細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(66)「スエズ運河から考える莫大なストック効果を発揮できるインフラの条件について」白岩 元彦 (2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2021-12-17 09:55:12 | 教育のこと

「スエズ運河から考える莫大なストック効果を発揮できるインフラの条件について」白岩 元彦

 私は地政学的な観点をもつことで、莫大なストック効果を発揮するインフラの整備を行うヒントになると考える。そして、そのようなストック効果を長年にわたって享受するためには、現状のインフラ整備状況に満足するのではなく、様々な分野に投資を積極的に行い、常に良質なストック効果を発揮できるような状況を整えておく必要があると考える。この論文ではこの主張について、スエズ運河の事例を紹介しながら論ずる。

 スエズ運河は、地中海と紅海を結ぶエジプトのスエズの地峡を南北に走る人工運河である。この運河はアフリカ大陸とアジアを隔て、ヨーロッパとインド洋と西太平洋の周りに位置する土地との間の最短の海上ルートになっている。スエズ運河を通行することでインド洋北西部のアラビア海からイギリス・ロンドンの航行距離は、アフリカの喜望峰回りに比べ約8900kmを短縮でき、約半分になる。これによって航行日数を約1週間短くし、燃料コストも約半分に抑えることができるようになった。また、スエズ運河から地中海を進む航路には、貨物の積み下ろしのために寄港できる港も数多くあるので、利用する船が多く、スエズ運河は世界的な交通の要衝となっている。

 スエズ運河通行料は主要産業の観光とともに、エジプトの主要な外貨収入源となっている。エジプト中央銀行によると、2018/2019年度の収入は約57億ドルで、GDP全体の約2.4%を占めた。そして、同年度のエジプトのGDP成長率は5.1%だったが、産業別でスエズ運河収入は7.9%を記録し、いまやエジプトのみならず、世界中の国にとって必要不可欠なインフラになっている。このようにエジプトは自国の地政学的な特徴を利用して莫大なストック効果を生み出すことに成功している。

 また、私は莫大なストック効果を長年にわたって享受するためには、現状のインフラ状況に満足するのではなく、様々な分野に投資を積極的に行い、常に良質なストック効果を発揮できるような状況を整えておく必要があると考える。

 スエズ運河は元々、当時の標準的な船の大きさを想定し、水深約8m、水位304m2、最大積載量5,000トンで建設された。しかし、その後エジプト政府によって開発プロジェクトが開始され、水域を4800m2、喫水を62フィートに拡大し、全長191.80kmとした上で、積載量21万トンの船を受け入れられるように拡幅工事を行い、2010年には喫水が66フィートに達し、この段階で約17,000隻のコンテナ船と、世界中のバルク船を受け入れることができるようになった。さらにいまは水深72フィートとすることで、世界の海上輸送に使用されている船舶の約99%が使用できるようになっている。このようにスエズ運河は地政学的に有利な条件を活用することで莫大なストック効果を生み出すだけでなく、常にその効果を継続的に享受できるようにインフラを整備している点が素晴らしいと考える。

 一方で、こうしたインフラは有事の際に世界中に多大な影響を及ぼす。2021年3月のエジプトのスエズ運河で2021年3月、日本企業が船主の世界最大級コンテナ船による座礁事故が起きた。1週間にわたってスエズ運河を塞ぎ、世界貿易に与えた影響額は約4000億円とも試算される。このような状況では充分なストック効果が得られず、むしろ事故に対応するために費用を使うことになってしまう。このようなリスクを減らすためには緊急時に慌てて対応するのではなく、平時から様々なリスクを想定し新たな技術に投資を行いながら準備を進めていく必要がある。

 私は以上の理由により、地政学的な観点を持つことは莫大なストック効果を発揮するインフラの条件のひとつだと考える。そして、そのようなストック効果を長年にわたって享受するために投資を継続的に行い、常に良質なストック効果を発揮できるよう整えておく必要があると考える。
世界地図レベルの広い範囲で日本を捉えると、日本はスエズ運河のような船運の要衝にはなりにくく、中国とアメリカ大陸、ヨーロッパ方面の間に位置するため中継地点としての役割を果たしやすい国ではないかと考える。このように地政学的な観点から日本が置かれている状況を捉えることで世界をより深く知るきっかけになり、日本が国際的な存在感を高められるようなインフラを保有できるようになる視点のひとつになるだろう。

参考文献
1.nippon.comスエズ運河事故から学ぶ世界海運の最新事情(https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00704/) 2021/12/10参照
2.SUEZ CANAL 新スエズ運河 (https://www.suezcanal.gov.eg/English/About/SuezCanal/Pages/NewSuezCanal.aspx) 2021/12/10参照

 


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