昨日の夜、職場に忘れ物したので取りに行ったついでに、ちょっと、片付けしていたら「★★ちゃん、何してんのん?」って、
某私立大学付属の中3の女子が覗いてる。「あれ、おまえこそなにしてんの? 何処か行って来たんか?」
「なんで、こんな時間に★★ちゃん居てんのん?」 おまえは、警察官かよ。
「食事に行っててん」 「おっ、デートの帰りか?」 「ちゃうわ、家族と行ってきてん、上の人と・・・」
「上の人?おまえの部屋の上階の人かいな?」 「ちゃうわ」 なんでもええわな。「おっ、お洒落してんね」 「ちゃうわ」
なんでも、ちゃうわやね。なんか訳の解らんこと、口ん中で喋って、「ほなぁ~★★ちゃん、帰るわぁ~」
ニッチャラ、ニッチャラ笑って、バイバイしながら帰って行く、なんでもええけどね、その流し目やめろよ。
いつもニコニコ明るくて性格の素直な娘(こ)やね。「全然、モテへん」って悩んでるけど、愛くるしい顔して女性の魅力も充分だよ。
隠れファンが沢山居るよ。そのうち、「忙しいねん」なんて自慢話を聞くことになるね。「アホらしやの鐘が鳴るよ」
京都へ「紅葉でも観に行こうか」 と出かけたよ、の巻きだね。
奥さんが、何処か行きたいって、前々から云ってるので息子と付き合ってあげたけど、出だしから、いつもの悪い癖が噴き出して台無し。
息子は、形(なり)を構わない性質(たち)で、髭面に、髪の毛を肩まで伸ばして後ろで結わえてる。
格好つけたくなったら、また変わっていくもんだから、オレは、なにも云わない。
奥さんは、其れが気に入らんから櫛やブラシもって梳こうとする。其れが、また、息子が気に入らん。
「もうっ、放っとけやっ、おとん、なんとか云うてえや」 此の前も、同じことでモメた折り、「もう、せえへんし、云わんわ」って、
宣言して居ったのに、また繰り返してる。「お母さん、もう、せんと云うたんやろ」 「それでも、お父さんっ見苦しいわっ」
「こんなの、街ん中にようけ居るがな」 「前だけでも梳きっ」 「しつこいなあ」 「これが、一番、アッタマにくるねんっ」
「そんな、無様な頭はルンペンやないかっ」 「坂本竜馬なんか、こいつと一緒やで」 「時代が違うやろがっ」
ほとんど、気ちがいやね、なんで言い出したら止まらんの? 追いかけとおるわ。「うっさいなっ」 「梳きっ」
「はい、はい、もう、行くでえ」 追い出すように外へ出る。奥さん、眉間に縦皺入ってる。嫌な雰囲気。
駅では静か、電車乗って腰掛けてる奥さんが、ドア辺りに立ってるオレの顔を睨んでる。「なんで、オレなの?」
乗り換えの駅で、電車待っている時に「やりよった」 「梳きっ」 「ええっ、こいでええのっ」 ブラシを手に持って追いかけてる。
「前だけでもっ梳きっ」 「おとん、なんか云うたってっ」 「お母さん、もう、しつこいな」 「なに云うてんのっ、あんたが云えへんからやっ」
声量が上がってる。嫌だねえ、オレは、こいつと一緒なってから、これだけは、ホンマに許せんのっ。
なんで、外で、馬鹿声上げてまで怒ることかよ? なんで、止まらんの? なんで、エスカレートするの? ショーでも遣ってるつもりかよ?
一発で気分を害されるんだね、周りが見えなくなるほどのことかよ? 家ん中も、外も変わらん怒りようやね。
表裏ない性格って云えば聞こえはいいけど、ブレーキのない車だよ。場所柄わきまえて押さえろよ。「ウンザリだよ」
電車は混んでいたけど途中で席が空いたので息子と並んで座る。違うドアから乗った奥さんがこちらへ来る。恐い顔。
ちょうど、通路を挟んだ席が空く。奥さんが座って、こっちを睨んでる。暫くするとブラシが飛んでくる。「なにさらすんやっ、このババアッ」
茶瓶が沸騰して蓋が飛ぶわ、ホンマあ~っ。「なんやねん、あれはあ~」って息子が笑ってる。
走ってる電車の席立って、息子の横に来て、大きな声で「梳きなさいっ、前だけでええからっ」 混んでる車内だよ。
息子は知らん顔してる。「このまま、元の駅へ帰るからなっ」 環状線だから乗ってりゃあ戻るわな。「こっちも帰りたい気持ちだよ」
京橋に着くと「降りるで、帰るつもりかいな」って、降りていく。気ダルゥ~。馬鹿女のワンマンショーやね。
京阪京橋駅で、息子が髪の毛を梳いだので、やっと、一件落着。梳くなら、もっと、早く梳いたれよ、おまえも。
お京はんって、よく混んでるね。JRの電車乗り慣れてると京阪電車は窮屈な感じがするね。
気重たくなってるから京都までが長かったよ。どちみち、今回も失敗で終わるだろうね。行き先は、奥さん任せだから息子と着いていく。
祇園四条駅からアーケイドの商店街を東へ少し歩いて右手に折れる。石畳風の通りを行くんだけど、車が走るので落ち着かないね。
祇園先斗町(ぽんとちょう)かね? 芸子さんがちらほら姿を見せてる。優雅な旦那さんや、社長さん、それとエロ坊主さんの遊ぶ町筋なんだね。
花見小路通りって云うんだね。京都の風情は楽しめるかね。なんか、金沢の何処か?と似てるね。
突き当りを左へ折れて坂道を上がる。東山安井って大きな通りの交差点に出て向かいに渡り、人並みに流されるようにフラフラ歩いて進む。
「何処へ行くの?」 ホントのとこ、帰って来て、考えても何処へ行ってきたのか解らん感じなのよ。高台寺周辺らしかった。
やたら、人が多くて、ただ、流されていたって感じ。紅葉は何処なの? あんまりないよ? 「もう、あかんわ、何か食べよ」
足がダルイ? おまえ、そんなに歩いてないよ。「なんやねん、こんなん見て、なにが楽しいねん?」って息子。
お店のメニューが土塀に貼られてる。「あんた、ここでええやろ?」 「何処でもいいけど混んでるがな」 客が順を待って並んでる。
「並んどくわ、あんた写真でも撮っとき」 写真でも撮っときって、こんなとこ撮るもんないがな、殺生やな。
せんぞくた待たせて「あかんわあ、なかなか前へ進めへんわ」って、出て来たよ。なんやねんなあ~意味ない時間やね。
待ってる間に、紅葉や赤く染まった葉っぱを撮ったよ。此の程度なら、わざわざ京都まで来なくても近場で充分だよ。
腕がそぐわないから、生意気云えないけど、写真を主にするなら独り旅だね。気侭にウロウロ、時間を捨てて、足に任せて撮りまくるちゅうのがいい。
家族と出てきて重たいカメラ、使うとこがないよ。首にぶら下げたコンデジだけで充分だね。
お店の行列並んだり、諦めたり、こんなの2~3回繰り返して、結局、断念して「二年坂、三年坂はあっちやねん」って、行くんだけど
「おまえ、腹減らして足ダルイのに坂道上がれるの?」 「おかん、清水寺は、以前に行ったやん」 「ほな、何処へ行くのん?」
「其処にトイレがあるよ」 ようけ並んどおるわ。「行っとくわ」って、奥さん並んでる。
「なにがおもろいねん?」 「せやから、家でパソコン遣ってるほうがええ云うたんや」 「たまには、付き合ったろと思ったのが間違いやったね」
「今回も失敗やったね」 「出だしから失敗見えとったわ」 皆さん、ウロウロしてるけど、なにが楽しいのん?
ほかに喜びごとがないんかいな? 家に篭ってると、出歩く人の活発な姿が、いいなあと思うんだけど、いざ、出て来ると「なんなの?」って、なるよ。
着物姿が、はんなりするね。芸子さんは、この辺りの雰囲気造りに貢献しているよ。追いかけて背景のいいとこで撮ったげようかと
思うんだけど、奥さん、戻ってこないから追うこと出来ないよ。「ババア、早よ、来んかえ」
こうして、日ごろ、見ないものを目にするだけだね。これが新鮮なんかね? 代償の方が身に堪えるよ。
四条通りに出てお店を探したほうが早いってなって、また、来た道を逆戻り、八坂神社南桜門前に突き当たり左へ折れて坂道を下る。
祇園交差点、八坂神社西桜門前を左に折れ四条通に戻る。歩くってのは、距離がしれてるわりに時間を食うね。もう、夕方じゃないの。
こんなんなら、八坂に入って丸山公園うろついたほうが、良かったんじゃないの? 結局、奥さんは何処を目指してたの?
「あれえ~?この祇園通りのT字型交差点の風景は、50数年来、変わってないんじゃないの?」 部分的には補修やらなんたらで
手は入っているだろうけど、パッと見は遠い昔に見たままよぉ~。コワイとこやね。
「おっ、向こうに古ぼけた薄茶色の建物は祇園会館やね」 記憶が定かなら映画館だったはず、一度、観に入ったなあ・・・いつだったかなあ???
人ごみに押されて四条通りを西へ歩く。「なんだよ、此の人ごみは」 祇園ホテルを向こう通りに見て進む。
「あんた、これにしようか?」 通りの角の立て看板を見て、奥さんが呼んでる。「チンミン」 中華料理だね。名が通ってるね。
「俺は、これでいいよ」って、息子。「じゃあ、オレもいいよ」 横町に入ってビルの5階、「おお、空いてるね」
「ホッ」と、するよ。窓から四条通りが見える。皆がそれぞれ注文して、オレは、鶏のから揚げ、五目チャーハン、水ギョウザに生ジョッキ、「美味かった」
暫し、ゆっくり休憩して、生き返って出てきたら、もう、薄暗くなってるよ。「わたし、紅葉を、全然、撮ってないわ」
おまえは、足がだるいとか、腹へったとか云って、お店に並んでスカ喰らって繰り返して、トイレで並んで時間取られて「そらあ、ないわな」
「あんた、七味唐辛子買っとこか?」 「ああ」 じっと立って待ってる場所がない。ちょっと、先の四つ角の脇で息子と待つ。
「おとん、これなんや?」 公衆電話の脇に花束が添えられてる。「飾りやろ」 息子が、顔近づけて促してる。「?」
「ああ、四条通りの跳ね飛ばしの事件か、ああ、なるほどね」 そういうと中ノ町だったね。ここで沢山の人が跳ね飛ばされて亡くなったんだね。
「こんなとこやったら、そらあ、やられるで」 人だらけの交差点だからね。過ぎ去ったら、何も変わらず花束一つだけだね。
暫くして「えらい待たされたわ」って奥さんが来る。四条大橋の交差点を渡った頃には、もう暗い。「帰ろか?」 「ええ?もう、帰るの」
暗くなったら写真もあかん、ことないけど自信がない。「せやなあ、ほな、向かいのお菓子でも買ってくるから、あんたら河原でも降りて待ってえな」
云って、奥さん、また交差点渡って向かいの老舗風のお店へ行っちゃった。
「おとん、思いは返るってことが解ったで」 川沿いの植え込みの石垣に腰掛けて息子が云ってる。「うん?」
「腹立てて向かえば、相手も同じ想いで向かいよる、優しく向かえば、相手も優しくなりよる、不快なことは、自分が作ってるねんで」
当たり前のようなことだけど、真理をついてるね。その通りだよ。そういうと、髪を梳きだしたおまえを見て、成長しよったなって思ったよ。
「おかんが、ガミガミ云うのは、其れもあるねんな」 確かに有るかも知れん、けど、あいつのは、ちょっと違うと思うよ。
「おかんは、病気か?」 「そう、治らん病気だね、不治の病だよ」 笑ってる。「おかんは左脳一直線やなあ、融通が、全然ないからなあ」
我々、右脳派とは相容れない人だね。なにも、右脳派が良いとは云えんけどね。対極する人だね。
何かの節々で、人間は気づき成長していくんだね。息子は、思い遣りを学んだね。人の心の有り様に目を向ける、返って、我が心と照らして
相手を視る。人の心は、我が心なんだよ。我が身を大事にせぬものは、人をも粗雑に扱うもんなんだよ。
「おとん、俺、ちょっと、変わったで」 そう、人は変わっていくもんなんだよ。
視界は見えるものを追う。心は、見えぬものを追えるんだよ。 夜になっちゃったね。辺りが見えなくなってきたよ。
話しながら、交差点のほうを見てんだけど「菓子買うだけにかかる時間かね?」 「うん?」 見慣れた姿のシルエット。
大橋に流れる人ごみの前を行ったりきたり「戻っとおるわ」 息子と向かう。携帯電話してる。「あんた、携帯持ってるんか?」
「ズボラな奴やね」 携帯で呼ぼうとしとったな。「ああ・・・マナーモードになってるわ」
「この携帯、あかんで、勝手にモードが変わってるよ。アイフォン5やないとあかん、行ってきてや」 「なんでも私かいな」 「おまえのが詳しい」
自然な形で流れるように欲求を相手に伝える。「技やねえ」 アイフォン5、7分は手中やね。
大橋袂の地下出入り口から京阪電車乗り場へ、何処へ行っても人だらけ、「静かなところで紅葉を楽しむなんてないの?」 車ならあるだろうね。
「それが、ホンマやで」 軽でも買うか? 「行き着くか?」 「其れが問題やね」 紅葉見に行って死ぬなんて嫌だもんね。
満員の京阪電車で大阪の京橋へ、京橋から満員のJRに乗り換え梅田周りで帰路に着く。途中、乗り換えた電車はガラ空き「ホッ」とするよ。
いつもより、早めに帰れたのが救いやった。午後7時30分、家の中では宵の口やね。「ほな、パソコン始めよか」