「四国を変えた本四高速」 大倉 風芽
本四高速は神戸淡路鳴門自動車道、瀬戸中央自動車道、西瀬戸自動車道の3つの路線から構成されており、それぞれ平成10年4月、昭和63年4月、平成11年5月に全線開通し供用が開始された。この供用開始までには約100年にわたる歴史的な背景がある。当初本州と四国に橋を建設するという構想が生まれたのは1889年のことで、香川県議会議員大久保甚之丞が現在のJR四国土讃線にあたる讃岐鉄道丸亀-琴平間開業の式典で瀬戸大橋について語ったのが始まりとされている。そしてその後1914年には徳島県選出の国会議員中川虎之介が「鳴門架橋に関する建議書」が帝国議会に提出されるなど明治、大正の時代から計画や構想が存在していた。しかし、本格的な議論が巻き起こったのは戦後の1955年の宇高連絡船「紫雲丸」の事故からである。この事故は濃霧の中出航した国鉄宇高連絡船紫雲丸と第三宇高丸が海上で衝突したというもので、168人の人命が犠牲となった。この紫雲丸は当時としては最新のレーダーを装備した船であったことや、犠牲者の多くが修学旅行生や婦女子であったことから社会に大きな衝撃を与え、本州と四国を陸路で連絡することの必要性を決定づけたターニングポイントとなった。その後1959年からは建設省や国鉄が本四連絡のルートの本格的な調査を開始し、1969年の新全総に現在の3つのルートが盛り込まれることとなった。そして1970年に本四公団が設立され四国島民400万人の願いであった計画がついに動き出した。そして1973年11月25日を起工式の日と定め3ルート同時の着工が予定された。しかしオイルショックの影響で5日前に突如計画の延期が発表され2年後の1975年になって再開されることとなり、また3ルート同時着工ではなく児島坂出ルートからの順次着工となった。そして平成11年5月の西瀬戸自動車道の開通をもってついに3ルート全ての建設が終了し、四国の100年来の念願が果たされた。しかし、3ルートの建設費は2兆8700億円に及び、その大部分が有利子での借入れによって占められていた。
この巨額の債務を当時の一般的な償還期間である30年で償還するため、債務額と償還期間から逆算し、当初は6000円から7000円という高額な料金設定がなされ、その条件のもとで瀬戸大橋であれば1日あたり2万5000台の交通量を見込むなど現実に即さない計画が立てられていた。しかし、高額な料金設定や交通量の甘い見積が原因で収支は常に赤字となり、利払いすら出来ない状態が続き負債が膨らんだ。そして最終的には4兆円近くまで負債は膨れ上がり自力での再建は不可能ということで、国が1.3兆円の有利子負債を肩代わりし本四公団は民営化された。そしてその後は国や地方からの援助や全国共通料金制の導入によって料金の引き下げが行われ、現在の計画では2065年に償還の目途が立っている。
このような流れの中でこの計画を含めた公共事業計画は無駄なインフラなどと批判を受け、利権や汚職、天下りの巣窟と糾弾された。しかし、事業の採算性に問題があったことは事実であるがその一方で本四高速の開通による経済効果は昭和63年から平成30年までの間で40兆円といわれるなど莫大なストック効果を生み出しているというデータもあり、陸路で本州と四国がつながったことによって観光の活性化や新産業の創出、流通の改善など計り知れない効果を生んでいる。このような事業単独の採算性の外にある外部経済についても考慮すべきであり、このような計算が難しい効果も議論を通して勘案し最終的な決断ができる政治家が必要だと考えられる。
参考文献
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https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/hw_arikata/pdf11/6.pdf ,(参照:2022-10-22)
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https://www.jcp.or.jp/akahata/aik/2002-04-21/DB_0501.html , (参照:2022-10-22)
櫻井よしこ.” 「 累積債務4兆5000億円『本州四国連絡橋公団』は日本のお荷物 」”.
櫻井よしこオフィシャルサイト.2001-06-14. https://yoshiko-sakurai.jp/2001/06/14/3762
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国土交通省海難審判所.” 汽船紫雲丸機船第三宇高丸衝突事件”.国土交通省.
https://www.mlit.go.jp/jmat/monoshiri/judai/30s/30s_siun_3ukoui.htm , (参照:2022-10-22)
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https://www.jb-honshi.co.jp/seto-ohashi/shoukai/rekishi2.html , (参照:2022-10-22)
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