細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

「私の本棚」 土木学会誌4月号の原稿

2014-12-18 09:48:22 | 趣味のこと

土木学会誌の2015年4月号に掲載される予定で、「私の本棚」というコーナーに寄稿しました。編集委員会からの依頼です。

実は、私は、土木学会誌に寄稿するのは初めてになります。読書が大好きな私の、土木学会誌のデビュー作としては、ふさわしいのかな、といろいろな縁を感じています。

もう一つ、コンクリート構造物の品質確保マネジメントの話を、寄稿するように依頼されており、どちらが早く掲載されるのかは分かりません。

以下、「私の本棚」の原稿をブログに掲載します。やや迷ったのですが、内藤廣先生の「形態デザイン講義」を紹介することにしました。

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タイトル 「時間の翻訳」

内藤廣先生が東京大学教授時代の最後の三年に、順番に構造・環境・形態の三本立ての講義をして、出版された三部作の最後の作品である。私は、先輩のI先生に「構造デザイン講義」を紹介されて虜になり、その後、三部作をもちろんすべて読破したが、中でも「形態デザイン講義」の「時間の翻訳」という内藤哲学に深く感銘を受けたのでこの記事を書いている。

I先生の学士会館での結婚披露宴の待合室で、私が座っていた隣の空いた椅子に内藤先生が座られた。初対面であった。ちょうど「構造デザイン講義」を読み終わった後だったので、いかに感激を受けたか、周囲の仲間にも薦めて皆で勉強していることをお伝えすると、とてもうれしそうにされた。そして「あなたはコンクリートをやっているんですか。であれば、フランスのノルマンディにLe Havre(ル・アーブル)という街があって、オーギュスト・ペレがコンクリートで戦災復興して世界遺産になったところがあるから、行ってみるとよいよ。僕は行ったことないんだけど。」と教えてくださった。私はいつか必ず行きたいと思っていたが、2013年10月からの一年間のフランス留学の間に、二回訪れた。うち一回はI先生も一緒であった。「形態デザイン講義」には、黎明期のコンクリートの「技術の翻訳」をそれこそ全精力をかけて行ったオーギュスト・ペレの傑作であるパリのル・ランシー教会も紹介されている。ル・ランシー教会にも二回訪れた。古くからフランスで一、二を争う港の街であったル・アーブルの復興を、時間やコストの大きな制約条件があったからこそ、コンクリートで成し遂げたペレのあまりにも大きな愛情に、私はル・アーブルで重厚な感銘を受けた。





本書のテーマは「時間の翻訳」である。内藤先生は、「生み出す側のサプライサイドにいる人間が、どのようにモノを翻訳して、つまり形に置換して、誰にでも分かるようなモノにできるか、より多くの人に届けることができるのか、ということです。」と書かれている。技術、場所、時間の翻訳の中で、時間の翻訳が最も難しい、と書かれている。

「土木は、いやぁ僕らは百年だから、といってやっているわけだけど、そこに明日や来年の希望はあるのか、と問いたい。(中略)百年といったって、本当に百年の未来から現在を待っているのか。」この投げ掛けに現在の土木技術者たちはどう応えられるだろう。

私は現在、コンクリート構造物の耐久性を向上させるための新設構造物の実践的な品質確保マネジメントを、復興道路や山口県を舞台に行っている。東北地方の凍結防止剤を大量散布する厳しい環境で百年の耐久性を持つ構造物を造ることは想像を絶する困難なチャレンジである。

このチャレンジを一緒に行っているT先生や山口県のNさんらと、内藤先生が「時間の翻訳」がご自身の作品の中ではうまくいったと言われている島根県芸術文化センターを訪れた。偶然、さかなクンのトークショーがあり、多くの家族連れでにぎわっていた。28万枚の石州瓦で覆われた鉄筋コンクリートの建物と、中央の広場にある巨大な水盤で水遊びをするたくさんの子どもたちの様子を見て、心から感激し、未来から現在を待つという内藤哲学が腑に落ちた気がした。



百年、数百年のスパンで将来、過去をイメージする明確なきっかけを与えてくれた本である。三部作の中では多くの建築物、土木構造物や著書が紹介されており、私はそれらを訪れたり、読書の幅を拡げたりもできており、内藤先生を心の中での師匠と仰いでいる。