けて以来、大ファンだという。

シャワージェルやオイルトリートメント、バスソルトなどを爆買い。私たち親子は香りものに弱いときてお店にとっての格好の客だ。

 

 




 夕方になり、渋谷の「宮下パーク」を案内してくれるというので付いていく。新しい若者のメッカらしい。「レイヤードミヤシタパーク。は公園と連動した90店舗のショッピングスポットや飲食店など複合施設が集結している。ただ、若者が多くて、おののいてしまう。

屋上は公園になっていて、渋谷の喧噪をみながら芝生の公園でごろんとなっておしゃべりや、カフェを楽しんだりできるとあって、散歩するにはよいけれど。1階はご当地の店も多く、お祭り気分が味わえた。

 

シンガポール料理で軽く夕食。Nから、シンガポールのうまそうなビールと料理を教わる。





きょうも、最寄り駅ではなく、東急の「多摩川」で降りて、25分ウォーキングして、帰宅。Nの部屋へお泊まり2日め。

 


ウィーンのホテル・ザッハの紅茶を買いに「デンメア」

2021-08-23 11:41:00 | 東京遊覧日記

 

 

 



 

 

白洲次郎、白洲正子の暮らしを垣間見える茅葺き屋根の家「武相荘」をでて、再び小田急線にのる。

新宿までもどり、六本木へ。

この日のもうひとつのお目当ては、ティーハウス「デンメア」である。

 

一昨年、ウィーンのザッハで買い求めたオリジナルティーが気に入っていた。日本では、六本木に直営店があるとのこと。さっそく向かってみた。

 

六本木の新美術館とは近い。通りに面していないので、わざわざ足をむけないとわからない奥まった場所である。

 

こぢんまりとしたかわいい店、赤い紅茶缶が目印。わたしたち以外は誰もいなかった。まもなく運ばれてきた、ティーポットにたっぷりの紅茶。Nとわたしは、おのぼりさんのように写真をパチパチ撮る。

 





 

ここは、東京の六本木だというのに、ウィーンの人通りの少ないカフェの風景がひろがっているような錯覚を覚え、初夏というのに気分だけは12月の冬を連想しながら、お目当ての「ザッハブレンド」を飲んだ。

 

きれいなオレンジに茶褐色のまじった、澄んだ水色。紅茶のカップのふちに口をつけた時、最初にジャスミンの白い花びらの香りがほのかにするのだが、少し弱い。気のせい?  

セイロンのブラックティーにベルガモットのブレンド(中国茶、インド茶、セイロン)の紅茶だという。若いお茶だとおもった。清楚で個性の少ないすっきりしたお茶だ。

 

2019年ウィーンの旅から帰路につき、「ホテル・ザッハ」の紅茶を開封したときの記録を、こう書いている。




静かなプロローグにはじまり、おそらくダージリンをベースに、ジャスミンの白いはなびら、ベルガモットがブレンドされている、飲み飽きないとても香り高いティーだ、と。華やかさが違う、と。

 

「ホテル・ザッハと同じものですか? やはり水が違うから少し違う印象になるんですね」

「ホテル・ザッハの場合は本当いうと少し特別にアレンジしています。ジャスミンの花にしても選び抜かれているものだけに独自の香りづけしています。こちらはつぼみの花を使っています。ただ製法やブレンドの仕方は同じですので気づかれない方がほとんどなのですよ」

 

十分においしい。ザッハトルテとあわせていただいた。

 

帰りに六本木ヒルズをぶらりと歩いた。

グランドフードホール六本木店。

 











 

海外のフードサーカスを思わせる。世界中、日本中のおいしいものを選りすぐって並べている。芦屋とくらべ、品数が多いし、店の作り自体が楽しい。食品のセレクトの仕方も秀逸で、眼をみはる。どの棚も、惣菜も、おいしそう。店のレイアウトからしてセンスを感じた。

奈良の黒川本家の葛餅があったのがうれしかった。

 

よし、スパークリングワインなどを買ってささやかな晩餐としよう。おいしそうなものを全部で8千円ほど買った。

家に持ち帰って食べる惣菜を選ぶ。マンゴーのサラダやローストビーフ、アボガドのポテトサラダ、オムレツ等々。1品で900円とある総菜が、「4品つめて2千円ジャスト」という特価で買えた。

帰りにみた東京タワーが暮れていく。ブルーグレーの海にくっきりと美しかった。

 

 





 

店をでて、山の手線、東急電車で変える。Nのマンションがある最寄り駅までいかず、多摩川で下車。マンションまで25分の道のりを夜風にふかれ、くだらない話をあーだ、いやこーだ、と話ながら家路にむかった。

 

この日は町田市の鶴川(「武相荘」)から六本木界隈。そして多摩川沿いの中原街道沿いまで、一日10キロの道のりを歩いた。

 

 


随筆家 白洲正子の書斎

2021-08-13 08:55:00 | 東京遊覧日記

 

 



 

 

6月20日(日曜日)

 

 東京に行くたびに、行ってみたい場所があった。東京・鶴川の「武相荘」である。

何度となくNに提案したものの、20代の娘にはどうも刺激に乏しい場所のようで、首を縦にふらなかったのだ。

 

 昨晩、ホームページの写真をみせて、白洲次郎氏と正子氏の夫婦について少し話すと、「併設にカフェも、レストランもあるのね。どらやきがおいしそう!」と同行してくれた。

 

 新宿から小田急線で鶴川まで。駅を降りるとむーっとした梅雨独特の暑さがたちこめており、あんまり暑いので駅前のアイスクリームショップでマンゴーアイスを買い、出発した。

 

 バスという選択もあったが徒歩20分のコースを選ぶ。ここへ来て周辺が山に囲まれていることに久しぶりにホッとした。東京は山がない。

 

 汗をふきながら住宅街を歩く。途中、老舗の寿司屋「六山」にふと眼がとまった。暖簾のかかり具合からして、その佇まいからして、う、うまそ。これはいけるに違いないとピンとくる。「ダメよ」とN。日傘をさして先へ急ぐので後を追った。

  

 敷地に足をふみいれた途端、明治期の家がもつ重々しい佇まいと、艶めかしく曲がりくねった樹齢の木々に迎えられた。

ここが武相荘(ぶあいそう)の入口。

 



 



  

 正子が30歳の時(1940年、昭和15年)に購入。この時、白須次郎と正子夫人が過ごした、「鶴川の家」である。草がぼーぼーと生え、左手奥には竹藪がみえる。

 

入ってすぐは屋外カフェテリアになっており、次郎が最初に乗ったクラシックカーの「PAIGE(同型車)」があった。向かいには、階段をあがってバーになっていた。

草刈り作業のためか耕運機、氷好きだった正子が使ったかき氷機も。

 

 

 

昼時だったので、苔や雑草がはこびる石を配した庭を過ぎて、白壁の古民家「武相荘」のレストランへ。

静かで広々とした古木の匂いがする室内。瀟洒な内装。審美眼の届いた古時計や絵画、置物、ステンドグラスの窓に心奪われながら、奥のテラス席へ座った。

  

先に来ている人々は、年配のご夫婦連れや、おじいちゃんとおばあちゃと息子夫婦、孫などの家族連ればかりが眼につく。

少なくとも、若いカップル客や女子連れがいなくてホッとしたし、とても落ち着いた。良い空間。

 

喉が乾いたので、小豆島のオリーブサイダーをいただく。これが爽やかで、実においしかった。

 



 

 



 

次郎が愛した「海老カレー」(1600円)。

母の兄である叔父がシンガポールに行った際に友人の家でごちそうになり作り方を教わったというレシピ。給仕する女性スタッフが「付け合わせのキャベツには、ドレッシングがかっていません。次郎が野菜嫌いだっので、カレーライスをかけて召し上がったそうで、そのまま再現しています」と説明してくれる。

 

 カレーの飯にしては、やややわらかく、水分多めに炊かれていた。ぷりっとした粒大のむきえびがごろごろと入り、辛くおいしいカレーだった。私たちの座ったテーブルのちょうど真横に、食器棚が置かれている。その中の、次郎の愛用者であるビールジョッキに目がとまる。

温かく、まるみがあるラインのカレー色のジョッキ。口をあてるところなど、しっとりと穏やかな飲み口でよい器。

 ほか、紅茶ポットやティーカップなど、良い調度品をみながらの食事は心が豊かになるようだった。

 

 

 レストランを出て、茅葺き屋根が庇をたれる「鶴川の家」へ。

 



  

 正子が30歳の時(1940年、昭和15年)に購入。買った当時、百年以上も経ち、荒れ果てた農家だったそうだが、「土台や建具はしっかりとしており長年の煤に黒光りがして、戸棚もふすまもいい味になっていた」と正子は書いている。

 

 木造平屋、漆喰壁に間仕切りは引戸である。四つの部屋が田の字のように、少しズレて並んでいる。

 入ってすぐは、どっしりとした皮張りのソファの椅子(4客)と大きなテーブルを配し、味のあるランプが、趣を添える。

絨毯や漆喰壁に浮かぶ絵画などにも、日本家屋の中に洋の粋が溶け込み、夫婦がいかに欧米の生活をうまく取り入れていたかわかる。

 

 書斎には、夫婦のたっぷりの蔵書。縁側の10畳とその隣の15畳には、正子好みの和食器や氷を食べるガラス器、蕎麦ちょく、そして夏の着物が展示されていた。

 

 わたしが、ハッとしたのは書斎の奥の北側にしつらえた小さな空間だ。 

 普通なら、衣装部屋となるところを正子は執筆の部屋にしていたようで、東西の壁にそって本棚を置き北の窓にむかって、卓を設けている。眼線の先は鉄格子の窓だ。お尻を下ろすと、足を入れられる、掘りごたつがあった。そこに立つだけで、正子の気概というか、眼鏡の奥から光る真剣な眼が、まるで見えるようだった。モノ書く人の部屋だ。正子はおそらく、ここに座った途端、音も匂いも全て消え、日常のしがらみからも解き放たれ、とてつもなく自由な心を得たのだろう、と思った。

 いいな、素晴らしいな、と。ピンと張り詰めた正子の気配を感じる。

 わたしの部屋の書斎にも、若干はある。よく似た緊張感が。追い詰められた空気が。

 夫婦が旅した欧米文化の洗礼によって、目利きの届いた本物の美に囲まれて。

格子引戸と障子で、ほどよく視界を遮る構造も見事。 縁は広く、南側には樹木の緑があふれていた。

 

 「前の持ち家が植木が好きだったので庭には木の花、草の花が四季を通じて咲き乱れ、山には女郎花、桔梗、リンドウが自生し、谷にはえびね蘭や春蘭が至るところに見いだされてた」(鶴川日記より)とある。

帰りに、武相荘をぐるりと囲む雑木林の丘陵を歩いた。竹藪は健在。山あじさいや鉄線の咲く花くところに小さな石仏が、ちょこんと立ち、主のいない古家をじっと鶴川の家を視ていた。

 

 

 





















 

 

 


雨の東京。 心は飛び立てるか

2021-08-11 08:11:00 | 東京遊覧日記

 

 

 



 

6月19日(土)雨

 

2021年1月以来、半年ぶりの東京。羽田までのフライト。ANAボーイング787。あいにくの低気圧が近づき、雨のせいで、途中で何度かふわっ、ふわっと揺れた。厚い雲と雲の間をぬけていく時である。

 

着陸。機内のアナウンスでCAさんが、「ANAボーイング787だけに贈られた特別のレインボーカラーでお客様をお見送りさせていただきたいと思います。またの搭乗をお待ちいたしております」。

と、言い終わるか、いなや。機内にかかったながーい虹。思わぬサプライズに飛び上がる。さあ、とエールをもらった気がした。

 



 

 

東京の気温は21度。雨からはじまる一日だ。

 羽田空港。人がまばらである。

お腹に何かいれようと、「アラスカ」というレストランでポテトコロッケとホタテ貝のクリームコロッケに、ロールキャベツ、線切りキャベツが山盛り入った洋食を選ぶ。

 

 




 

カウンターの両隣には透明なアクリル板を配し、わたしのすぐ前では中年のおばさんが伝票をくっていた。ランチを食べ遅れたサラリーマンや女性客が、入ってくると、おばさんは瞬時にキビっと動いて、お水とメニューを持って、素早い。常に、全体を把握して動く。この店はこの人でまわっているのだろう、という動き方だった。

 

 5時からの講評はまあ、想像していたよりはマシ。修正すべくところはどう変更するか考えよう。問題は、半分の分量にしたほうがいいというアドバイス!

 夜9時。コロナ渦で店が閉まっているので、Nが旅先で買ってきた食材で沖縄のソーメンチャンプルをこしらえてくれた。深夜1時半に就寝。夜中4時に目を覚ます。散歩にいきたいのを我慢。寝付けなくて、Nに気づかれないように、風呂で本を読んで朝になるのを待った。

 

 

 


欧風菓子「エノモト」の窯出しクッキー・シュー

2020-03-14 23:46:00 | 東京遊覧日記
 とろとろとねむっていたら、いきなり白の蛍光灯がギラッとたかれた。
深い睡眠のなかにいて、人工の灯りとわからないほど。薄目をおそるおそるあけてみる。Nが、薄手の黒いストッキングを、爪をたてないようにして履いているところがみえた。そうか。今朝は朝3時半にタクシーが自宅にくるのだった。

 紅茶だけ煎れてやり、Nを見送る。

 静けさの中。まだ4時にもならない。起きるのには早すぎると、そのまま夢のなかへ入っていった。
 電車の踏み切りの音や駅名のアナウンスが聞こえる。結局目が覚めたのは8時をまわっていた。ホテルではない他人の家で一人っきり。本棚から「旅ドロップ」を選び、そのままお風呂へ移動。ついでに沖縄のさんぴん茶を開封し、あったかいお茶をいれてゆっくりと読んだ。

 小窓がないので、外の空気は入らないが、そのかわりに循環式の追い炊き機能がついているので、何時間でも永遠とはいっていられそう。水没をさせないように気をつけて本を読む。

 と、メールをつげる着信音。

「11時には仕事がおわるので、池上まで出てこられる?」
「はいはーい。5時の便でかえるので、少しなら行けるよ」 


 「池上」駅は大田区内にある東急沿線の小さな駅だ。
 駅の改札を出てすぐの商店街「池上駅前通り商店街」を1分、歩いたところに昔懐かしいサロン風の喫茶店。
 欧風菓子の看板をみて「エノモト」。お目当ての店だ。ダンチュウの表紙を飾った王道のシュークリームの店だ。


 ウィンドウに並ぶのは、カラフルな生ショートケーキやクッキーなど。パティシェがつくるケーキというよりは熟練職人のおじさんがこしらえたと見うけられる色かたち。お目当ての「窯出しクッキー・シュー」があった。


 せっかくなので、持ち帰りではなくザ・下町風のサロンで食べたい。
 奥の喫茶店に座る。 Nも何度か来たことがあるようで、好きな席を選び座りこむと、早朝からの仕事内容などを、あれこれ話し始めた。


 私はといえば、背景のおじさん・おばさんが気になる。なんたって、ケーキ屋なのにナポリタンスパゲッティやカレーライスを味わう人が多いのだから。パフェのガラス瓶にスプーンをつっこみながら世間話しをしているおばちゃんの集団も大阪とはどこか違う。東京の下町ではみな服装が気楽だ。ヒョウ柄や、原色カラーに縦ロールの巻き髪というスタイルで、いきって決めてくる関西人のおばちゃんとは少し違う。

 化粧も薄く、買い物籠などをさげて、日常の延長戦に飛び出してきたという人。品のいい夫婦連れ。大きな宝石を指につけた金持ち風のおばさまも、服装はシックな装いに、薄化粧というのが共通点なのだった。というべきか大田区の特徴か。


 本題の、シュークリームである。これが想像以上だった。
 
 バターの香りがするシュー皮はサクッと。アーモンド入りのクッキー生地をのせてこんがりオーブンで焼いた上質の香りがする。ここに、カスタードと生クリームをあわせた幸せの黄味のクリーム。舌の上でとろける甘み。バニラビーンズの風味がすばらしい。これが欧風菓子か。
 ちょっと洒落れていて、どこか懐かしい。コーヒーと相性抜群だった。


 そのまま、池上街ウォッチングへ。
 歩いていると小さな寺院によく出くわす。太田区の梅の名所、「池上梅園」も。餅屋、甘味処や草加せんべい、カルメラ焼きを売る店。豆腐屋、蕎麦屋などもある。小さな純喫茶もある。いわゆる門前町の風情。商売の家々は古い日本家屋が多く、それにも、大いにそそられる。なかなか、味わい深い街だ。


 日蓮宗の大本山「池上本門寺」で参拝。
 長い階段をあがると、境内はひらけて、由緒正しい静かな寺だった。釣り鐘があった。帰り、階段上から見下ろせば、蒲田から田園調布あたりまで見渡せそう。


 お昼は、Nがみつけたという古民家カフェ「蓮月」で。

 坪庭がのぞめる一軒家。昭和初期に建てられた木造家屋で古きよき世代の名残が、奥庭に面したゆがんだガラス窓や、柱の傷、古時計などに漂う。1階はそば屋、2階は旅籠、結婚式の宴会場として使われていたこともあったそうだ。ちょうど雑誌の撮影部隊がきていた。
 お昼時なのでランチセットをいただいた。「東京の中にある地方、池上はそんなあったかい町です」。店にあった池上のタウンマップにはそんな風に書かれていたと記憶する。



東京遊覧日記 2日め上野&麻布十番で

2020-02-29 01:07:28 | 東京遊覧日記
 雨音で早い時間に目覚める。昨晩、ウイルキンソンの強炭酸と知多のウイスキーソーダーを飲んだせいか、夜中に何度もおきたせいか、気分が晴れない朝のスタートだ。

 
 Nが福岡で買ってきていたタラコがあるというので、日本酒(鬼ころし)とバター、醤油、マヨネーズでタラコのスパゲティをつくって食べる。

 
 それから傘をさして駅にむかい、東急電車と山の手線を乗り継いで上野まで。西洋美術館で日本・オーストリア友好150周年記念の「ハプスブルク展」を観た。
 
 本場のウィーンの美術史美術館やシューンブルン宮殿でハプスブルク家の人の肖像画はみていたので珍しくもないはずなのに、展示の仕方が違うと印象も違う。日本の展示法は絵と絵の間に、感情を込めるだけの余白をつくる。何らかのストーリーに沿って、みせていく動線。やはり見やすかった。解説もあるし、華麗なる一族のうつろいが理解しやすい。
 対して、パリやウィーンの美術館はもう少し哲学的(博物館的)なのかもしれない。(歴史や地理などに基づいて自分がみたい対象を自分で掘り当てていくスタイルのように思う)


 特に、マリアテレジアの威厳。青いドレスの王女マルガリータ・テレサ。ユピテルとカリスト。薄幸の王妃エリザベトなどなど。どの人物についても興味津々。人物にまつわる秘話など。深く知りたくなって、あとで本を購入したほど。


 美術館をあとにして、東京で好きな甘味処「みはし 上野本店」。
 
 クリーム白玉あんみつ。寒天、求肥、あん、さっぱりクリームに、すっぱいイチゴ。缶詰みかん。黒糖みつもおいしかった。
 Nは冬期限定の「粟ぜんざい」をうまそうに食べていた。汁気のまったくない、餅と粟のおぜんざい。シンプルな良い味。
 昭和っぽい、日本画のような空気が漂う。上野にきたらここだ。あと、御徒町の、「うさぎや」という店のどらやきは、美味い。




 気をよくして、麻布十番のそば処『川上庵』(表参道店にも以前いったことがある)。階段を降りて、隠れ家風の店の中はとてもにぎやか。女の人の笑い声や男性の乾杯の発声、音響が地階からぼわんと響きわたる。


 もずくの酢の物。半熟うまき。鴨の照り焼き。天せいろ。(くるみだれ)純米日本酒を2杯。

 誰も彼も日本酒をのみながら、一品料理をうまそうに食べていた。若いカップルが1組。あとは、各国大使館、総領事館の駐在員がお喋りに講じる姿が目につく。大人の少し怪しい雰囲気。江戸の蕎麦はうまいというが、わたしには少し甘いし、福井で食べた細い頼りない蕎麦にはおよばないが。関西にはない、いかにも東京らしい一日の〆。

 








資生堂パーラーの洋食のあとは「ブェンキ銀座店」

2020-02-05 00:18:40 | 東京遊覧日記


1月14日(火曜)

再び、機上の人である。夕方の4時。
「8K」という窓のない席。前席から半分みえる窓の外は、水色の中にうっすら赤みがさして、明るい。雲まで茜色だ。まるで湖面をすべっている。伊丹空港から羽田まで、空に浮かぶ時間は50分。もう1時間くらいどこの国にも属さない、浮遊旅行もいいなと思う。


京急線で蒲田までいき、新橋駅でおりる。交差点の信号を待って、銀座方面へ。
歩きながら、なにげなく首に手をやると、さっきまで飛行機の中で鳴り響いていた、BOSEノイズキャンセリングの残像がない。え! 鞄、コートの中、体にまとわりついていないかも探すがない。信じられない。新橋からの道のりを引き返して探す。が、跡形もなかった。


Nが駅係員の人に聞いてくれたり、道の隅などを探したりしてくれるのをみて、これはいかんと落ち着いた。落ち込んでも仕方ない。ないものはない。明日、手当たり次第、駅や電車や忘れ物センターに電話してみよう。と腹をくくり、気分よく歩きだした。


むかったのは銀座の資生堂パーラーだ。エレベーターで4階まで。







銀の食器がふれあう音。白のテーブルクロスとハイチェア。イエローの壁。
隣には、おじいさまと夫婦と子ども、孫たちが秩序正しくコース料理を味わっていらした。ボーイが席のところまでメーン料理を運び、丁寧にとりわけて各席に配る。本当においしそうである。
部屋の佇まいもきれいで、ここはテイストを変えない。銀座といえど、こういう店があるといいなぁ。ほっとする。


私は伝統料理からのメニューで「ミートクロケット」。Nは、「海の幸のグラタン」をオーダー。











オレンジのトマトソースがとろりとして艶やかだ。ナイフをいれるとサックリ、と切れ味よく、中はとろり。舌触りのいいクリーム系。食べ応えがあるのは、ハムとボイルした仔牛の肉をさいの目にカットしてあるそうだ。料理にあわせると白ワインが妥当だろう。
それでも、ブルゴーニューの赤を愉しんだ。何を話したのか、すっかり忘れたけれど。おそらくNの近況を面白く聞いたのだ。きっと。


光の洪水がキラキラする夜の銀座を歩いたあと、Nの推薦でチョコレートとジェラートの店「ヴェンキ 銀座店(Venchi Ginza)」(中央区銀座4丁目3番2号 )
まだ昨年12月にオープンしたばかりという。








イタリア・トリノ生まれ、創業して141年。合成香料や着色料、添加物の使用を控えた、鮮度のいいジェラートを提供。
店内は量り売りの高級チョコがずらり。

私たちが選んだのは、
ヘーゼルナッツとチョコレートを混ぜた「クレミノ」、「マンゴー」!
ほんのりお酒のはいった体にひんやりとして、いかにもフレッシュ。
さすが、チョコレートはしっとり濃厚、ビターでおいしかった。    







このままバーには足をむけないのが、まあいいんじゃないだろうか。すぐそばの銀座3丁目にある珈琲三十間へ。地下へ降りていく、隠れ家風。長く真夜中までいられそうな秘密基地みたいな安らぐ、静謐な空間だ。スピーカーがそういうくぐもった音で響く、まるでジャズの調べだ。


ファイベルカスティーロというキャラメル風味のコロンビア豆をつかったコーヒーを飲み、Nのマンションへかえった。


さて。Nの部屋で年末の仕切り直しですか。ウィーン産やフランス産のチーズを4種類アテに、彼女が録画した紅白歌合戦を観ながら、「知多」+ウィルキンソンの強炭酸で割った香りのいいハイボールをごちそうになる。なにも生み出さず、発見もなく、でも気楽で心地いい明るい話しばかりがはずんだ。1月のことである。








「自由が丘」の焼小籠包にはじまり、「日比谷」、「銀座」の蕎麦屋でシメる

2018-10-10 00:37:24 | 東京遊覧日記




翌日は曇り空で、肌寒かった。

Nが東急線の「自由が丘」を案内してくれるというので、付いていく。雑貨やアクセサリーの店をひやかしたあとで、「あ!ここきっと好きだよ」と教えてくれたのが、「大山生煎店」。

小さな店舗は、調理場と商品の受け渡しする所の反対側がカウンターになっていて、
ハイチェアによいしょっ!とよじのぼって座り、あつあつの点心(生煎)や担々麺を食べられるようになっている。古くてあまり綺麗じゃないところなど、どこか台湾っぽい造りだ。そこが気に入った。

この日も、近くの女子学生や近所のおばさん数人が担々麺や、ビールと生煎のセットメニューを食べていた。











生煎は上海のローカルフードだ。鉄鍋で焼く下側がカリッと香ばしい、もちもちっとした皮に少し穴をあけて汁を啜って、この旨い皮とともに濃い肉汁、肉餡をはふはふと、いいながら口にいれる。ごま風味でネギものっている。最初はそのまま。次に黒酢に浸して味わう。

1930年創業の北京の「阿三煎餡」のレシピを受け継ぐ店で休日には行列ができるそうだ。安いのもいい。


このあと、N御用達のパン&ケーキがおいしい「パティスリーパリセェイユ」に。







クロワッサンの焼き具合がよいとのこと。

そして、イデー(IDD)自由が丘のショップやエヴァムエヴァ、蚤の市をのぞき、
熊野神社のそば「カフェリゼッタ」で、いちじくのプリンアラモードとカフェオレで一服。





ブティックの「リゼッタ」は質のよいリネンやカシミアを扱う店で、大阪淀屋橋の芝川ビルの入る美容室(アトリエスタンズ)でカットしてもらった後で時々のぞく店。この日も、裾にかけてのシルエットが美しい綺麗な緑地のスカートがあって、欲しいと思うがこの日ばかりは見送った。


自由が丘を出たら、日比谷のペニンシュラホテル東京へ。
香港で購入して最高に気に入ったダージリンティーをぜひ買い求めたいと思って向かったのだが、1階のショップで「今期はお取り扱いありません」と丁重に断られ、がっかり。自由が丘でお茶したばかりだったのでアフタヌーンティーも飲めなかった。

そのまま、日比谷公園や皇居外苑に続くブティック街を歩く。
京都「一保堂」の真向かいに、京都「和久傳」がショップを構えているのが印象深い。
関西の老舗は、東京では堂々とした風格を讃えながら、よそ行き顔の風情で店を出されていて、それが大変ユニークだし個性的に目に映り、微笑ましい。

この通りには帝国劇場がある国際ビルにバカラショップがあるのだが、ショップの下にバカラのグラスでお酒を飲むことができるバー「B bar Marunouchi」もあるとか。





このあとは、東京ミッドナイトタウンなどをブラブラとみて歩いて、




有楽町や銀座を歩く。本日の〆は、銀座のそば屋「明月庵ぎんざ田中屋本店」。昔の銀座がここに。東京へ行くと一度は銀座に足が向かうのは、銀座という街があまりにも昭和な味わい深いエピソードをたくさん有しているからだ。


待つこと20分。いよいよ2階へ。
いかにも、江戸の粋を知るお年を召した男女が、冷酒やビールとともに、酒の肴をテーブルいっぱいにオーダーして〆にそばを啜っていかれる。

ごま豆腐、手羽先の塩焼き、銀たらの西京焼や丸ごとトマトサラダなんてのもおいしそう!などと、目を光らせていたら、万札がポンポンと飛んでいきそうな勢いだ。なにしろ、卵焼きが千円近くするのだから。

それでも、文人墨客っぽい人達が旨そうに、ものを食べている人をみるだけでも、楽しかった。ここを選んでよかった。










私たちは、季節の野菜が入る白和えを注文。ビールで乾杯して、Nは「きすの天ぷらそば」。私は「海老と季節野菜のかきあげそば」をいただいた。濃く甘めのだしで、しめにはぴったりだろう。そばはややこしあって、最後までしっかりと旨い江戸風のそばを味わえて満足。




恵比寿のビストロ「abbesses(アベス)」 は古いビルの2階にあった

2018-10-06 22:58:53 | 東京遊覧日記



2018年9月26日(水曜日)雨





再びの東京はやっぱり雨だった。

空の翼は、秋雨前線による気流の影響をまともに受けて、ベルト着用サインは40分以上も点灯したまま。ようやく消えたかと思うまもなく、「当機は、気流と霧のためにこの先も大きく揺れることが予想されますが、飛行には全く影響がございませんので皆様どうぞご安心ください」のアナウンスが入る。

飲み物サービスは、冷たいドリンクのみ。ホットコーヒー!と言いたいところを我慢してりんごジュースをお願いするが、新米のcaさんが、必死に足を踏ん張ってサービスしている感がみてとれる。
ほんの小さな揺れ、真下に短く落ちる揺れと、繰り返される機内で、クラシックを聴きながら、「翼の王国」(かてもの、 ほしもの、いいものという記事)を読んでいた。

羽田空港が近づくにつれて、気流はだいぶ安定したようだ。雨と霧で曇った窓からは、黒い液体のような海が下に波打っていて、ぽつんぽつんと黄やオレンジ色の船の明かりがみえた。



羽田の空はすっかり日が落ちて、冷たい雨が降っていた。京急線で品川駅へ。
久しぶりの江戸の人たち。社内は異常に明るく真昼のような顔をして目的地へ運ばれる通勤途中の人をチラチラと上目遣いにみながら、スマートフォンで今夜これから向かう店をずっと検索していたら、あっという間に品川に到着。雑踏の波間に組み入れられた。
娘のNと合流して、山の手線で彼女が気になったとい店をめざして恵比寿まで。


東京の夜は、3カ月ぶりだ。
あの時も、部屋に荷物を置くや、すぐに恵比須で食事した。

雨にぬれた寒い恵比須。薄い羽織だけでは、肩のあたりやお腹まわりがスースーするし、足はじんわりと濡れているので、気持ちが下がってくる。それでNに厚手のカーディガンを借りて、目指すビストロに向かった。




ビストロ「abbesses(アベス)」は古いビルの2階にあった。




(お店から拝借写真)


「お客様、お電話を頂戴はしておりましたが、当店はあいにくまだ満席の状態でして。2組のお方がデザートを食べていらっしゃいます。席をお立ちになりましたら、再度こちらからお電話をさせていただきますので、それまで、どちらかでお待ちいただけませんでしょうか」と店の人。

時計は8時半を過ぎていた。
この時間にどちらへ行けというのだ。

「はい、わかりました」と引き下がるNを抑えて
「この大雨では、どこにも行くことができません。先ほど、近くのコンビニで時間をつぶしてきたばかりでして、ここの1段下の踊り場で話しをしていてよろしいでしょうか」と私。
外は大雨で、寒いのだ。15分もぶらぶらとしてから店に着いたのだから、できれば軒下で休ませてほしい、そう思って口にするのは、やはり関西人である。
Nといえば、「ああ、怖いよ。怖い客だと思われたよ。もう…」と何度もつぶやく。

5分ほどして、ほどなく中へ呼ばれた。

赤の革張りのソファーが基調色となった、レトロな雰囲気。女の子が好きそうなかわいらしい店。壁に配したスタンドや、天井から吊り下がった丸いランプ使いが印象的で、パリ区内にある小さなビストロを彷彿した。











私の席の位置からは、向かいの窓ガラスに雨だれがぽたりぽたりと落ちてゆく光景が見えて、気持ちが高揚した。吸い込まれそうな夜の雨だれ。
これから飲むであろう赤ワインや白ワインの酸味とタンニンのキリッと効いた鮮やかな味を連想させ、この雨だれの景色とともに、それらをクイックイッ!と飲めるのだ思うと、ささやかな喜びを感じたのだ。



最初は、「真サバのマリネ」。






軽いブルゴーニュ産の赤ワインで乾杯する。
脂がたっぷり乗ったサバが、爽やかな酢でいい感じにシメられていて、とてもおいしい。香りのいいオリーブオイルをたっぷりとつけて、一口でほおばる。
アクセントの海草も、海っぽさを演出し、いい仕事をしている。


次は、「大粒の岩牡蠣とチーズのブルスケッタ」。





こちらは白ワインで。
フランスパンをさくっとかじると、クリーミーな岩ガキが舌の上に感じられ、ほろ苦い海のエキスが口の中にぬっーと広がって出る。
それを白ワインで、流し込む。得もいえぬおいしさ。うん、パリっぽい。この2品で、すっかり上機嫌になってしまったのだった。


若いカップルや女性グループが多い店で、店内は満席だ。
隣には、地味な編集者っぽい地味な女性と、小洒落た芸術っぽい中年男性。
時計をみるとすでに10時をまわっている。

次は、「ツブ貝とポルチーニ茸のエスカルゴバター炒め」。






ツブ貝、ポルチーニ茸より、エスカルゴ味のバターがよく利いていて、口の中がまったりしっぱなし。岩ガキの前菜と似たような味をオーダーしてしまい、思ったほど個性が感じられなかった。十分においしい一皿なのに、選択を誤った。少し残念。

また先程の隣席をちらりとみると、男女ふたりが目と目をあわせて、何かささやき合っている。大事な話なのだろうか。クイズを解きあっているようでも。白ワイン、フライドポテトだけで30分も粘っていて、それがとても旨そう!塩味のきいたポテトも、おそらく白ワインと合うだろう。


雨だれはあいかわらず、規則正しくぽたぽたと垂れ下がっていて、まるで真夜中のような空気を匂わせている。オレンジの灯とおいしそうな匂い。大勢の若い男女のおしゃべりで充満している店内に、こうして閉じ込められているのが不思議な感じだ。






最後の皿は「手長海老のラヴオリ」。




海老のだし汁からとった濃厚で香り高い泡のソースがたっぷりかかっているが、スプーンですくうと中からビッグサイズのラビオリが。
その1つ1つに手長海老の身が包み込まれていて、濃厚なだし汁の白いクリーミィーなジュースとともに、口に運ぶ。
シャンパンと合いそうな一品だった。


今回は前菜やパスタをメーンにワインを飲んだが、こちらの店は子羊のローストや黒毛和牛のローストが旨い店らしく、店主が何度もすすめてくれていた。

デザートには、フルーツのアイスとエスプレッソを。

また雨の日に訪れたいビストロだ。










恵比寿「写真集食堂・めぐたま」。一汁五菜のお料理とクレオパトラメロンを頂く

2018-07-03 23:42:52 | 東京遊覧日記

(北の大地へ) 「雲海を下ににみて空をいく、前へ」のつづき

JR恵比寿駅の西口から、駒沢通りを青山方面へひたすら上る。5分ほど歩くと駅界隈とは雰囲気が一変し、閑静な住宅街が広がる大人の街が続いた。(大阪の帝塚山みたいな)

「写真集食堂・めぐたま」。ここが今晩のお目当ての店だ。








真っ暗な夜の道に、外まで黄色の灯りがふんわりと迫り出している。
白木のカウンターの上には、おいしそうなものが入った大鉢がいくつか。

そして店の両壁は、床から天井まで隙間なく並ぶハードカバーの写真集の群。その数、5000冊以上もあるのだとか。






カウンターの中で忙しそうに食事を作り、いそいそと料理を運んだり、笑って常連さんのお相手をしているのは、いかにも料理好きそうな笑顔のきれいなマダム(店主)。ワンピースタイプのエプロンを翻してお給仕をする面々も。

この楽しくて仕方ないといった感じの接客に、まず、とても和んでしまった。

黒板メニューは魅力的なものばかり(手作り餃子とか)だったが、
我々は「季節の一汁五菜セット」をオーダーし、東京へ着いた初夜を祝ってビールと焼酎で乾杯した!
席からは、緑したたるガーデンが見え、白い小さな花がこぼれている。草や花の香りまで漂ってくるよう(昼はどんな表情なのだろう)。


お料理を待つ間、明日からの旅行の計画などを話しながらも、さっきから気になって仕方なかった写真集を2冊確保して(綺麗な南国の島のフルーツばかりを撮った本)。
黄色い灯りの店でのひとときを愉しんだ。

料理の品々のことを少しだけ、書いておこう。




黒米のごはんとお味噌汁。大山鶏のハーブ焼きとじゃがいの煮物、キュウリとお麩の辛子味噌あえ、メーンは豚しゃぶと青菜のサラダ、お漬物など。

皆。ビールはそこそこに、無言で東京の母がこしらえたあったかい味を堪能した。
東京でこんなにカラダによさそうな丁寧な家庭料理を食べられるとは、ちょっと拍子抜けしたが、わくわくした。

しかも、周りには写真集など読み物の宝庫。贅沢このうえない。

ふと視線をテラスに向けると、白×黒、小豆色のチェック柄の上品なワンピースを召した奥様と男性の中年カップルが目に入る。 ご夫婦なのだろうか、とても楽しそうに談笑が弾んでいる。そういえば、あちらも中年の二人組。良い店は、客筋をみるとたいていわかる、
そんなことをNと話していると、ふと。

「あちらのご夫婦から差し入れですの、よろしかったら」と
笑顔の店主が食後のデザートを各テーブルに運んでいらした。


そして私たちのテーブルにも。陽気な笑顔とともに、突然のデザートが届く。

鳥取県産の「クレオパトラメロン」だという。

ツルンと舌ざわりなめらかな白いメロンで、果汁の豊潤なまでのみずみずしさに、いっぺんに幸せが溢れた。

思わず、白×黒、小豆色のチェック柄の上品なワンピースを召した奥様に目でご挨拶して「おいしい!」と御礼をいうと、彼女はこんな風にいわれたと思う。

「仕事で鳥取の梨浜町へ行っておりましてそこで今朝、買ってきたのです。おいしいですね、あぁ、よく熟れていてよかった」。冷えていたら良かったのですけどね、と店のマダムも加わって、笑い合った。なんていい空間なのだ。「鳥取・梨浜町」という響きが、とても耳障りよく、まるで避暑地の小さな町みたいに聞こえた。


この店の先をもう少し歩くと、「山種美術館」があるという。
また足を運ぶことになりそうな良い店、良い時間だった。

こんな旅の途中のおいしい一幕——。(もしかしたら、この夏、梨浜町のクレオパトラメロンに会いに行くかも)。







江戸のサクラ咲く。

2018-04-10 23:48:35 | 東京遊覧日記



東京の桜は、都会の空気を深呼吸する低温の桜だ。花が白く乾燥している(暑かったせいだろうか)

こちらは日本橋の背高のっぽのビル群に守られた桜。







私の目がなんとか桜の中に、江戸風情をみようとしている。



皇居の西側、千鳥が淵。
菜の花と壕と、水辺。そこに桜が花弁をひろげて悠々と幸せそうにたくさん、並んで植わっていた。
















手こぎボート場の反対側を歩いた後で、芝生の堤防をかけあがって、今度は松並木をてくてくと歩き、東京近代美術館や日本武道館の方向へ。

夕暮れ時が近づいていた。

千鳥が淵の遊歩道を45度ほど歩く。
初夏の雲間を歩くように、ふわっふわっと江戸のサクラは咲いていた。

 「今度は手こぎボード絶対に乗ろっと」
 「誰と、、、、?」
 「来年の春、一緒にいる彼氏だね」








 
ふーんと鼻で笑ったが、ちょっと嫌な予感。Nの横顔は不確かで何かをはぐらかしたようないやな笑い方だった。
 (ここで純粋なはにかんだ可憐な花のような笑顔がみたい)


東横線「中目黒」。
















そこから桜をみながら、約1時間ほど歩く。
雑踏は容赦がない。京都の混雑はひと味違う、若者ばかり目立つ。


夕方からの日差しが桜に乱反射して、ノスタルジーな空気感。
みる角度によっては、夙川や芦屋界隈にもみえなくはなく、おそらくそれは目黒川の川幅が狭く、(桜の大木が両端から手を広げてつないだように)小世界的な美しさがこう見せるのだろう。

緑の季節も気持ちいいだろうな。

それにしても、両側には屋台やカフェ、ブティックが立ち並び、人、人、人。東京の桜はにぎやかだ。
 

 
少しいくと、「COWS BOOKS(カウズ・ブックス)」をみつけて小躍りする。
あれもこれもほしくて悩んだあげく、幸田文さんの著書「季節のかたみ」を購入。

今度は反対側のファッションブティックで
アースカラー調の天然素材で仕立てたイタリア製のワンピースとスカートを買ってしまった。

夕ご飯は、恵比寿。「アンティーカ・ピッツエリア ダ・ミ・ケーレ恵比寿」へ。

本場さながらの陽気な雰囲気。本場ナポリで150年続く老舗だ。
定番のマルゲリーターもこの大きさ。薄皮のピザはトマト&チーズ、バジルの風味がいきたジューシー満点!
最後まで食べ飽きず、2枚くらいペロッといけどうなほど軽いピザ。
ビールをグイーと飲み、このチーズたっぷりのピザをほうばる、タコのカルパッチョも、新鮮なタコが噛むほどにコリッ。
1日弾丸東京も、これにて本日はエンド。










 

桜ふる中でのランチ「ラボンヌターブル」(東京・日本橋)

2018-04-09 20:46:04 | 東京遊覧日記



朝5時半に起きて、7時半の飛行機(ANA)で羽田空港へ。
急遽依頼された編集会議の出席と、午後からは東京の花見を楽しむために。

仕事のあと3日間は春の「東京遊覧」をする予定だったが、前日の夕方にあまり時間のない案件を2本依頼されたので、
東京滞在1泊と半日となった。
 
飛行機の中でもいつもなら「翼の王国」吉田修一さんのエッセーでも読みながら、
機内の小窓からぼんやりと青い空や雲海を眺めているはずなのに、機内の中でも、降りてからのリムジンバスの中でも
ポメラのキーボードを叩いていた。

この日の気温は20度を超えていて、ピーカンの青空だ。
富士山もこんなにすっきり。






会議と打ち合わせに出て、スタッフと談笑した後で予定どおり日本橋へ向かう。
フライトがないNと待ち合わせて、予約していた「ラボンヌターブル」でランチ。






前菜はこちら。(おそらくどんなコース料理にも付くのだと思う)
びっくりした!これまで食べていたサラダは一体なんだったの?というほど美味しかった。
しっかりとした歯ごたえ、旬の野菜の甘み、素材1品1品がすごくはっきりと濃い味。
ドレッシングで調整するのではなく、野菜自体が強い味。





次に新たまねぎのスープ。ベーコン、ビーツ、ほうれん草入り。
甘みのある新たまねぎ感たっぷりのボタージュスープ。
この店はレベルが高い!とこの2品だけでわかってしまったかのよう






メーンは、上州せせらぎポークのロースト。
ごぼうのソース、山えのき、せりをそえて。
ややレアのローストは非常に柔らかく、ごぼうのソースがいい仕事をしてくれている。
食べ飽きないように山菜で味の変化が楽しめた。






デザートは
いちごのクリームダンジュ。見た目の遊び心が楽しい。
ふわふわの綿あめ、練乳。いちごの砂糖菓子
女の子の大好きなものを綿菓子の中に詰め込んで。


これにコーヒーと焼き菓子付き。

特筆すべくは、料理のおいしさもさることながら、
ガラス越し。風がふわーと流れるごとにふわっふわっとこぼれる雪のような桜がみられて、とても幸福。
吹いて舞い上がったり、ゆらっと揺れたり。小さな桜の花びらの陰影。
おしゃべりしたり、ほぉーと感嘆の声をあげたりしながら、素敵な桜景色を動画のように味わってしまったのだよ。