思いつくままに書いています

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シアタードラマシティで『ETERNAL CHIKAMATSU』を観て 見ごたえたっぷりでした

2016年03月16日 | 観劇メモ
3月5日、シアター・ドラマシティで『 -近松門左衛門『心中天網島』より-ETERNAL CHIKAMATSU 』を観てきました。谷賢一の脚本をデヴィッド・ルヴォーが演出、深津絵里&中村七之助のW主演という舞台。デヴィッド・ルヴォーといえば2014年に観た難解な「昔の日々」の悪夢を思い出しますが(笑)、今回はそうならないことを期待しつつ出かけました。
↓デヴィッド・ルヴォーです


道路は空いていて、いつもより早く駐車場につき、余裕で昼食(家族亭です)。劇場入り口に戻ると、すでにこれまで見たことのない長蛇の列が出来ていました。ほどなくして開場となって、スタッフに案内されて車椅子用通路から客席へ。女性客が多かったのは中村七之助ファンの方々でしょうか。

心中天網島』はご存知の通り近松門左衛門の代表作ですが、私はこれまで舞台を観たことがありません。というわけで、心中物=悲劇ということで、さぞ重苦しく深刻な話だろうな程度の観劇でしたが、結論としては脚本も演出も極めて明快でわかりやすく(笑)、すんなりと胸に響きました。

上演時間は途中20分の休憩をはさんで約3時間。
でも出演者の力の入った演技と、絶妙の生演奏で全く長さを感じない緊張感のある舞台でした。結末もいい意味で安易な予想が裏切られて、後味のいいものでした。満足。(笑)
そして観終われば、鳴りやまない拍手のカーテンコール。前回「書く女」で立ちそびれて後悔した私たちも、今回気合を入れていち早くスタンディング(笑)。でも本当にいい芝居でしたよ。

という前置きはこれくらいで、塩分控えめ・超薄味な感想です。でも少々ネタバレありなので、未見の方はご注意です。
画像は当日買ったプログラムから。いつもの通り敬称略です。
↓プログラムです


客席に半鐘の音が響いて照明が消え、幕が開いて今流行のプロジェクションマッピングの映像が映されて、まるで映画のような幕開きでした。画面はニューヨークの映像からリーマン・ショックのニュースとなり、大阪・道頓堀のネオン街になって、舞台の設定が大阪とわかります。


しかし最近のプロジェクタはきれいですな。私などがパワポのプレゼンで使っていた時とは大違いです。

そして深津絵里ハルが登場。

彼女は借金のために売春婦となり、その完済のためにこれからどれだけの間、どれだけの男を相手にしなければならないかを細かく計算して嘆きます。まずこの場面がいきなりのインパクト。けっこう宝塚の石田昌也センセイ顔負け(笑)の際どいセリフが深津絵里の口からポンポンと出てくるのがびっくりでした。

↓プログラムの練習風景から

ところで私が深津絵里に興味を持ったのは、wowowで三谷幸喜の『ベッジ・パードン』を観てから。
それまで『悪人』や『ステキな金縛り』で映画での演技は十分承知していましたが、舞台でも凡俗のタレントとは大違いの完成度の高い演技だったので、機会があれば観たいと思っていました。期待にたがわず今回も大した演技で、ベテラン・中嶋しゅうのヤリ手ババアとの掛け合いも面白かったです。
ただちょっと彼女は痩せすぎな感じで、ヨメさんは「『十二夜』の中嶋朋子みたい」と言っていました。私も同感で、もうちよっとふっくらしてほしいですね。まあ今回は生活に疲れた売春婦役なのであまり健康的なのもいかがなものか(殴)。

ハルは常連客のジロウと商売抜きの恋をしています。このジロウ役の中島歩(花子とアンの宮本龍一ですね)は、ビジュアル的には生活力ゼロのイケメン役で(笑)ピッタリですが、セリフがちょっと聞き取りにくいのが残念。

そう思いながら観ていたら、ジロウの兄・イサオ役の音尾琢真が登場。手切金を突き付けて妻子持ちのジロウとの離縁を迫ります。この人のセリフは良く通り、ホッとしました。演技も余裕綽々、観ていて安心感があります。

そしてハルは散々イサオに罵倒され、それでも借金返済の足しになればと差し出された金を受け取ります。
しかし、やはり思いを断ちがたく、半ば自暴自棄になって街を彷徨い歩くうちに、幻の蜆(しじみ)川にたどり着き、そこに架かる橋の上で遊女・小春中村七之助)と出会うところから、一挙に江戸時代にタイムスリップ、というか、一種のパラレルワールド風の展開ですね。
↓練習風景から


舞台装置は、デヴィッド・ルヴォーの文法どおり、あの世とこの世をつなぐ橋を抽象化した極めてシンプルなもの。でもそれが、幽玄の世界にふさわしく、幻想的で過不足ない効果を上げていました。
また先に書いたように音楽もぜいたくな生バンドで、間断なく流れる絶妙な演奏と効果音の演出がよかったです。

現代ではババア役の中嶋しゅうは、江戸時代では狂言回しのようなジジイになっています。

↓ババア役のほうです

このジジイに案内されたハルは300年の時空を超えて『心中天網島』の物語に入り込み、眼前で展開される物語を傍観し続けます。ハルと私たちが同じ立位置で観る設定が面白かったです。ただそのために深津絵里がほぼ出ずっぱりとなるので大変ですな。
そして舞台上では、歌舞伎の“河庄”や“しぐれの炬燵”の世界が展開されていき、歌舞伎ファンならたまらないところでしょうね。

期待通り、深津絵里の演技は大したものでした。きめ細やかな演技と豊かな感情表現がリアルでした。それに対する小春役の中村七之助も、これぞ歌舞伎の女方といわんばかりの完成された様式美で、美しいなかにも鬼気迫るものがあって、圧倒的な存在感でした。


↓練習風景から


芝居のテーマは男女の「生と死」ですが、同時に「性と死」の世界でもあると思いました。
この不変のテーマを、300年の時代を往来しつつ描き出す、新しい視点の舞台にしてくれた谷賢一とデヴィッド・ルヴォーに感謝。

そしてそんな重いテーマでも、最後は希望を託せるホッとさせる意外な結末で、うれしい誤算。

おかげで温かな余韻に包まれて劇場を後にすることができました。脚本家の登場人物に対する優しいまなざしが感じ取れてよかったです。

もし再演されることがあったら、未見の方はぜひご覧ください。おすすめです。
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宝塚雪組公演『るろうに剣心』、観てきました!

2016年03月07日 | 宝塚
順番では宙組の感想その2を書くつもりでしたが、2度目の観劇は郵便局の2階席貸し切り公演。とてもじゃないが障害者のヨメさんは抽選で当たった席へは行けず、スタッフに依頼して障害者席に替えてもらって何とか観劇というありさまでした。なので、気もそぞろで、つい感想も書きそびれていました。(←苦しいいいわけ)^^;

そうこうしているうちにいつしか花組「そろうに」の観劇となって(殴)、その出来があまりにもよかったので、とうとう宙組のその2はボツになりました。大変申し訳ありません。

当日、交通渋滞を気にしながら早めに出発。でも高速に乗るまでは混んでいましたが、阪神高速はガラガラ、予定通り10時前には劇場へ。木曜日でしたが、平日でも多くの立ち見が出ていました。
最近、あまりプログラムを買っていなかった私たちですが、今回は期待も込めて買いました。
幕が上がるまでの間、客席でそれを読んでいましたが、今回のプログラムはいつになく豪華でした。

真ん中あたりには珍しい折込写真ページもあったり、小池先生の話もいつもより長くて内容も面白く、読み応えあり。


ということで、シェイクスピアならぬ「そろうに剣心」の感想です。
まず観劇を終えての印象から。

私の事前予想は大外れでした。
観る前は、「どうせコミック&映画のダイジェスト版だろうし、企画が安易でオリジナリティないねー」などとエラソーなことを言っていましたが、観終わればそんな浅はかな先入観など見事に吹き飛ばされて、タカラヅカ版にふさわしい小池先生のオリジナリティあふれた脚本に脱帽。

もちろん、映画でおなじみの道場乗っ取りの場面とかありますが、途中からタカラヅカならではのストーリーに変わり、テンポが速く小気味よい展開にいつの間にかドップリ浸かっていました。登場人物が多彩で、話もどんどん膨らんでいくのにわかりやすく、なにより映画よりも面白い! 大したものです。

そして配役がまさに宛書の手本でした。


早霧せいなは手練れの剣心役にぴったりで、まさに余人をもって代えがたい。


陰のある人物像ながら各所で弾けるところもあり、ひとたび剣を持てば殺気漂うシビアな表情に一変。






目玉の殺陣も、キレのいい剣捌きが見ごたえ十分。
ヅカでよくある、まるでスローモーションのような脱力系の殺陣とは大違い。(笑)
今回大道具さんも大奮闘で、冒頭の竹林での殺陣のシーンでは、早霧せいなの見事な太刀に合わせて孟宗竹が次々と切り倒されていくところが実によくできていました。でもうまく倒れるかなとつい注視モードになったり。(笑)

↓似合いのコンビです


咲妃みゆも健気な道場主・神谷薫を頑張って務めていました。

最近の娘役に類例のない愛くるしい容貌なのに歌はしっかりしているし(普通なかなか両立しない(笑))、身のこなしにキレがあり、演技もメリハリが効いていて、とくに表情豊かな感情表現がリアル。私は彼女の可憐な容貌とか訥々とした語り口と、それに似合わぬしたたかな実力に、ある種の乖離というかチグハグさを感じて、いつも何か馬鹿にされているような気がしています。(殴)




 

加納惣三郎望海風斗もよかったですね。

彼女は今の各組男トップには希薄な、逞しさとか強さがあるので、加納惣三郎はまさにハマり役。

この加納惣三郎という人物は、原作者の勧めで小池先生が創作した役ですが、決して添え物ではなく、この人物が話の展開に大きな役目を負っています。
私も二番手のための、間に合わせの役かと思っていましたが、とんでもない勘違い。今回の舞台で一番濃くてインパクトのある大きな役でした。






望海風斗は貫禄さえ感じる安定感のある演技で、堂々の二番手ぶりでした。

彼女が演じる維新後のジェラール山下を見ていると、まるで久生十蘭や小栗虫太郎の作品に出てきそうな妖しさ満載の人物です。そういえば咲妃みゆが人質になるところも、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように耽美的で、両者の小説の一コマのようです。

あとの配役もよかった。
ヨメさんと帰り道の車中で話していたのですが、今の雪組、男役が人材豊富ですねぇ。鳳翔大彩凪翔彩風咲奈月城かなとと、いつのまにか豊富に品揃え。(笑) 
まず剣心に心酔する佐之助役の鳳翔大が、まんま歌舞伎のように見得を切って登場する場面が面白い。これもトクな役です。鳳翔大はちょっと凰稀かなめに似ていると思ったり。
そういえば今回、歌舞伎仕立ての場面が各所にあって、どれもいい見せ場になっていました。小池先生の遊び心が楽しいです。

新撰組出身で、維新後は警部補になった(結局時代は変わっても同じ商売か)斎藤一彩風咲奈




加納と共にアヘンで大儲けしようとする武田観柳彩凪翔






そして元隠密の四乃森蒼紫月城かなと(目下一番の有望株ですね)と、

それぞれ個性のある役で、出番も多く大活躍。
とくに、物凄くマズそうに煙草を吹かす(殴)彩風咲奈が面白かった。でも彩風と彩凪、字面が似ていてややこしいですわ。(笑)

今回退団する大湖せしるの女医・高荷恵も、彼女のキャラクタにうまくマッチした役でよかったです。


でもこれが見納めとなるのは残念です。退団と言えば桂小五郎の蓮城まことも同様で惜しいです。新しい世界で頑張ってほしいですね。
一方、比留間喜兵衛&井上馨の美城れんと、

山県有朋夏美よう

の専科二人はちょっと出番が少なくてもったいなかったですね。
毎回美城れんが出る舞台ではつい姿を追ってしまいますが、今回はちょっとしどころがなくて気の毒でした。

今回の話で、小池先生が登場人物に「庶民にとって維新前も維新後も暮らしは良くならず、薩長がおいしいところを独り占めしている」と言わせているのもよかった。維新のどさくさまぎれで政治の要職に就いた流れが今も後を引いているのにはうんざりしている私にとって全面同意です。

衣装は相変わらず豪華でした。島原の遊郭の場面など、何度も使うわけではないのに衣装もセットもコストがかかっています。
フィナーレも見ごたえがありました。芝居の方でも盛りだくさんで十分楽しめたのに、ショーでもいい出来でお得感満載。ただし音響は悪かったです。上手端に近い席だからか、とくに早霧せいなの歌の場面で音量が大きすぎて聞き苦しい。大音量で歌が割れてしまって、音響効果は完全にマイナス。

言い忘れましたが、今回の客席降りは通路で芝居もしていて楽しかったです。通路席で観劇予定の方は乞うご期待です。

というわけで、本当に望外の良作になっていました。チケットが早々と即完売というのも当然ですね。それでも未練がましく公演後にチケット窓口に行きましたが、たった1日だけ火曜日の3時公演にS席がかろうじてあっただけで、リピートは到底無理でした。

今年のタカラヅカ最優秀作品候補です。
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