2017年10月
息が切れて来たよ。「散歩か?」 いや、駄文屋の売り物が底ついてきてアクセクしてんだよ。毎日、作りたてのおかずを並べてんだけど
お客さんが次から次から来るから店頭の売り物が品切れになるんだよ。ええ加減にせいよ。 「其れ、おまえ誰に云うてんねん?」
だから、横丁の路地裏でコソコソやってたら、こんなしんどい目せずに済んだんだよ、誰や、勝手に当店を駅前の並びに移転したのは?
オレはね、昔、食べ物屋の商売やってたから思い出してしまうよ。朝早くから仕出しで熱やら湯気やらの中で汗かいて準備して
一息入れたらお客さんがパラパラ、バラバラ、ドカドカ、ムギュ、ムギュ押し寄せてきて、「アレくれ、コレくれ」注文に追われ
アラヨッ、コラヨッて作り立てのフライを揚げては、めくら切りの盛り付け一丁、そらあっ三丁って宣戦布告の戦いだよ。
もう、滅茶苦茶忙しくなったらデカいフライの鍋で煮えたぎる油ん中で、トンカツ、イワシにアジにイカにエビにとビチッビチビチビチッと
勢い跳ねて浮いてる奴を手掴みで上げてストストストストッって目にも止まらぬ速さで切り揃え包丁掬いで皿に盛りつける。
アラヨッ、テーブル5番さん上がりぃ~なんて、まさしく戦争だったよ。嫌で堪らん仕事だったけど、此の戦の最中は燃えるんだね。
作り立てが売り物よ、寝とぼけ料理なんかはお呼びじゃない。待たせても、お客さんは、何が嬉しいのか誰一人怒る人など居なかった。
美味い、美味いって、毎日、飽きないことだね? 綺麗なOLさんたちは揃って奥の厨房に居る男前にウインクの嵐だった。
其の男前ってのはオレのことだよ。オレは、忙しい中、ウインク返すんだけど、もう、両目瞬きウインクになってる。
「作り話だろ?」 馬鹿めっ、当駄文店には嘘などお呼びじゃない。「駄文屋じゃないのか?」 駅前の並びだから格上げしてんだよ。
「路地裏に戻ったら?」 駄文屋に戻るんだよ、話しの流れに堰を設けるなっバカタレがっ。「すまん」
あのな、何でもそうだよ、勢いってのはね、気を張らして緊張を生む、意気に感じて熱を生む、理屈じゃない思いの塊だよ。
料理を作る人、其れを頂く人、賄(まかない)を預かる人が一体になったら、其の熱が美味さをもたらすんだね。
オレが、駄文を書く姿勢はね、そんな思いが熱源になってる。だから、駄文の拙劣、稚拙を通り越して人さんに伝わるんだよ。
「今日は、珍しくまともな講釈述べてるな」 モンベルやアマゾン、価格コムや楽天ばかりが能じゃない。 「自覚あるね」
あっ忘れてた、ユニクロもだよ。オレのお気に入り人気ベスト・ファイブだよ。
あっ、そうだ、ユニクロで思い出した。ブロックテックスリムフィットチノ¥3.990も色に迷って忘れてた。 「ずっと、忘れとけ」
此処だけの話しだけどね、今んとこ小遣いそんなに困ってないんだよ。オレの小遣いの範疇での話しだよ。
欲しいものを、或る程度買い揃えたけれど隠し財産はあるんだよ。 「ホンマかいな?」 財布の中には、「中にはっ?」 あるんだよ。
「だから、どれ程、あるのんかいな?」 そうだな、例えば、ブロックテックスリムフィットチノ¥3.990を買っても残るよ。
「冗談は、さておき、財布の中身は如何程かな?」 千円札に両替すれば財布が苦しいと云うぐらいかな? 「ゲッ、20枚かな?」
オレの財布は、二つ折れだから、あんまり入らんけどね。此の財布は、デパートで張り込んで定価で買ったんだよ。
二つ折れは、財布の相からするとあまり良くないらしいけど、此の財布は、お金の持ちが凄く良いんだよ、減らないんだよ。
ずっと、膨らんだままだよ。「30枚は入るだろ?」 無理したら入るかもね? 「じゃあ10万はあるな?」 どんな勘定しとんねん。
無理して千円札が30枚入るかどうかと話しておるのに、なんでホップ、ステップ、ジャンプして10万になんねん?
「千円札30枚なら万札なら10枚は軽い」 ああ、そういう意味か、なるほど、いいとこ突いてるよ。「ゲッ、御見逸れしました」
この歳なって、其れっぽっちで御見逸れして貰ってお恥ずかしいことです。 「いやいや、有りそうで無いのがお金ですよ」
無さそうで有るのもお金です。「有りそうで有るのもお金です」 無さそうで無いのは慣れてます。 「なにを云うとんねん?」
「駄文、真面目に一生懸命に書いて此れか?」 そうだよ。 「根が不真面目なんだろうな?」 かも知れない。
今ね、オレが人さんの流れを推測すればだね、本流は路地裏の駄文屋で日々流れているんだよ。それが恰(あたか)も駅前の並びの
駄文店に在る如く矢鱈多くの人が訪れて頂くのには、二つの流れが影響していると見たね。 「二つの流れ?」
もともとの一つの本流に対して二つの支流が合流したと見る。わりと大きな支流だね。つまり3倍だよ。過去にも何度かあった。
先の支流はやや定着型ではないかいなと感じるんだね、 まあ、いずれは去られると思うけど少し息が長いように感じる。
後から合流した支流は、喰い漁っては姿を消すイナゴの大軍タイプではないかな? 「おまえ、その表現は失礼だろ?」
あくまでも喩えだよ。川は、地に湧き出でて天の恵みの降雨を得て川を形成して流れ往くね。
オレはね、流れを忘れて澱んでドブ川に成り果てても構わない。僅かなりとも流れに寄与して自浄の作用に気づきを与え
天の恵みの雨水を借りて水を動かし腐りかけた底をも揺り動かせて眠った澱みに息を吹き返す事は出来ると思ってる。
息を吹き返せば生物が寄りきてバクテリアを駆逐して 「合ってるか?」 その辺が曖昧だね。「曖昧なことを尤もらしく書くな」
川辺に葦など生え揃えば物言わぬ生き物の力さえ馬鹿にはならぬのが自然界の恩恵だよ。見よ、届かぬものの力だよ。
微力なりとも動かし続けることこそが全てに通じて命を与えるのだ。 「駄文屋の家訓か?」 まあ、そういうことだね。
見向きもしなかったドブ川が生まれ変わって清らかな流れになって人を癒して夢を与えることも充分に可能な話しだよ。
「三川合流の話はどうなる?」 なるようになるんだよ。川はくねって流れ往く、其の過程にはいろいろなことも有るわいな。
雨が降らなければ自力で流れを創らねばならん。今、オレのすべきことは水を絶え間なく流し続けることだよ。
ふと、ドブ川でもええなあ、と想う時もある。「おまえの拓いた川には、ここが憩いの場所と生息する魚たちが既に居るぞ」
もともとの川に魅かれて寄り来て力を与えてくれる魚たちに清い水を流し続けねばならんね。「そうだよ、其れが責任というもんだよ」
おまえ、エエとこ盗るね。ふつう、其の行でピリオド打つ積りだったけど、此れではオレが脇役ではないか?
「エエではないか」 しかし、鳶(とんび)に油揚げをさらわれたような顛末ではないか? 「黙って駄文を書いてたらいいんだよ」
此れでは脇役を馬鹿にしてるようなもんではないのか? 「そんなことはないよ、目立ちたければ脇に立て」