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兵庫芸文センターで観た『トロイラスとクレシダ』、熱演には拍手。でもやはり難解でした。

2015年08月24日 | 観劇メモ
8月15日に西宮の兵庫芸文センターで『トロイラスとクレシダ』を観てきました。
シェイクスピア原作・翻訳/小田島雄志、演出は文学座の鵜山仁。世田谷パブリックセンターと文学座、そして兵庫芸文センターの共催の公演です。

私の観たシェイクスピアは「マクベス」、「タイタス・アンドロニカス」、「アントニーとクレオパトラ」、「ロミオとジュリエット」、「十二夜」の5作だけ。(^^;
今回の演し物「トロイラスとクレシダ」はどんな話か全く知りませんでした。
でもパンフレットを見たら、渡辺徹江守徹をはじめとする文学座の豪華メンバーに加えて、「ビッグ・フェラー」で寡黙な消防夫マイケル・ドイルを好演していた浦井健治と、「モーツァルト!」で見逃した(笑)ソニン、「炎 アンサンディ」で好印象だった岡本健一や、ベテランの吉田栄作などが出演するとのことで、ヨメさんも「これは観たいよね」との仰せで、某日、先行予約の画面からポチッとな。
ただし、いつもと違ってこの公演、結構前評判が高いのか、先行予約ではA列があっという間に無くなって、ゲットできたのはB列。でもまあセンターブロックなので良しとしました。







ということで8月15日に、お盆休みの渋滞を気にしながら出かけましたが、なんと道中はウルトラスムース、一時間足らずで駐車場にたどり着きました。
早めの昼食を済ませて阪急中ホールに戻ると、人出がそれほどでもなくちょっと拍子抜け。花も一つだけという寂しさ。
舞台は円形の一段高い台のおかげで見やすい配置。帆船の帆のような布が二枚つるされていて、場面に応じてさまざまな形に変わるのが効果的でした。
ということで感想です。いつものとおり敬称略。画像は当日購入したプログラムを勝手にスキャン&トリミングしています。m(__)m

あらすじです。
舞台はギリシャとの7年に及ぶ戦争を続けているトロイ。
トロイ王プライアム(江守徹)の末の王子トロイラス(浦井健治)は、神官カルカス(廣田高志)の娘クレシダ(ソニン)に恋い焦がれている。その二人をクレシダの叔父パンダラス(渡辺徹)が仲介して二人は結ばれ、永遠の愛を誓い合った。
しかしトロイを裏切ってギリシャに寝返ったカルカスは、娘をギリシャの捕虜となっていたトロイの将軍と交換することを提案し、クレシダはギリシャに引き渡されてしまう。ギリシャの将軍ダイアミディーズ(岡本健一)はクレシダを一目見て気に入り、クレシダを口説く。ギリシャの陣営を儀礼訪問していたトロイラスは、ダイアミディーズの求愛をクレシダが受け入れる姿を目撃して惑乱する。他方、トロイ王の長男ヘクター(吉田栄作)は、膠着状態になった戦況にケリをつけようと、ギリシャ軍に一騎打ちを申し出るが‥

舞台は小林勝也の狂言回しから始まります。

この人も「ビッグフェラー」に出ていて、IRAから派遣された調査員を演じていました。そのときはそう感じなかったのに、今回は少々滑舌が悪くセリフも不明瞭で、ときどき噛んでいたりでプチ残念な出だしでした。ちょっと『藪原検校』の浅野和之を思い出したり。
でもその後、渡辺徹とのアドリブの応酬で客席を沸かせていました。渡辺徹を舞台で観るのは初めてですが(そもそも文学座所属も知らなかったし^^;)、ややおネエの入った女衒を軽妙洒脱に演じていて感心しました。一時激ヤセな姿をテレビで見たりして健康が心配でしたが、今はそんな気配は全くなし。むしろ心配なのはメタボかな?(殴)
とにかくテレビで見るのとは全く違う渡辺徹が新鮮でした。
 

そして話は、その渡辺徹の叔父パンダラスが仲介して、クレシダ役のソニン浦井健治のトロイラスとの愛の場面へと変わります。

でも正直な話、ソニンを初めて生で観て、「エッ、こんな小娘だった?!(殴)」とプチびっくり。まあ単に無知なだけですが。
とっさに「レディ ベス」&「モーツァルト!」の平野綾を連想してちょっと不安でしたが、それもつかの間のこと。観ているうちになんとも驚愕のリアル演技に再度びっくり。大したものです。人間、先入観で安易に判断してはいけませんね。m(__)m
シェイクスピア劇につきものの、到底リアルな感情表現とは言い難い、古典的な美文調&形容詞満載の台詞なのに、よくまあこんなに気持ちの入った演技ができるものだと感心しまくりでした。脱帽です。

今や舞台に引っ張りだこというのもよくわかります。

ただ、この二人の話から、トロイとギリシャのそれぞれの将軍たちの話になると、展開は一挙にスローダウン。そして先のように美文調&形容詞満載の台詞が飛び交い続けるので、会話の内容を追いかけるのに疲れてきて、私の両瞼はプラス5Gくらいの重力がかかってきて、同時に頭にもプラス2Gの重力が波状的にかかってきて、耐えきれずについコックリとな。(殴)
でもそれは私だけではなかったようで、幕間でヨメさんも「なんか会話ばっかりで話が進まないね-。寝なかった?」と聞いてきたので、「いや全然」とキッパリ否定しました。(殴)
その後、そんな眠りを吹き飛ばしてくれたのは、松岡依都美ヘレンが登場するところから。このヘレン、戦争の原因になるだけあってコケティッシュで色っぽくて、すっかり目が覚めました。(殴)

女優といえばヘクターの妻アンドロマキ荘田由紀とヘクターの妹で予言者のカサンドラ役の吉野実紗も出番は少なかったものの印象に残りました。まあ男臭い舞台なので、女優さんが出てくるとそれだけで一服の清涼剤。(殴)
そしてカサンドラの予言どおりこのあと話は一路破滅へと進んでいきます。

荘田由紀と吉野実紗の二人が、必死にヘクターを戦地に行かせまいとする姿もリアルでよかったです。

今回の主人公のトロイラス役の浦井健治ですが、印象としてはソニンに負けていて(笑)、愛を得る場面でも完全にクレシダがリードしていて、手玉に取られていました。

実際は『トロイラスとクレシダ』ではなくて『クレシダとトロイラス』です。(笑)
トロイラスが、ギリシャに渡ったソニンが気になってユリシーズ(今井朋彦が好演しています)の案内で見に行って、クレシダとダイアミディーズとの会話に一喜一憂する姿もまことに気の毒でした。(笑)
「ビッグ・フェラー」とは全然違う役ですが、動揺し疑心暗鬼となるトロイラスをよく演じていました。


そのユリシーズな今井朋彦は、ちょっとゲシュタポ将校みたいな服装(そういえば今回の衣装は現代的なデザインの軍装とか女性の服と、古代の衣装が混在しているのが面白いです)で、演技もそういう味付けで目立っていました。ユニークな持ち味のいい役者さんですね。


クレシダに言い寄るギリシャの将軍・ダイアミディーズの岡本健一

岡本健一は先の「炎 アンサンディ」で何役もこなして大奮闘でしたが、今回はトロイラス同様にクレシダの虜となって振り回される役です。ただ、今回は芸達者な役者による海千山千の将軍が舞台に大勢登場するので、クレシダとの絡み以外はあまり目立たなかったですね。(^^;

ヘクター役の吉田栄作は、一騎打ちのはずが、横田栄司アキリーズの策謀で、寄ってたかって切りつけられて非業の死。

アキリーズの横田栄司↓

先述のように、ヘクターはカサンドラの予言で後半は死の影が付きまとっている役ですが、それをよく体現してどこか悲壮感のある演技でした。役に合わせて体を絞っていたのか、ちょっとやつれた感じなのもよく役に合っていましたね。

で、最後は御大・江守徹トロイ王プライアムですが、舞台姿が私の中のイメージとはかけ離れた体型(殴)で、顔もちょっとむくんだ感じで、パッと見では誰かわからなかったです。(^^; 
声もドモホル‥のCMとは違って(笑)少し不明瞭なのが残念でした。まあ1966年からの文学座員ということで年かなと思ったりしましたが、調べたらまだ71歳。今の時代、ちょっと老けるには早いと思いますが、まあ個人差もあるのでなんとも言えませんね。今回は出番も最小限でした。

そして劇の結末は、舞台狭しと駆け回る迫真の殺陣の大立ち回り。演出の鵜山仁が目指していたという「崩壊のエネルギー」全開で、最後は死屍累々。タカラヅカのスローモーションな殺陣(笑)と違ってド迫力でした。
この凄惨な結末は、プログラムの記事に「この作品は、国際紛争に加担しようとしている日本人が今まさに見るべき劇に思えてならない。」とあるように、憲法違反の戦争法案をゴリ押しして、わざわざ売られてもいないケンカを買いに行く安倍内閣に対するタイムリーな批判にもなっていました。

ただこの劇は、「トロイラスとクレシダ」という題名から連想する甘美な恋愛ものとは程遠く、主役?二人+ダイアミディーズのその後がどうなったのか、結末が示されないまま終わったのは驚きでした。それと、あれほど愛を誓い合ったはずのクレシダの心変わりも謎で、やはり発表以来問題作とされ続けてきたのもよくわかりました。
というわけで、最後は出演者の熱演に客席から大きな拍手が送られましたが、腑に落ちない幕切れとあって、全員総立ち!には至らなかったです。
私たちとしては、ソニンの演技力などの収穫がありましたが、やはり難題で不完全燃焼な結果となりました。

さて、あと数日で星組公演観劇です。好評のようで楽しみです。

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

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今頃になって「星逢一夜」&「ラ・エスメラルダ」の感想ですが‥

2015年08月17日 | 宝塚
雪組公演『星逢一夜』・『La Esmeralda』を観てきました。
といってもとっくの昔、7月23日の観劇なので、遅すぎ。(殴)
少し弁解させてもらうと、その週に身内の不幸があり、相前後して別のところからある原稿の依頼が入って、つい後回しになっていました。(^^;

とはいえ、この公演は期待の新人脚本家・上田久美子さんの大劇場初作品ということで、チケットをゲットした段階から期待値が上がりまくっていました。何せあの佳作「翼ある人々」の後ですからね。期待せずにはいられません。
ということで、渋滞の中を大劇場に向かいました。「王家‥」からそれほど期間があいていないのに、大劇場は結構久しぶり感が強かったです。

客席の入りはほぼ満席で、車いす用補助席も満席でした。

で、突然ですが、感想となります。(笑) 
でもこれが、絶賛モードとは程遠いかな~りなネガティブ感想だったりするので、今なお観劇後の心地良い余韻に浸られている方や、これから観劇を予定されている方は絶対スルーが吉です。
いつものとおり敬称略です。

(プログラム表紙です 今回は時間がなく、画像はすべてプログラムから部分スキャンしたものだけです)


結論的にはかなりガッカリでした。(^^;
ヨメさんと幕間で「今にどんでん返しがあるかと思いながら見ていたけど、なかったねぇ」と残念な感想を共有。(笑)
「翼ある人々」のときはチケットさえあればもう一度観たいと思いましたが、今回はリピートはないです。

でもはじめのうちは、いい感じで話が進んで、展開が楽しみでした。
どこか藤沢修平の作品を思わせるテイストも感じられて、とくに子ども時代の演出がよくできていて、さすがは上田久美子と感心しながら観始めました。

余談ですが、宝塚の強みは子役が自然なことですね。このあたりはオール女性劇団の特色が発揮できていると思います。もし普通の劇団で、男優がそのままの配役で子どもを演じたら、それはそれで話題にはなるかもしれませんが。(笑)

咲妃みゆはもちろんですが、早霧せいなも望海風斗も子ども姿が違和感まったくなし。子供時代の場面で脚本家らしくて笑ったのが、隣村の子どもとけんかして紀之介が負けるところ。ブラームスが酒場でボコボコにされるのを思い出しました。このあたり、いつも今に相手をやっつけるだろうと期待して常に裏切られています。

でも、今回の最大のガッカリは、主人公の生き方や考えにまったく共感できなかったことです。
私はてっきり、子供時代の天文学への興味から、やがて科学全般に探求心が広がり、その知識を実生活の多方面に適用して、窮迫した農民の生活を大きく改善するとか、破たんした藩の財政を立て直すとかという劇的な展開になるのではと期待しながら見ていました。ヨメさんもまったく同じだったとのこと。
ところがあろうことか、吉宗に気に入られて異例の大抜擢で要職に就いた晴興は、そのまま一直線に圧政を推し進める辣腕の老中となって、最後は源太まで殺してしまう! これにはさすがに大ガッカリ。
さらにいくらフィクションとはいえ、老中と百姓が一騎打ちとかちょっとついていけないシチュエーションがあったり。それと、源太も百姓、泉も百姓の娘なのに、次男でやがて隠居の身となるとはいえ藩主の息子が、子供時代の偶然の邂逅はともかく、その後まで三角関係を継続するわけないだろうとか、いろいろ考えてしまいました。
このあたり、似たような話で、宝塚バージョン「若き日の唄は忘れじ」も大好評だった藤沢修平の「蝉しぐれ」とは大違いな設定の無理を感じました。

でも、そんな感想を持ったのは私たちぐらいで、舞台が終わりに近づくにつれ、客席ではあちこちでハンカチで眼をぬぐう女性客の姿が。まあ今回は全体のトーンがそういう泣かせる雰囲気によく作りこまれていて、私もついその術中にはまりそうになったり。(^^;
ただ、私たちのような辛口感想を持ったのは少数派なようで、市中の評判は上々とのことです。

という全体の印象はこれくらいにして、配役ごとに感想です。

まず、天野晴興(紀之介)役の早霧せいな。少年時代の紀之介ですが、はじめは別の配役かと思ったら本人でびっくり。喧嘩が弱くて星ばかり見ている少年が、やがて吉宗の強力なバックアップで老中にまで上りつめ、それにつれて立ち居振る舞いも洗練されていく姿をうまく演じていました。しかし、本来民百姓の味方で、彼らに寄り添っていたはずなのに、いつから過酷な重税を課すまでに変わってしまったのか、その内心の変化がよくわかりませんね。
ただこれは脚本・演出の話です。
早霧せいなはひたすら内心を押し殺してその務めを果たす姿をよく演じていましたが、私たちはいつ晴興が本心を表して、善政を敷くようになるのだろうかと儚い期待を抱きながら観続けていました。(まだ言うか)


次は相手役の咲妃みゆ。童顔で少女役はうってつけですが、妻となり母となった姿もその年月がよくわかる安定した演技でした。うまく老けていました。最初のころに紀之介が、泉の父を獄門にかけた藩主の息子と知って激しく反発するところもリアルでよかったです。

今回の芝居で一番自然に感情移入できる役だったのが(笑)、源太望海風斗。でも優しく思いやりのある源太が、藩の圧政に耐えられず、ついに父と同じように義民として立ち上がり、最後は晴興の刀によって倒されるというのはあんまりな話です。ただ望海風斗にとったら、客席の同情を一身に集める儲け役でしたね。舞台では芝居もショーも存在感大で、彼女の移籍で雪組もさらに厚みが出ました。

あとは、将軍吉宗役の英真なおきが出色の出来でした。最近見た彼女の役では一番の当たり役といえ、「第二章」の軽妙な役からは想像もできない貫禄十分の吉宗でした。演技のダイナミックレンジが広いです。
紀之介の養育係・鈴虫香稜しずるや、村の百姓の子供たちのちょび康役の彩風咲奈、幕府天文方筆頭の猪飼秋定役の彩凪翔がいい仕事していました。
そして晴興と結婚することになる吉宗の姪・貴姫役の大湖せしるは言うまでもないインパクトのある存在でしたが、晴興との感情のやり取りがほとんどなくて、ちょっともったいなかったですね。

ということで、みんな頑張って演じていましたが、やっぱり残念感のほうが強い感想になってしまいました。

そしてショーですが、これはもう始めから終わりまで全編お祭り騒ぎで、観ていて疲れました。
年のせいか(笑)、こういう一本調子の騒がしいショーはついていけないです。やはりしっとりとしたダンスの場面とか、聞かせる歌の場面などメリハリのきいた変化のあるショーのほうがしっくりきます。

ショーの最後では、今回の作品で退団する透水さらさがデュエットダンスからパレードのエトワールまで出番をもらっていました。結構勝手に応援していた歌姫・透水さらさの退団は残念ですが、今後の活躍に期待しましょう。

というわけで、私の独断と偏見に満ちた感想は終わりです。でもまだ上田久美子さんには期待していますので、次作を楽しみにして待つことにします。

ここまでご覧いただいたみなさん、本当にありがとうございました。m(__)m

さて次は兵庫芸文センターで観てきた「トロイラスとクレシダ」の感想です。アップ頑張ります。(笑)


コメント (4)
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