3年ぶりに、またこまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」を観てきました。今回は、前回唯一残念だった樋口一葉がバッチリで申し分なし。
他の配役は前回と同じ豪華メンバーなので非の打ちどころがなく、名実ともにこまつ座の看板芝居といえる見応えたっぷりの舞台でした。
今回も、最前列センターブロックでの観劇でしたが、オープニングでの子供たち!?の提灯踊りなど、こちらが
恥ずかしくなるほどの至近距離でした(笑)。
セットも前回同様、四本の柱と仏壇だけの極めてシンプルなもの。担当は宝塚の舞台もよく手掛けている松井るみさんで、この人の舞台
装置では『愛と革命の詩-アンドレア・シェニエ-』が記憶に残っています。でも今回はチラシで初めて知りました。(笑)
しかし、我ながらあきれるほど見事に話を忘れていました。
前回の観劇はほんの3年前、なのに筋書きはきれいさっぱり忘れていました(笑)。まあその分、新鮮な観劇となりましたが。(殴)
そして改めて感じたのが、同じ樋口一葉を題材にしていても、2月の二兎社「書く女」とは大違いということ。
「書く女」は、主人公・一葉と、彼女を取り巻く人々との関りが史実に即して丁寧に描かれていて、彼女とその作品の時代背景もよく理解
できました。登場人物も、半井桃水に斉藤緑雨、馬場孤蝶、平田禿木、川上眉山などの文学青年たちや、ライバルの田辺龍子など一葉と深
いかかわりのあった人物が登場して、明治の文壇の一端がよく理解できました。
でも「頭痛肩こり~」は全然違う話。
まず配役はすべて女だけ。
そしてテーマも、一葉が話の中心ではなく、一葉の生きた明治という時代を、一葉を含む6人の女性の生きざまを通して描くといった感じ
でした。
でも私は(ヨメさんも)先に書いたように、話をすっかり忘れていて、ただ若村麻由美の幽霊が本当にキレイとか(殴)、苦界に身を沈めた
熊谷真実がド迫力だったとか、妹の邦子が実に健気だったとか、断片しか覚えていませんでした。
それで今回、全く先が予測できない展開に、よくまあこんな芝居の脚本が書けるものだと改めて感心しながら観ていました。
それと、この「頭痛肩こり~」がユニークなのは、一葉だけに幽霊・花蛍が見えること。
このわけは、脚本家自身が、今回購入したプログラム(中身が濃くて値打ちがあります)中の、架空のインタビュー記事「樋口一葉に聞く」
(初出は「季刊the座」1984年5月創刊号)で解説してくれています。
井上ひさし一流の、非常に面白くかつ深い一葉論が展開されていますので、ぜひプログラム↓をお買いになってご覧ください。
この一葉と花蛍の関係、「エリザベート」に通じるものがありますが、それをずっと以前の1984年に舞台で上演していたのですから、
本当に大したものです。
ということで、出演者ごとに感想です。例によって敬称略です。
まず今回一番気になっていた一葉役の永作博美から。
よかったですね~。滑舌もよく、表情も身のこなしも、メリハリがあって強い。3年前の一葉とは大違いでした。
強くてもヤリ過ぎ感は全くなく、たたずまいもバランスよく周囲に馴染んでいました。でも本当に若見えで、実年齢との乖離がすごい!!(殴)
そのおかげで、24歳で没したまさに夭折作家の典型・樋口一葉に、ぴったりハマっていました。
プログラムで、稽古中は苦労したと語っていますが、周りにはそう見えなかったようで、対談記事では「涼しい顔して稽古していた」
と冷やかされていました。
稽古風景です↓
でも本当に大した演技力でした。つくづく知らないことが多いです。
前回の舞台では、一葉の台詞の場面になると、滑舌とか声量とか果ては演技全般が気になって、舞台にまったく感情移入できなくなって
いました。
でも今回はそんな懸念材料がすべて解消、話に自然に入り込めました。脚本家の言いたかったこと、考えていたことがストレートに
伝わってきた感じです。
他の五人の女たちの配役は前回と同じで、それぞれの役と役者さんの持ち味がうまくマッチしていて申し分なし。
母親・樋口多喜役は三田和代。
3年前が初出演とのことですが、もう円熟の多喜になっていましたね。維新前夜の混乱の中で、故郷を夫則義とともに出奔し、江戸で艱難
辛苦の末に最下級の武士となったのも束の間、明治という生き難い時代に翻弄されながら生活を送る姿がコミカル&リアルでした。
故郷の村人を見返すかのように、貧困の中でも絶えず武士のプライドを強調する多喜ですが、一方では、気前よく他人に物を与えたりする
憎めない人物です。前回と同じく、三田和代は文字通りのハマリ役でした。
家族の役では、一葉の妹・邦子の深谷美歩もよかったですね~。
前回も最後の場面が印象的でしたが(この場面だけははっきり覚えていました(殴))、今回もやられてしまいました。うまいエンディング
でついホロリとな。この場面に作者がすべての思いが凝縮しているようないい場面でした。
邦子が、プライドだけ高く、経済観念は希薄で能天気な母と、いろんな小商いに失敗した後、背水の陣で小説書きに没頭する一葉の間に
立って、生活を切り盛りする健気な姿が瞼に残ります。
演出家は、邦子は「とにかく働き続けている役」だといっているそうですが、その通り、舞台では甲斐甲斐しく働きづめ。(笑)
この人、同じこまつ座の「きらめく星座」で長女「みさを」役を演じていましたが、そこでも同じような、感情を押さえ
た中にも、よく人となりが伝わってくる演技でした。台詞もすっきりさわやか。本当にいい役者さんです。
「きらめく星座」のみさをです↓
樋口家に出入りする女性の一人、中野八重役は熊谷真実。
もともと私たちは、初めてのこまつ座観劇となった「黙阿弥オペラ」での二役をこなす熱演に驚かされましたが、
2013年のこの演目の公演でも、渾身の演技で圧倒されました。
でも今回は、さらに力の入った演技で、とくに後半、苦界に身を落としたあとの場面では、前回以上のド迫力の、
凄みさえ感じる演技でした。
本当にこの人の役への入り込み方は大したものです。
そしてもう一人、樋口家に出入りしていた稲葉鑛役は愛華みれ。
宝塚時代から個人的に好感度極大なトップさんでしたが、前回同じ役で出演し、その元気な姿を観ることができてうれしかったです。
そして今回、体調はさらに良くなっているようで、舞台での表情もスッキリきれい。役の人物像がさらに深まっていて、歌の場面も多く、
よかったです。
稲葉鑛も没落士族の子女で、暮らしの内情は火の車。知り合いを回って、返す当てのない借金を頼みに回りながらも、育ちの良さは
なくしていないお嬢様です。でも彼女も最後はやはり不幸な結末となります。
愛華みれのキャラクタと演技が役柄によくマッチしていて、見ごたえがありました。3年ぶりの歌もさらに磨きがかかっていて、
胸に染み渡りました。
プログラムによれば、彼女は2009年の「きらめく星座」に出演していたとのことですが、それもぜひ再演してほしいですね。
そして花蛍の若村麻由美。
相変わらずというか、ますますきれいな幽霊で、やっぱり一度は憑りつかれてみたい。(殴)
でもこの花蛍は一番運動量の多い役で、大変ですね。舞台狭しと駆け回りながらの長台詞が多くて、それでも息も切らさず
頑張っています。
小松座のサイトに、この公演の制作発表時の画像がありましたが(笑)、生前の花蛍(笑)が美人で売れっ妓だったのがよくわかります。↓
彼女を通して、明治という、とくに女性にとって極めて過酷な時代がくっきりと浮かび上がってきます。
でも花蛍は優しい幽霊です。というか、かなりお人好し(笑)。自分の非運は嘆くけど、決して他を責め続けることができず、
次々に自分を絶望に追い込んだ原因を探っていくうちに、結局女たちの不幸の根源が明治という時代そのものにあるという
ことを私たちにわからせてくれます。
しかし幽霊が出てくると一遍に舞台が華やぐというのもなんともシュールです。(笑)
とまあ、豪華な女優さんと極上の脚本、それを十二分に生かす手練れの演出家の仕事ぶりがあいまって、至福の観劇タイムと
なりました。
小松座の看板公演といわれる理由がよくわかりました。
感動のうちに幕が下りて、さあスタンディング!とタイミングを見計らっているうちに二回でカーテンコールが終わってしまった
のが唯一心残りでしたが(笑)、いい舞台に満足しながら帰途につきました。
今度は筋を忘れないようにしましょう。(殴)
次は星組退団公演の観劇感想です。がんばって書かないと。(^^;
他の配役は前回と同じ豪華メンバーなので非の打ちどころがなく、名実ともにこまつ座の看板芝居といえる見応えたっぷりの舞台でした。
今回も、最前列センターブロックでの観劇でしたが、オープニングでの子供たち!?の提灯踊りなど、こちらが
恥ずかしくなるほどの至近距離でした(笑)。
セットも前回同様、四本の柱と仏壇だけの極めてシンプルなもの。担当は宝塚の舞台もよく手掛けている松井るみさんで、この人の舞台
装置では『愛と革命の詩-アンドレア・シェニエ-』が記憶に残っています。でも今回はチラシで初めて知りました。(笑)
しかし、我ながらあきれるほど見事に話を忘れていました。
前回の観劇はほんの3年前、なのに筋書きはきれいさっぱり忘れていました(笑)。まあその分、新鮮な観劇となりましたが。(殴)
そして改めて感じたのが、同じ樋口一葉を題材にしていても、2月の二兎社「書く女」とは大違いということ。
「書く女」は、主人公・一葉と、彼女を取り巻く人々との関りが史実に即して丁寧に描かれていて、彼女とその作品の時代背景もよく理解
できました。登場人物も、半井桃水に斉藤緑雨、馬場孤蝶、平田禿木、川上眉山などの文学青年たちや、ライバルの田辺龍子など一葉と深
いかかわりのあった人物が登場して、明治の文壇の一端がよく理解できました。
でも「頭痛肩こり~」は全然違う話。
まず配役はすべて女だけ。
そしてテーマも、一葉が話の中心ではなく、一葉の生きた明治という時代を、一葉を含む6人の女性の生きざまを通して描くといった感じ
でした。
でも私は(ヨメさんも)先に書いたように、話をすっかり忘れていて、ただ若村麻由美の幽霊が本当にキレイとか(殴)、苦界に身を沈めた
熊谷真実がド迫力だったとか、妹の邦子が実に健気だったとか、断片しか覚えていませんでした。
それで今回、全く先が予測できない展開に、よくまあこんな芝居の脚本が書けるものだと改めて感心しながら観ていました。
それと、この「頭痛肩こり~」がユニークなのは、一葉だけに幽霊・花蛍が見えること。
このわけは、脚本家自身が、今回購入したプログラム(中身が濃くて値打ちがあります)中の、架空のインタビュー記事「樋口一葉に聞く」
(初出は「季刊the座」1984年5月創刊号)で解説してくれています。
井上ひさし一流の、非常に面白くかつ深い一葉論が展開されていますので、ぜひプログラム↓をお買いになってご覧ください。
この一葉と花蛍の関係、「エリザベート」に通じるものがありますが、それをずっと以前の1984年に舞台で上演していたのですから、
本当に大したものです。
ということで、出演者ごとに感想です。例によって敬称略です。
まず今回一番気になっていた一葉役の永作博美から。
よかったですね~。滑舌もよく、表情も身のこなしも、メリハリがあって強い。3年前の一葉とは大違いでした。
強くてもヤリ過ぎ感は全くなく、たたずまいもバランスよく周囲に馴染んでいました。でも本当に若見えで、実年齢との乖離がすごい!!(殴)
そのおかげで、24歳で没したまさに夭折作家の典型・樋口一葉に、ぴったりハマっていました。
プログラムで、稽古中は苦労したと語っていますが、周りにはそう見えなかったようで、対談記事では「涼しい顔して稽古していた」
と冷やかされていました。
稽古風景です↓
でも本当に大した演技力でした。つくづく知らないことが多いです。
前回の舞台では、一葉の台詞の場面になると、滑舌とか声量とか果ては演技全般が気になって、舞台にまったく感情移入できなくなって
いました。
でも今回はそんな懸念材料がすべて解消、話に自然に入り込めました。脚本家の言いたかったこと、考えていたことがストレートに
伝わってきた感じです。
他の五人の女たちの配役は前回と同じで、それぞれの役と役者さんの持ち味がうまくマッチしていて申し分なし。
母親・樋口多喜役は三田和代。
3年前が初出演とのことですが、もう円熟の多喜になっていましたね。維新前夜の混乱の中で、故郷を夫則義とともに出奔し、江戸で艱難
辛苦の末に最下級の武士となったのも束の間、明治という生き難い時代に翻弄されながら生活を送る姿がコミカル&リアルでした。
故郷の村人を見返すかのように、貧困の中でも絶えず武士のプライドを強調する多喜ですが、一方では、気前よく他人に物を与えたりする
憎めない人物です。前回と同じく、三田和代は文字通りのハマリ役でした。
家族の役では、一葉の妹・邦子の深谷美歩もよかったですね~。
前回も最後の場面が印象的でしたが(この場面だけははっきり覚えていました(殴))、今回もやられてしまいました。うまいエンディング
でついホロリとな。この場面に作者がすべての思いが凝縮しているようないい場面でした。
邦子が、プライドだけ高く、経済観念は希薄で能天気な母と、いろんな小商いに失敗した後、背水の陣で小説書きに没頭する一葉の間に
立って、生活を切り盛りする健気な姿が瞼に残ります。
演出家は、邦子は「とにかく働き続けている役」だといっているそうですが、その通り、舞台では甲斐甲斐しく働きづめ。(笑)
この人、同じこまつ座の「きらめく星座」で長女「みさを」役を演じていましたが、そこでも同じような、感情を押さえ
た中にも、よく人となりが伝わってくる演技でした。台詞もすっきりさわやか。本当にいい役者さんです。
「きらめく星座」のみさをです↓
樋口家に出入りする女性の一人、中野八重役は熊谷真実。
もともと私たちは、初めてのこまつ座観劇となった「黙阿弥オペラ」での二役をこなす熱演に驚かされましたが、
2013年のこの演目の公演でも、渾身の演技で圧倒されました。
でも今回は、さらに力の入った演技で、とくに後半、苦界に身を落としたあとの場面では、前回以上のド迫力の、
凄みさえ感じる演技でした。
本当にこの人の役への入り込み方は大したものです。
そしてもう一人、樋口家に出入りしていた稲葉鑛役は愛華みれ。
宝塚時代から個人的に好感度極大なトップさんでしたが、前回同じ役で出演し、その元気な姿を観ることができてうれしかったです。
そして今回、体調はさらに良くなっているようで、舞台での表情もスッキリきれい。役の人物像がさらに深まっていて、歌の場面も多く、
よかったです。
稲葉鑛も没落士族の子女で、暮らしの内情は火の車。知り合いを回って、返す当てのない借金を頼みに回りながらも、育ちの良さは
なくしていないお嬢様です。でも彼女も最後はやはり不幸な結末となります。
愛華みれのキャラクタと演技が役柄によくマッチしていて、見ごたえがありました。3年ぶりの歌もさらに磨きがかかっていて、
胸に染み渡りました。
プログラムによれば、彼女は2009年の「きらめく星座」に出演していたとのことですが、それもぜひ再演してほしいですね。
そして花蛍の若村麻由美。
相変わらずというか、ますますきれいな幽霊で、やっぱり一度は憑りつかれてみたい。(殴)
でもこの花蛍は一番運動量の多い役で、大変ですね。舞台狭しと駆け回りながらの長台詞が多くて、それでも息も切らさず
頑張っています。
小松座のサイトに、この公演の制作発表時の画像がありましたが(笑)、生前の花蛍(笑)が美人で売れっ妓だったのがよくわかります。↓
彼女を通して、明治という、とくに女性にとって極めて過酷な時代がくっきりと浮かび上がってきます。
でも花蛍は優しい幽霊です。というか、かなりお人好し(笑)。自分の非運は嘆くけど、決して他を責め続けることができず、
次々に自分を絶望に追い込んだ原因を探っていくうちに、結局女たちの不幸の根源が明治という時代そのものにあるという
ことを私たちにわからせてくれます。
しかし幽霊が出てくると一遍に舞台が華やぐというのもなんともシュールです。(笑)
とまあ、豪華な女優さんと極上の脚本、それを十二分に生かす手練れの演出家の仕事ぶりがあいまって、至福の観劇タイムと
なりました。
小松座の看板公演といわれる理由がよくわかりました。
感動のうちに幕が下りて、さあスタンディング!とタイミングを見計らっているうちに二回でカーテンコールが終わってしまった
のが唯一心残りでしたが(笑)、いい舞台に満足しながら帰途につきました。
今度は筋を忘れないようにしましょう。(殴)
次は星組退団公演の観劇感想です。がんばって書かないと。(^^;