粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

二つの都市伝説「日本のプロ野球と秘密保護法」

2013-12-13 13:55:54 | 国内政治

1970年代、革新政党が自民党と拮抗するほどの勢力を持っていた時代、こんな「都市伝説」があった。「社共勢力(社会党、共産党)が議席で多数を占め政権を握ったら、プロ野球がなくなってしまう」と。当時プロ野球の黄金コンビON(王と長島)のうち、長島さんがそんなことを言ったとか言わなかったとか。

今は法案も単独で提出できないほど弱小勢力に成り果てた社民党だが、その前身の社会党は自民党も脅かす一大勢力であった。共産党も現在の倍ほどの議席を確保していた。自治体では東京、大阪など首都圏や近畿圏で革新系の知事が続々誕生していた。その勢いが国家レベルにまで及びそうな情勢だった。

社共人民政権の誕生も現実味を帯びて語られ始めた時期、プロスポーツは「ブルジョア」のスポーツであり、社会主義政権では容認させず、解散の憂き目に遭うというのがその都市伝説の根拠である。しかし、こうした噂に対しては社会党も共産党も揃って否定している。むしろ、プロ野球が盛んになって長島選手はもっと年棒が貰えるとも弁解していた。

70年代高度な資本主義国になった日本は、社会主義とはいっても開発途上国とは性格は全く違う。議会制民主主義が保証され基本的には資本主義的企業活動も認めた上での社会主義的政策が基本だったと考えられる。

ただ、自民党などの保守勢力はソ連や東欧の全体主義が訪れると盛んに社共政権を喧伝して恐怖を煽った。国民の保守層は本気でそんな恐怖感を覚え、プロ野球などのプロスポーツも廃止されてしまうと本気で考える人もいたが、国民の大半は否定的だった。ただ漠然とした不安があったことも確かだった。

そんな昔の「都市伝説」を思い出したのは、最近の特定秘密保護法案を巡る騒動での胡散臭さを感じたからだ。つまり、「この法案が通ると国民の知る権利が奪われ、言論の自由が阻害される暗黒時代が訪れる」という左翼メディア、法律家、作家、映画関係者らの宣伝だ。これは現代の「都市伝説」といってよいものだろう。条文をよく読めば、特定秘密の対象となるのは外交、防衛、スパイ、テロ活動と極めた限定されており、相当の専門分野の内容ばかりだ。

あるテレビでコメンテーターが防衛施設を外からたまたま撮った写真をアップし、それが特定秘密だったら逮捕されると語っていたが、笑止千万だ。特定機密になりうるのは多くが衛星写真や厳重に管理された書類などだ。素人が衛星を打ち上げて写真を撮ったり、いくつも鍵をこじ分けて内部に侵入するなど出来るはずがない。

ただ法律は運用の仕方によっては、拡大解釈されることは充分あり得ると思う。それには国民の注視が必要だが、直ぐに戦前の暗黒時代に向かうというのは無理がある。なんといっても今は民主主義が成熟していて、国民の意識も強い時代にそう簡単に統制社会に向かうはずないし、担当する政権も敢えてそんな野望を普通持っているとは考えにくい。

秘密保護法で暗黒社会が到来する、これも今日の「都市伝説」といえるものではないか。1970年代は保守層が「プロ野球消滅の危機」を喧伝したが、今日は革新層が危機を煽っていて立場は真逆だ。しかし、双方とも日本の社会状況を理解せずに漠然とした不安を言い募るという点では共通しているように思う。伝説は時にまことしやかに国民の間に浸透する。しかし時期が経てばやはり単なる伝説であったと気づく時が来るのではないか。