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兵庫芸術文化センターで『鴎外の怪談』を観て 今年の観劇ベスト作品候補です!

2014年11月19日 | 観劇メモ
最近、ひんぱんに兵庫芸文センターに通っていますが、11月8日(土)もここで二兎社公演『鴎外の怪談』観劇でした。
近頃よく渋滞する阪神高速ですが、幸いこの日は渋滞も大したことなく、1時間余りで到着。
いつもの障碍者スペースに駐車して、これまた最近定番の劇場近くのお手軽イタリアンで昼食を済ませて阪急中ホールへ。

今回も先行予約のおかげで最前列の良席が確保できました。最近ずっとこういう席ですが、やはり臨場感がすごいです。クセになります。(笑)
舞台のセットは最近にないリアルな出来で、感心しました。後日劇場で買ったパンフレットを見ていたら、裏表紙に鴎外の旧宅の図面が掲載されていました。その図面と舞台セットが同じなので再度感心しました。12畳の洋間です。今回の芝居はすべてここで行われます。

ということで、いつもの薄味な感想です。例によって敬称略。画像はパンフレットから。

まず鴎外役の金田明夫


初めて舞台で観ましたが、小柄な人ですね。でも味のある演技で、鴎外とはこういう人物だったろうなと思わせる説得力がありました。
写真で見る鴎外は取り澄ましていて冷たい感じですが、実際はこんな人物だったかもと思ってしまう説得力がありました。

でその鴎外ですが、動揺常なきインテリです。
後妻と姑の苛烈な対立に悩み、また親友の元陸軍軍医・賀古(もう俗物もいいところで、なぜ付き合っているのか疑問)との交遊の一方で、その対極というべき雑誌「スバル」の編集人で大逆事件の弁護人・平出修とも付き合っているという矛盾した存在です。さらに若き日の永井荷風とも文学を論じ合うという、複雑な人間関係の中で生活しています。

こういう複雑で、まあ二股膏薬というか、ジキルとハイドというか、鵺のような存在の鴎外を、金田明夫は時にコミカルに時にはシリアスに丁寧に演じていました。いい役者さんですね。
そういえば昔鴎外の墓を見たことがありますが、大正デモクラシーを象徴する素朴で飾らないいい墓石でした。

本当に鴎外の交遊関係は複雑です。


芝居を観ながら、森鴎外とはどういう人物だったのか、考えさせられました。
当時の軍医の最高位・軍医総監まで上り詰めながら、一方ではドイツ留学を契機に西欧の文学や、当時の最新の自由思想に触れて日本に紹介したり、それらをもとに次々と文学作品を発表。でも「ヰタ・セクスアリス」が風紀を乱すということで発禁処分を受けたりしています。
でも常識に囚われない進歩派だったかというと、留学中に知り合ったドイツ女性が、彼を追ってはるばる日本まできたのに冷たく追い返すという仕打ち。その一方で大逆事件で不当逮捕された人々の弁護にも手を貸すという二面性がナゾですね。まさに「鴎外の怪談」です。

その鴎外の後妻・森しげ役は水崎綾女

最初セットの廊下での台詞がやや聞き取りにくい感じだったので心配しましたが、その後の芝居では文句なしに聞き取りやすいセリフで安心しました。まだ若くて舞台経験も多くはなさそうですが、底意地の悪い姑の露骨な嫁いびりと互角に渡り合って大したものです。(笑)
きれいな容貌ですが、パンフレットの写真では実物のほうがさらに美人なようです。(殴)

写真の説明にもあるように、文筆活動にも携わるなど才色兼備で気の強い女性だったとか。しかし鴎外もかなり面食いですね。

雑誌の編集者で文筆活動でも知られて、さらに弁護士の平出修役は内田朝陽。長身で、舞台のセットが窮屈そうです。

平出 修は鴎外から、当時強まっていた西欧思想の排撃と言論統制で入手難になっていたプレハーノフやクロポトキンの本を借りて読むなどして、新しい西欧思想をどん欲に取り入れようとしています。
このあたりの場面には、演出家の、現在の日本の偏狭な国粋主義の風潮や、「特定秘密保護法」をはじめとする安倍政権の危険な動向に対する鋭い批判が込められていますね。
内田朝陽の平出 修は、大逆事件の被告を何とかして救おうと弁護に四苦八苦する姿をよく演じていました。
実際の裁判での平出の弁論は裁判の不当性をいろんな角度から指弾していて、死刑の不当判決を受けた被告たちの唯一の救いになったとか。被告たちの獄中からの手紙にはどれも平出の弁論に対する感謝が綴られていたそうです。森鴎外がその弁論構成に一役買ったというのは史実でしょうか。

一方当時の文化の最先端を行っていたのが永井荷風。佐藤祐基が演じています。

彼も内田ほどできないですが長身です。なかなかのイケメン。演技も他の俳優同様安定していました。
私は知らなかったのですが、永井荷風はアメリカやフランスに留学するなど、時代の最先端のキザな生活を送っていて、後年の作品などから受ける私の作家の印象とは大きく異なっています。同じ海外留学経験のゆえか、荷風は鴎外の屋敷によく出入りしていたとか。

この芝居で一番インパクトのあった登場人物が、鴎外の母・森 峰役の大方斐紗子

もう100年の時空を超えて森 峰が蘇ってきて、大方斐紗子に憑りついたとしか思えないほどのリアルさ。意地悪さが演技とは思えません。いやほめてます。
ただし、史実では鴎外にしげとの再婚を勧めたのが峰だったりするので、複雑です。

本当に大方斐紗子は完璧な演技と台詞です。骨の髄まで憎々しいです。
この人、歌唱力にも定評があり、シャンソン・コンサート『エディット・ピアフに捧ぐ』をライフワークとしているとか。機会があればぜひ聴いてみたいですね。

リアルといえば賀古鶴所役の若松武史もなりきっていました。

もう絶対いますね、こういう人物。俗っぽく計算づくで、上の顔色ばかりうかがっていて、常識から一歩も出ない人生観の持ち主。

でもそういう人物と、開明的な西洋思想に触れた経験のある鴎外とが親友関係にあるのがナゾです。これも怪談です。

若松武史はうまい役者さんですね。一つ一つの表情・セリフ・仕草から、嫌な奴のオーラが満ち満ちています。
感心しました。

今回の芝居で脚本の妙といえるのが、女中・スエ。演じているのが高柳絢子

スエは架空の人物ですが、これがなかなかのツボでした。
はじめのうちは、よくシリアスな芝居で設定される笑いを取るための癒し系というか、息抜きの役かと思っていたのですが、これが実はプチ・ドンデン返しな役。
まだ公演日程がありますのでこれ以上は書かないことにしますが、キーワードは大石誠之助です。
脚本・演出の永井 愛の大石誠之助に対する想いがスエという形で表現されているのだと思いますが、この設定、大好きです。私も大石誠之助について少し調べたこともあるので、こういう形で紹介されたのがうれしかったですね。
で、高柳絢子はこの意外な展開の役をうまく演じていて、観劇中から好感度極大。まだ若いけど、いい持ち味のある役者さんです。


ということで、今回は二兎社も、脚本・演出の永井愛も初めてなら、登場人物もみんな初めて観た役者さんばかり。
そして題名からしてどんな話なのかまったく見当がつかない観劇でしたが、すべてが満点。よかったです。

こまつ座とはまた違った味わいがあり、ぜひまた二兎社や永井愛の作品を観てみたいと思いました。

この公演、12月11日の北海道たかすメロディーホールまで全国ツアーが行われています。ぜひご覧ください。おすすめです。



さて次は宙組「白夜の誓い ―グスタフIII世、誇り高き王の戦い―』『PHOENIX 宝塚!! ―蘇る愛―』の感想です。
芝居のほうは、これまたいい舞台でした。さすが原田 諒先生です。

遅い更新ですが、またアップしたらご覧になってください。



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兵庫芸文センターで「炎 アンサンディ」を観て 

2014年11月12日 | 観劇メモ
このところ、クアッドコプタ・Phantom2にスッポリはまってしまって、暇を見ては飛ばしに行く始末。(殴)

なのでただでさえ遅いブログの更新がさらに滞っていますが、この辺でちょっとPhantom2のほうは休憩して、たまった観劇感想を書いていきます。m(__)m
その第一弾が兵庫芸文センターで観た『炎 アンサンディ』です。

題名がその前に観た『炎立つ』と似ているのでチケットを申し込んだ時点ではややこしかったのですが、当然内容は全く別物。

こちらの舞台はカナダ・モントリオールとレバノン。始まりはモントリオールからで、突然の母の死を前にして、双子の姉弟がそれぞれに託された母の遺言の中に込められた願いをかなえるため、母の祖国レバノンを訪れるという展開です。

姉弟それぞれの話を追っていくうちに、次第に明らかにされていく衝撃的な事実(まるで映画の安っぽい宣伝文句みたいですが^_^;)。
まあなんというか、ギリシャ悲劇のようで、最初のほうの芝居で若い二人がかわす現代風な会話から受ける舞台の印象が、途中からガラっと変わっていきます。内戦のレバノンでの深刻な抗争の中で展開される悲劇が重いです。

ギリシャ悲劇風であり、また謎解きのサスペンス風でもあるこの芝居、観ていくうちに「あれ、これどこかで見たような話だな」と思い始めました。それも最近見たような感じです。心の隅でどこで見たのかなと自問しながら舞台に見入っていました。

で、幕間にヨメさんにそのことをいうと「何言うてんの!この間見た『灼熱の魂』やんか。もう忘れたん?」
そうですね。WOWOWで見ていました。2010年のカナダ映画です。その時も見ながら「これギリシャ悲劇みたいやね」とか言っていたのも思い出しました。ちなみに劇の題名のアンサンディとは映画の原題「Incendies(火災とか火事の意味)」からとっているようですね。

でも映画と芝居ではストーリーは同じでも、また別の味わいがあります。映像に頼らない分、芝居のほうが直に感覚に伝わってきます。
なんといってもよく組み立てられた脚本で、重厚な中にもスリリングな展開がすごいです。

ということで、個別の感想です。いつものとおり敬称略です。

まず母親ナワル役の麻実れい


今回の舞台では座長芝居という感じでした。この舞台の素晴らしさは彼女の渾身の演技に負うところが大きいです。長年の麻実れいウォッチャーなヨメさんも、今回の舞台が一番よかったというほどの出来。
それぐらい力の入った演技でした。初演のフランス版では3人の女優が演じ分けたというタイムスパンの長い話ですが、それをセリフの声のトーンを巧みに変えたり、微妙に身のこなしを演じ分けたりして年齢の違いを表現していました。

いつまでも衰えを見せない彼女の力量と努力に感心しました。

次に眼を引いたのがニハッドの岡本健一

初めてお目にかかりましたが、パンフレットの経歴を見たら、芸歴が豊富で、舞台では蜷川の『タイタス・アンドロニカス』にも出ていたようですね。麻実れいともそこで共演していますね。
でも私は当時ヨメさんに誘われてその舞台を観ていますが、全然記憶にありません。^_^;
しかし今回はしっかりと観られました。(笑) 寝なかったし。(殴)
台詞がちょっとジャニーズ事務所らしい風味が感じもしますが、演技はしっかりしていて大した役者ぶりです。しかも劇中で医師やガイドや墓地管理人や老人、ナワルの最初の恋人役など何役も務めていて大奮闘。よく台詞が回るものだと感心しました。

双子の姉弟のジャンヌを栗田桃子、シモンを小柳 友が演じています。

この二人も複数の役を演じていて、栗田桃子はなんとナワルの祖母ナジーラも演じ、小柳 友も民兵を演じるなど頑張っていました。

現代の若者が次第に変わっていく様子がよく演じられていて、好感度大な感想となりました。

まあ兼務といえばなんといっても中村彰男が頑張っていました。

元看護士のアントワーヌに加えてシモンのボクシングコーチ・ラルフ、ナワルの故郷の村の長老、学校の門番、抵抗勢力のリーダー、産婆!、戦争写真家と大活躍。それも同じ役者とは到底思えないほどうまく演じ分けていて、すっかり騙されました。(笑)
演技に説得力があって大したものです。

ナワルの母ナジーラとナワルの友人サウダを演じたのが那須佐代子

渾身の怒りと悲しみ、魂の叫びをぶつける演技に圧倒されました。

中嶋しゅうの公証人エルミルはちょっと物足りない感想になりました。

この人は、最近観た『おそるべき親たち』でも感じたのですが、割と存在感が薄いユルイ演技が持ち味?でしょうか、ちょっと私としては残念感のある役者さんです。
似たような残念感は、こまつ座の『藪原検校』で狂言回し役を務めた浅野和之にも感じました。

繰り返しになりますが、今回の舞台はなにより麻実れいが久しぶりに全力投球したいい作品になっていて、見ごたえ十分でした。その渾身の演技に呼応して他の役者さんもいい演技で、最後は全員総立ちで拍手。
しかもこの日が大千秋楽とあって、終演後担当プロデューサーが司会して、演出の上村聡史と麻実れい、岡本健一によるアフタートークもあり、大満足。この演出家にも今後注目したいですね。

予想以上の大作で、心地よい余韻を味わいながら、帰途につきました。いい一日でした。

さて次は今回の『炎 アンサンディ』と並ぶ今年の収穫といえそうな『鷗外の怪談』の感想です。頑張らないと。

さらに明日11月13日は久しぶりのタカラヅカ観劇です。どんな出来になっているでしょうか。




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こまつ座『きらめく星座』を観て いい脚本といい演技 至福のひと時でした

2014年11月02日 | 観劇メモ
前回のこまつ座観劇は『太鼓叩いて笛吹いて』でした。なので本当に久しぶりに井上ひさしの世界とご対面です。

道中は全く問題なく、余裕で劇場に。
最近すっかり定番になった、劇場近くのチェーン店のイタリアンで昼食後ロビーに戻りました。兵庫芸文センターに通うようになってわかったのは、入り具合が開場前でもロビーの様子で大体予測できることです。この日はあまり活気がなく、ちょっと苦しいかなという感じでした。

席は最前列のほぼド真ん中。パソコンで予約した成果です。(笑)
座ってから振り返ったら、やはりR・S・T・U列の左右がぽっかり空いていました。もったいないです。

ちなみに、ご存じの方も多いと思いますが、最近まで日経新聞の「私の履歴書」欄に、名誉理事の植田紳爾氏が経歴や苦労話(自慢話も(笑))を連載していました。
これがいろいろ裏話が豊富で非常に面白いのですが、ある日の話として「一般の演劇は60%入れば採算が合う。しかしタカラヅカはその採算ラインは80%。なぜなら衣装とかの経費が豪華で経費が掛かっているから」といった意味のことを書いていました。

それでいうと今回のこまつ座公演はなんとかOKだったのでしょうが、そんな下世話な話は別にして、今回の「きらめく星座」は非常に面白くてしかも考えさせられる題材だったので、もっと多くの人に観てもらいたかったですね。

それと、タカラヅカでいえば、ここ数年でもその採算ラインのクリアが厳しそうな公演もけっこうあったので、歌劇団も大変だと思いましたね。植田紳爾氏自身が、駆け出しのころ不入りな舞台を担当して、苦境に立った体験を書いていて面白かったです。
演出家も本当に大変です。この連載、他にもいろいろ裏話があるので、タカラヅカファンでまだ読まれていない方はぜひ読んでみてください。

話が脱線しましたが、この『きらめく星座』は本当にいい舞台でした。帰宅してヨメさんと話して、これまでの井上ひさしの作品の中では初見の『黙阿弥オペラ』に次ぐ出来ということで一致しました。

それではいつもの散漫で薄い感想です。

話は『闇に咲く花』『雪やこんこん』とともに作者自身が『昭和庶民伝三部作』としている作品です。ストーリーは次第に戦時色を強める時代に、敵性音楽としてジャズなどが禁止されてレコードが叩き割られるような世相の中で、明るく暮らすレコード店の家族を描いています。

演出担当の栗山民也
‥日本を含めた世界中が諍いのきな臭い空気をただようこの時期に再び上演することになるとは、今の時代に求められた作品なのかもしれない』と記しているように、本当に時代に警鐘を鳴らすタイムリーな内容ですが、そんな固い題材でも井上ひさしは見事に楽しめる作品として私たちの前に提示してくれています。

本当にいつもの『むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに』という井上ひさしの口癖がそのまま作品化されていました。

それと印象的だったのは、当局に外国かぶれの敵性音楽とか、内容が退廃的・思想上不穏などとして禁止された音楽のきれいなこと
中でも公演のタイトルである『燦めく星座』は耳に残る名曲ですが、それすら歌詞に陸軍の象徴である「星」を軽々しく使ったとして問題視され、レコード会社の代表は出頭させられて厳重な訓戒を受けたとのことです。こうなるともう言いがかりとしか言えないです。

でもこういう極端に振れる風潮が過去のことではなく、現在のヘイトスピーチの横行や、「特定秘密保護法」などに代表される「戦前レジームへの回帰」を目指す危うい政治とつながっているように思えて仕方がありません。

それはさておき、印象に残った順で出演者ごとに感想です。敬称略です。

今回の舞台で一番目立つ好演技だったのが秋山菜津子

レコード店「オデオン堂」の主人小笠原信吉の妻・ふじ役です。ふじは以前松竹少女歌劇団に所属、歌手を経験した後オデオン堂の後妻になります。
秋山菜津子は以前のこまつ座の「キネマの天地」や「藪原検校」の「お市」役で出演していたのを観ていますが、今回がベストだと思いました。いい役者さんです。

とにかく小笠原家はふじで回っています。芯が強く明るくポジティブな性格で、一家を襲ういろいろな出来事に対処していきます。

台詞も歌もいうことなしです。義理の息子が応召するも脱走し、一家は憲兵に付きまとわれますが、そんな中でも気丈にふるまって苦境をしのいでいきます。そんなふじを過不足ない演技で造り上げています。途中の歌もよかったです。この人の舞台、また機会があれば観たいですね。

その夫・信吉役は久保酎吉

かなりふじとは年齢差があり、もう老境にさしかかっていて、性格も穏やかでいかにも好々爺です。どちらかといえばハデな経歴のふじとの関わりがナゾで、観ていて「この二人、なぜ一緒になったのかな」という疑念が付きまといますが(笑)、そんなわけアリの年の差婚の夫婦というのが逆に話にリアリティを与えています。世間にはそういう組み合わせがナゾな夫婦がかなりいますからね。(笑)

久保酎吉は手堅い演技を買われていろいろな舞台に出ています。私たちも『祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹~』とか『しゃばけ』、『それからのブンとフン』などでおなじみの役者さんです。今回の信吉も、目立たない役ながらしっかりとした存在感があって好感が持てました。
とても演技とは思えない自然さが光っていました。

長男・正一役は、本来田代万里生が演じる予定でしたが、突然の怪我で急きょ峰崎亮介が代役することになったものです。


でも彼はがんばって正一役をよく務めていていました。私は休憩時に買ったプログラムに挟まれていた「キャスト変更について」を見るまでは代役とは全く知りませんでした。

しかし急な代役とは思えないいい出来で、素朴で純粋で一途な青年がピッタリ。全く違和感なく観られました。まだ全くの新人とのことですが、しっかりした演技と滑舌のいいセリフで先が楽しみです。

今回の公演で再見できてうれしかったのが長女みさを役の深谷美歩

頭痛肩こり樋口一葉』で一葉の妹・樋口邦子を絶妙の演技で好演していたので、今回楽しみにしていましたが、予想通りの出来栄えでした。よかったです。
前回「頭痛肩こり樋口一葉」の感想で私は、
「すっきり明快で耳に心地よく聞こえるセリフがまず印象的。それと、抑えた中にも芯の通った安定した演技が光っていました。姉を慕い、世間体を優先して家計を顧みない母・多喜にも辛抱強く従う邦子を自然体で好演。」と書いていますが、今回のみさをも似たような印象の女性でした。
今回も一家に降りかかった非国民という非難をかわすために進んで一家の犠牲になるみさをです。

どうも井上ひさしはこういう「健気で、おとなしいけど芯のあるやさしい女性」というのがお気に入りなようですね。よく登場します。で私も、思わずそれに共感してしまったり。(笑)

みさをの夫となるのが傷痍軍人・高杉源次郎役の山西惇

この人も「相棒」シリーズなどテレビドラマでも活躍しているのでご存知の方も多いと思いますが、私も最近の『』や『それからのブンとフン』などの舞台で観ていたので、安心の配役でした。
ガチガチの軍人ですが、まったく世界観の違う「オデオン堂」に来て、最初はギクシャクしながら次第になじんでいきます。そんな内面の変化の過程をよく演じていました。

小笠原家の人々とまったく異なる人物といえば、憲兵伍長・権藤三郎役の木村靖司

まじめで職務に熱心な憲兵です。出てきたとき思わず緊張しました。(笑)
脱走兵の正一の行方を追って頻繁にオデオン堂に顔を出します。でも強面の憲兵でありながら、どこか憎めないところがあって、まったくの悪役ではないのが井上ひさし流。この人はこれまで舞台ではお目にかかっていませんが、いい役者さんでした。
そういえば今回の芝居にも悪人は出てこないですね。

紹介が遅れましたが、うまい役者さんといえばなんといっても『キネマの天地』『太鼓たたいて笛吹いて』でおなじみの木場勝己

今回は広告代理店?で宣伝文句を作る仕事をしている竹田慶介を演じています。どうして小笠原家に出入りするようになったのか忘れましたが(殴)、昔はこういう、なんでその家に出入りするようになったか分らない人がいたりする穏やかな人間関係がありましたね。

今回の舞台で音楽を担当しているのが居候の森本忠夫役の後藤浩明

普段の演劇へのかかわりは作曲・演奏・音楽監督としてが中心だそうですが、今回は登場人物を兼ねながら、芝居の中で使われている歌謡曲やジャズのピアノ演奏も務めていて、楽しそうでした。

出番は少ないながら、防共護国団団員甲と電報配達の若者役の今泉薫や、同じく防共護国団団員乙と魚屋の店員役の長谷川直紀もそれぞれよくやっていました。

舞台は真珠湾攻撃が始まる直前で終わります。出演者全員が防毒マスクを付ける場面で幕となります。その幕切れが、その後の小笠原家をはじめすべての登場人物の運命を、観客が歴史上の事実を重ねながら、いろいろ想い描く余韻を作っています。

終わってみれば観客全員がスタンディングオベーション。舞台と観客席が一体となって井上作品を楽しめた証でした。よかったです。人物描写のしっかりしたよくできた脚本と、作者を熟知した手慣れた演出、そして芸達者の役者ぞろいで、こまつ座の芝居の醍醐味を味わえた至福の時間でした。

基本的に喜劇ですが、笑いながらもいろいろな思いに駆られる舞台でした。未見の方は機会があればぜひご覧ください。
おすすめです






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