産経新聞の記事に、「香港の吉野家で『福島産なし、安全』香港吉屋の31店舗がポスター」というのがあった。
牛丼チェーン吉野家の香港にある全61店舗で「香港吉野家は、福島の米や食材を一切使っていません」として「良心的な品質、安全食材」と主張するポスターを張り出していることが28日分かった。
香港では昨年末ごろから「吉野家は全ての米を福島産にすると発表した。がんになることを恐れないなら食べに行って」など、吉野家を中傷する誤った情報が携帯電話のアプリで拡散。ポスターはこれに対応するため作製され「100%絶無 日本福島食材」と赤いはんこを押したようなイメージも付けられている。
約2カ月前から掲示を始めたといい、店舗の外からも見えるようガラス壁に張ったり、店内のメニューの横に張ったりしている。香港吉野家の広報担当者は、福島県の食材を使用しているのかと多くの問い合わせがあったとして「われわれがやらなければいけないのは客の懸念を取り除き安心させることだ」としている。
吉野家HD(東京)は「現地の運営は現地に任せている」としている。(記事全文引用)
最初この記事を読んで酷く不快に思った。昨年、自分のブログでも吉野家が福島で現地の農家と提携して自社米を生産するという報道を取りあげて、吉野家の取り組みを歓迎したのに、今回の件にはそれに冷や水を浴びせられる思いだ。
ただ、残念ながらこれが海外で日本の食を展開する上での厳しい現実ともいえる。日本国内のように、「食べて福島を応援」などという同胞愛は望めない。
香港といえば、原発事故当時雨後のタケノコのように増殖した日本食店、特に寿司店が風評被害で大打撃を受けたことが記憶に生々しい。ただ日本食という名前だけで、食材の多くが東日本とは関係なかったり、あるいはそもそも日本産でさえないのに、敬遠され客足がばったり止まり多くが廃業に憂き目にあった。
そんな過去の傷が消えない中、外食産業の激しい競争もあって福島産への理不尽なデマが香港の街を飛び交い拡散していったのだろう。それでなくとも香港という中国人社会にあって、やはり反日という意識が人々の心の底辺に根強く残っている。放射能汚染の恐怖という過剰な不安がこうした反日意識によって増幅され疑心暗鬼が渦巻いてしまったといえる。
こうした香港人の意識に中で「風評被害払拭」を訴えても残念ながら通用しない。そもそも香港に吉野家が61店舗もあることが驚きだ。こうした実績を確保している香港の吉野家サイドが「福島産なし」のポスターを出したことは苦渋の選択だったともいえる。
異邦人に「風評被害払拭」などと理想論を唱えても現実は厳しい。いまだに日本でも「風評被害は東電の実害」などと曲解や否定をする人間がいるくらいだから、大きいことはいえない。せめて日本国内だけでもそんな風評に動じない風土を確たるものにしたいものだ。吉野家は今後もこれに懲りずに福島米の生産をさらに推進して欲しいと願うばかりだ。