金正日総書記が死去して、北朝鮮の今後の動向が注目される。果たして中国やベトナムのような少なくとも経済の改革開放が始められるか。現政権ではなかなか難しいといえる。今北朝鮮は経済が機能しておらず、慢性的な食料不足で国民の生存さえも確保出来ないほど絶望的な状況にある。
この苦境に北朝鮮は核開発などの軍事的脅威を煽って隣国からの援助をかすめ取って、なんとか国家の存立を維持している状態だ。しかし日本、韓国、米国などはその手法にはもはやだまされない。故金正日総書記が内心は嫌いな中国を今年は3回も訪問して、緊急の食料援助を請う体たらくだ。しかし中国もいつまでもそんなお人好しではない。それを知ってか金正日は今度はロシアにまで足を運ぶほどなりふり構わぬ有様だ。
北朝鮮が生き延びる道は経済的自立しかもはやあり得ない。それには経済の改革開放が必要だ。外資を導入を全面的に認めて人的交流も自由にする。当然外部の情報も入ってくる。
だがこれは3つの理由で実施が難しいだろう。
一つは改革開放によって新しい資本家が台頭してくることだ。これは朝鮮労働党、あるいは軍部などの既得権益層への大きな脅威となる。むしろ経済自立を阻害する反動勢力にしかならない。親玉金王朝の「王家」はこれらの集団の頂点にある。国民からの収奪や周辺国からの援助(脅迫での見返りを含む)で自分自身蓄財し、一部は党、軍部、秘密警察などの中枢部に分け与え、残りを一般国民に配給という形で支給する。これらを「将軍様のお恵み」ということにして国家を統制してきた。しかし現在末端の国民への配給がままならず、こんな状態で新たな資本家が出現したら金王朝の管理システムはその欺瞞性を暴露されてしまう。
二つ目は国民の不満爆発だ。改革開放によって情報が入り、自分たちが世界的に最も貧しく自由のない最悪な国であると知る。それは既存権力に対する激しい憎悪を引き起こす。今でも本音では自分の国は酷い状態だとは思っているだろうが、これがもっとはっきりした形でわかればその憎悪は計り知れない。金正日たち指導部はそれを恐れて情報を完璧までに遮断したのはある意味、当然の帰結であった。
三つ目は北朝鮮という国家そのものの存在意義の喪失だ。これは統合前の東ドイツの例を見るとわかる。22年前の東欧の再変動は、各国に体制大変換を導いたが、東ドイツを除けば国家そのものは現在も存立している。東ドイツ国民はは結局西ドイツと比較してドイツ内の遅れた二級、三級地域住民にみられ、援助の対象にしかならなかった。いわば吸収合併だ。その弊害は今も尾を引いている。旧東ドイツ住民は劣等感から自分たちの存在意義の喪失になおも悩まされている。
北朝鮮と韓国の経済格差は22年前の東西ドイツの比でなく極端な差がついてしまった。韓国に伍して国家としての体面をとても保てないだろう。もはや軍事的な空威張りしか国家として存在意義を見いだすことはできない。開放が進めば結局は国家を失うというジレンマに突き当たるたることになる。
以上が北朝鮮が改革開放により体制が大変換する経過を考察してきたが、これを承知で現在の北朝鮮指導部が踏み切る度量があるだろうか。進めることによって自分たちの権力基盤をみずから失い新興勢力の糾弾をうける皮肉。これまで金正日独裁体制で甘い汁を多く吸っていた者ほどその抵抗は凄まじいことは予想に難くない。しかし開放をしなければこれまた存続出来ない。国の進路を巡って深刻な対立は避けられないだろう。