作成を開始してから随分と時間が経過しましたが、ようやく年明けに、福音館書店から「コンクリートってなに?」という絵本が出版される予定です。月刊「たくさんのふしぎ」、というシリーズからの出版となります。
巻末の掲載される、「作者のことば」を書いてください、と言われ、1000~1200字の依頼でしたが、勘違いして1800字程度で初稿を書いてしまいました。その後、削って1200字以内に収め、それが推敲されて実際の絵本に掲載されると思いますが、せっかく書いたので初稿をここに掲載します。
絵をご担当された小輪瀬さんの絵は、細部までこだわった大変な力作ですので、お楽しみに!
「「コンクリートの絵本を作りたいのです」と福音館書店の担当編集者に声をかけてもらい,世の中にありふれているのにほとんどの人が詳しいことを知らないコンクリートについて広く興味を持ってもらえるのであれば,とお引き受けしました。
私は土木工学という学問について研究・教育をしていますが,その中でも特にコンクリートについて研究をしています。土木工学とは,土(地球)を舞台に,木(自然)と共生しながら,人々が安全・安心で豊かなくらしをできるようにするための総合的な工学であると私は認識しています。その目的を達成するために,社会の様々な活動を支える様々なインフラの建設にコンクリートが使われていることを,本書をお読みいただいた方々には分かっていただけたかと思います。
小学生のころにコンクリートの研究をやりたいと思う人はほとんどいないと思います。私自身も,恥ずかしながら消去法で大学で土木工学を専門に選び,しかも決して高い志をもってコンクリートの研究室を選んだわけではありませんでした。しかし,それは私が未熟で,不勉強であったからです。土木というものがどれだけスケールの大きいもので,文明という人間が人間らしいくらしをする場においては常に土木があったという歴史を少しずつ学び,東日本大震災等を経て,私の中で土木の真の意義が徐々に体得され,そして遅ればせながらコンクリートという材料の魅力や奥深さに気付くこととなりました。
このように,未熟者で少しずつ学びを深めてきた私だからこそ,世の中の方々に分かりやすく土木やコンクリートのことをお伝えする使命があるのかな,と感じることもあり,それが今回の絵本にもつながったものと思っています。
今回の絵本は,コンクリートって何?という素朴な疑問から出発して,コンクリートの基礎的な知識から,コンクリートを使った建設技術のかなり詳しい情報,歴史的な情報,インフラが支える社会,環境・資源の視点等も含んだ多岐に渡る内容になったかと思います。これらの内容を子どもたちにも分かるように平易で簡潔な表現で説明することは想像以上に難しいことでした。編集者,編集部の方々のご助言や,言葉だけでは伝えられない情報や魅力を独特のタッチと細部までこだわった絵で表現していただいた小輪瀬さんに感謝いたします。私自身には絵を描く才能はほぼ皆無ですが,絵本を創り込んでいく過程からは多くのことを学ばせていただきました。
コンクリート,というと一般には,固い,冷たい,人工物というようなあまり良くないイメージを持つ方も少なくないと思います。しかし,本書にあったように,コンクリートに使われるセメントの主原料は,太古に生きた生物たちの化石である石灰石です。そして,砂や砂利などの骨材ももちろん,自然の材料です。コンクリートに特殊な機能を持たせる化学混和剤も石油からできていますので,これも結局は生物由来です。このような視点をもつだけでも,コンクリートの見方が変わってきませんか?
また,本書にあったように,セメントの一部を,製鉄所の副産物のスラグや,石炭火力発電所の副産物の石炭灰で置換しても,しっかりと固まりますし,むしろ長持ちするコンクリートをつくることができます。私の尊敬する建築家の内藤廣先生は,コンクリートは何でも包み込む母のような材料とも言える,とおっしゃっています。これも,コンクリートのイメージが変わる見方ですよね。内藤廣先生の建築には,コンクリートと木を見事に組み合わせたものがたくさんありますので,ぜひ機会があればご覧になってください。
私はコンクリートの研究者ですが,コンクリートがどこにでも大量に使われるのを望んでいるわけではありません。皆さんの生活を支えるために必要であれば,コンクリートが使われればよいと思うし,使われるのであれば,賢く,自然とも共生できるように使いこなしていくべきだと思っています。コンクリートの材料の製造にも,運搬にも,建設にも,補修・補強や解体にも,エネルギーや資源が使われます。これだけ広く,世界中で大量に使われる材料ですので,人間が智恵を絞りながら上手に活用していくべきです。この点が,コンクリートという社会そのものと切り離して考えることのできない材料に私が感じている魅力や奥深さです。
本書を通じて,コンクリートについての皆さんの興味が少しでも刺激され,インフラや土木についての関心が少しでも広がるのであれば,著者の望外の喜びです。」
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