もはや、この活動家の主張など余り影響力はないとは思う。「西へ逃げろ」とひたすら東日本、とりわけ首都圏の放射能汚染を煽ってきた人物、木下黄太氏のサイトのことである。
彼は汚染の恐怖を伝導するために、講演会を精力的にこなしてきたが、ここへ来てこの戦略もブレーキがかかってきた。昨年まで月数回はあった講演会は今年に入って激減し、2月は実質ゼロで3月も1回が京都で予定されているだけである。それも大阪ですでに実施されている震災がれきの広域処理を批判するものだ。大阪市の実施を阻止できず、広域処理撤回を促すひどく後ろ向きの反応である。
もはや講演会で活動資金を確保するという彼の戦略が、破綻に近づきつつあることは間違いないようだ。彼のサイトに寄せられる読者のコメントの少なさを見るとそれも頷ける。
そんな彼の危機感からなのか、最近学校給食というひろく世間の母親の不安を喚起させる話題をサイトで取り上げている。2月27日「大阪・吹田市で福島牛肉使用という学校給食の陥弄」と冒頭に見出しがあり、読者から寄せられた「懸念」を紹介している。
吹田市の主婦が市のホームページを閲覧したところ、市の小学校の校給食に福島産の牛肉が使用されていることを知ったという。この件でその主婦は市に子を持つ母親として心配であり、「使用を控えてほしい」と電話で伝えたという。さらに使用の動きはおそらく全国的に広まっているのではないかと想像し、全国の父兄に「食材のチェック」を促している。
確かに子供の放射能被害を心配する気持ちは理解出来ないこともない。しかし、それも程度問題である。福島の食材がとかく学校給食などの公の引取先に多いのも事実だろう。なぜなら、民間の流通が拒否しているからである。「福島産」と商品に明記すると、消費者が敬遠して買わないのだ。
一度、取り付いた先入観はなかなか消えない。しかし、福島での食品検査をみると牛肉も全てといってよいほど放射性物質は不検出である。昨年9月、基準値を超える福島牛が出荷停止になったが、なんと前年まで食べていた古い稲わらのセシウムがまだ牛の体内に残っていたという。その後そうした事例の福島牛はなくなり、全く問題のない状態だ。
これに対して、今年2月から米国産牛肉の輸入が大幅に緩和された。一時BSEの問題で禁輸され、その後も制限が続いた。そして今回の全面解禁ともいうべき状況に、国内の大手スーパーがいち早く店頭での販売を始めた。福島牛との対応と比較して対照的だ。
食の不安の度合いからみても双方に差がないはずだ。しかし、この違いはやはり、放射能汚染での過剰な反応が原因だろう。放射性物質不検出という科学的見地が尊重されず、先入観から食を控えるのは不公平であり、差別といってもよい。
ただ消費者の不安心理というのは、いくら科学的数値を示しても解消できないし、強制は不可能である。問題は学校給食への組織的拒否運動となることだと思う。学校給食とはある面教育の一環といえる。食の栄養や健康管理への認識、あるいは食事のマナーなど給食を通して学ぶ。そこに生産地への偏見があってはないないと考える。
今のところ、この給食の件が組織的な動きとなる気配はなさそうだ。大手メディアが特にそれに呼応する動きもない。ただちょっとした心ない噂が、予期せぬ事態に及ぶこともある。今後も注視したい。