週刊朝日が最新の10月4号では原発事故関連が3本あった。まず東電の汚染水問題で「意外」だと見出しにつけた記事があった。しかし、どこが「意外」なのかさっぱりわからない。「フクイチ汚染水流出 止まらぬ太平洋汚染の“意外”な事実」
記者は「今も一定量の放射性物質が外海に流出し続けていることは科学的に疑いがない事実で、研究者の間でも認識は一致しています。」と自信ありげに書いている。しかし、その濃度と健康への影響になると専門家の証言によっていきなりトーンダウンしてしまう。
「事故直後の2011年3~4月に海へ放出された放射性物質は3500兆~5千兆ベクレルと、ケタ違いに多いんです。その後、現在まで毎日漏れている量を全部足しても、最初に出た量の1%にも及びませんよ。」(東京海洋大学神田穣太教授)
健康への影響もこうだ。
「海水1リットルあたり1ベクレルを超えると、基準値の100ベクレルを超える魚が出やすくなる。今、1ベクレルを超えているのは福島第一原発のごく近海だけで、魚から検出される数値は下がり続けています。」(同教授)
なあ~んだ!セシウムの流出は微々たるもので近海の魚に含まれる放射性物質の濃度は極めて低くなってきていて、たいして問題なさそうだ。これが記者のとっての「意外」な感想だったわけだ。自分の9月20日ブログで紹介した朝日新聞の掲載データでも外海は不検出になっている。
ただ不検出と入っても湾近くはさすがに1ベクレル/Lというわけにはいかないだろう。しかし、少し外に出れば希釈されて1ベクレル以下になってしまうことは考えられる。全て近海で捕れた魚が基準以下であるとはいえないが、検査をしっかりすれば問題ないレベルというべきだ。
しかしこの記者は「意外」だけで終わらせたくなくて執拗に食い下がる。「希少な塩分を体にため込む性質のある川魚のほうが、放射性物質も取り込みやすい。」「海底に放射性物質が蓄積するので海底近くに生息する魚は要注意だ。」などだ。
挙げ句は現在問題になっている貯蔵タンクの汚染水漏れが海に流失すると、海の放射性物質の濃度は桁違いになる、という神田教授の懸念材料を紹介して記事を結んでいる。まあ、これは将来起こりうる危険性であり、現況の汚染水の外海流失ではない。「可能性」であって、見出し記事の「意外な事実」とは関係ない。酷く締まりのない記事になってしまった。
さらに、今回の週刊朝日ではもう一つ取材記事があるがネットで閲覧できる。「セシウム検査で判明した子どもの体内被曝の深刻度」これも読んでみて内容的にお粗末な感じがする。茨城県の常総生協が茨城と千葉の子どもたちの尿検査した結果の報告である。
「初めの10人を終えたとき、すでに9人からセシウム134か137を検出していました。予備検査を含めた最高値は1リットル当たり1.683ベクレル。参考までに調べた大人は2.5ベクレルという高い数値でした。いまも検査は継続中ですが、すでに測定を終えた85人中、約7割に相当する58人の尿から1ベクレル以下のセシウムが出ています」(生協担当者)
1リットル1.62ベクレル程度の濃度のどこが「深刻」なのだろう。記事にも書いてある通りだとすると、尿の濃度と同程度の放射性セシウムを摂取しているといえる。ただ毎日1.62ベクレルのセシウムを摂取した場合の年間の内部被曝は0.009ミリシーベルト程度にしかならない。よく言われる年間被曝1ミリシーベルトの許容範囲の111分の1程度という微量でしかない。
記事では「内部被曝にはしきい値がないので」と断定的に書いているが、これは正確でない。50年前に世界で核実験が行われ、大量の放射性物質が放出され多い時日本人でも1日4ベクレル程度のセシウムを摂取したと言われる。自分たちの世代はそのころちょうど10歳前後の子どもだったが、自分の周りでこうした内部被曝で健康に障害が出たという話は聞かない。
この記事で琉球大学の矢ケ崎克馬教授の証言がでているが、もはやこの教授の言説を本気で信じている人はほとんどいない。矢ケ崎教授は、尿中に含まれるセシウム137がガンマ線だけ勘定して1ベクレルだとすれば、ベータ線も考慮すると体内に大人でおよそ240ベクレルのセシウムが存在し、それに加えてストロンチウム90もセシウムの半分程度あるとみている。
セシウム1べクレルが実は240ベクレル?しかもベータ線が危険?こんな説を唱えているのは日本では矢ケ崎教授ぐらいだろう。1ベクレルはあくまでも1ベクレルだと思うが。
自然界に存在するカリウム40という放射性物質は成人男子では常時4000ベクレル程度が体内に留まっているといわれる。結果的に年間0.17ミリシーベルトは内部被曝しているが、このカリウム40はベータ線が放出されているのだ。また外部被曝と内部被曝が引き起こすエネルギー被曝に差がないというのも放射線生物学の常識になっている。
したがって言説に問題の多過ぎる大学教授の証言を敢えて載せるなど非常識で犯罪的でさえ思う。2年前ならこんな煽り記事も見逃せたが、今は「時代遅れ」といってよいのではないか。記事の「恐怖」が白々しく思えてくる。
最後に週刊朝日に連載されている室井佑月のコラムはどうか。これもネットで見られる。(今は便利な時代になった。)作家というより反原発コメンテーターと呼んだ方がよいかもしれない。彼女も反原発派女性有名人に共通することだが、母性で子どもの命を情緒的に語る傾向がある。また放射能被曝に関しては少量でも影響はあるという立場をとっている。今回は原発事故の刑事告訴を検察が不起訴とした問題だが、どうも独りよがりの愚痴のような感じがする。
正直言って最近の週刊朝日の記事は「劣化」の一途を辿っているように思える。月刊WILLの花田紀凱編集長が最近の週刊朝日の表紙に壇蜜が登場しているのを見て「世も末」と新聞の連載記事で嘆いていた。確かにそんな感じがしないでもない。いずれ新宿歌舞伎町の人気風俗嬢が表紙を飾るかもしれない。これでは「アサヒ芸能」?「貴女のおっぱい見せてください」「処女探し」(アサヒ芸能と同系列雑誌の人気企画)が出てたりして。失礼しました。