![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/b4/79988c88af4139fa2ccaf1ae090a34da.jpg)
『サムソンとデリラ』 2016年4月13日
誂えのスーツを着てビシッと決めて出かけようか。「何処へいくねん?」 何処だろうかね? ちょっと、いつもの自分じゃない人になってね、
街ん中彷徨うのさ。「スーツ着てか?」 何を着ようがオレの勝手だろ?
昔風のオーソドックスな風情のなかに、今流のスマートな趣を加味したような喫茶店に入ってだね、「何処に在るんねん?」
馬鹿だね、何のためのネットだよ? キーを叩けばズラッと並んで 「来て頂戴」って時代だぜ。「まあ、そうだね」 行ってあげよう。
「スーツ着てか?」 そうだよ、あのね、お店はね、利用する客で、其のお店の雰囲気が作られるもんなんだよ。「なるほど」
オレが、いつもの普段着でサンダル履いて行ってみろ、お店の人は内心ガッカリだよ。もうちと服装及び履物を考えて来てくれよとは云えない。
そんな思いをさせては気の毒だよ。まあ、オレの場合は、仮にそんな姿でお邪魔してもね、店員の女の子は、皆、ドキドキするだろうけどね。
「なんでや?」 オレにも解らないことを、なんでやと聞かれても答えようがないね。 「このおっさんは、だいぶんおかしいで」
そうだね、この前、注文したのに、奥さんが怒ってキャンセルしよったチャコールグレーのスーツね、いい色合いだったよ。
あの色合いで濃いめ、少し艶のある上等ものがいいね。生地としてはイタリア製が良いらしいけど、オレはちょっと堅めの英国製の生地が好みだね。
シャキッとした線が好きだからね。心がヨナヨナだから生地の加減で隠すのさ。「弱強弱そうな自分をか?」 そう、強弱強そうに変身するのさ。
オレはね、オーダー屋さんでもお願いしたんだけど二の腕(肘から手首にかけて)の部分を心もち細目に仕上げて欲しいってね。
『二の腕について』 元々は肩から肘にかけての部分が「一の腕」、肘から手首にかけての部分が「二の腕」と呼ばれていた。
それがいつの間にか誤用され、「一の腕」が「二の腕」と呼ばれるようになったらしい。
そして次第に「一の腕」という言葉は使われなくなり、やがて死語になったという。ちなみに、肩から肘までを上腕部という。
『北北西に進路をとれ』 ケーリー・グラント エヴァ・マリー・セイント ジェームズ・メイソン
背広を着てね、腕を下すと袖がストーンと落ちて手の甲まで隠すのが我慢できんほど気に入らん。「なんでや?」 ガキの制服じゃないわい。
「ゆとりだろ?」 宛がい口で生きてろ。オレはね、二の腕に袖があるだけでも邪魔に思える性質(たち)なんだよ。
捲り上げたい衝動に駆られるの。ワイシャツは薄いもんだから気にならないけど、其の上にドテエ~と背広の袖が被さるとイライラするんだよ。
スーツを着ても行動的な姿が理想だよ。二の腕の袖周りをやや細目に作ることでワイシャツに絡んでドテエ~と落ちるのを防ぐのさ。「そういうことか」
映画なんか見てるとね、袖が落ちずにあるんだね、まあ、あちらの奴だから二の腕の筋肉がそれを止めるのかも知らんけどね。恰好いいんだよ。
それに袖丈を少し短めに拵えてるね。オーダ屋さんは、決まって手首の下の甲にかかるまでサイズをとる、待てよ、手首のところにしてくれないか。
「いや、これがベターですよ」 ベターもバターもないんだよ、着るのはオレだよ、ベターが着るんじゃないんだよ。「そんなん云うたんか?」
オレが、そんな糞生意気なこと云う男か? ああ、そうですかで、決まりごとの犠牲者だよ。「よう云わんのか?」 うん。「あかんわ、こいつ」
押して云って、出来上がりを試着して 「そらみたことか」なんてベター破りの失敗だったらどうすんだよ。 「我慢して着ろよ」 腕が通らんのだよ。
『エル・シド』 チャールトン・ヘストン ソフィア・ローレン この映画のソフィア・ローレンは綺麗だったねえ
そんなのを経験してだね、其処でメジロは考えた。寸法どりで拵えるのがパターン・オーダーなんだね。云わばオートメーション式だよ。
フル・オーダーってのは、一番贅沢な誂え方式で、中間にイージ-・オーダーってのがある。これは、仮縫いがあって、出来具合を確認できるんだね。
拵える時は、このイージー・オーダーでお願いするよ。「高いだろ?」 背広なんてのは、天井知らずの値段まであるらしいよ。
そんなの着ても服が笑いよるから、そこそこのでいい。日本人なんか、大方、服に笑われて着てる奴ばかりだよ、猿に衣装だよ。 「おまえは?」
馬子(まご)にも衣装だよ。アホで貧乏人でも磨いて着飾れば見た目は一般人だよ。恰好なんてのは、その程度のもんさ。
それを解って、暫し、余所行きの自分に浸ってだね、出された熱いコーヒーを頂く。錯覚の世界に酔うんだよ。
さまを気にせず頂くコーヒーも、さまを作って頂くコーヒーも味は似たようなものだけど、其処に漂う気取りの香りが違うね。「気取ってるの?」
気取ってると思うよ、家で呑んでるオレではないと思うけどね。何気に目線を落とせばチャコールグレーの背広の袖口からワイシャツの白い袖が覗いてる。
007と一緒だね。 「なに?」 いや、007と同じだねって云ってんの。「そんなもん、ほんの一部分だったら背広着たら誰でも一緒やないか」
解ってないね、其の一部分に酔ってんだよ。「こんなおっさん珍しいで」 ワイシャツにも、いろいろとレベルがあるんだろうね?
ワイシャツでも誂える人って、かなり居るらしいねえ? 「そらあ、居るやろ、誂えに馴染むと既製品は着れないらしいよ」
煎餅(せんべい)みたいな身体に誂えたワイシャツ、其の上に、誂えたイタリア製の50万円の背広を着て 「これが誂えた背広や」って、見せてる。
いつも、人を見下すような物言いが癖みたいな人だったね、若い頃は、社長に可愛がられて出世も早く、次から次へと女をつくり
奥さん泣かせを豪語する人だった。大きな屋敷に住んで、公認会計士で先生、先生と呼ばれるような息子に恵まれ優雅なもんだったね。
人を選んで媚びいる姿に若い頃の、その人柄を見たような思いがしたね。身体が歳とともに弱り、今度は奥さんの力が増大して立場が逆転したんだね。
『クレオパトラ』 シーザーのレックス・ハリスン クレオパトラのエリザベス・テーラー アントニウスのリチャード・バートン
云ってはなんなんだけど致し方ない展開ではあったね。親戚の結婚式だったかなあ? 「それように、また、背広を誂えたよ」って云ってたね。
イタリア製の靴にイタリア製の背広が昔からのパターンだって。「パ(バ)ターン死の行進」みたいな身体して、尚、張り付いたスタイルが好きらしい。
スルスルの生地を好んでたね。なんか、この人の趣味は気持ち悪いんだね。なのに、「今日は、このスーパーの卵が3円安い」って買いに行くんだよ。
オレからしたら理解不能だね。金持ちほど日頃は始末でケチで見苦しいってのは、よく聞くけどね。で、格式ごとには金を惜しまない。
惜しまないから、あんな煎餅みたいな身体に50万円の背広が買えるんだね。いいねえって感心して褒めてあげたけど
衣装が人を作るのかも知れないけど、衣装を台無しにする人も居るね。50万円の背広が泣いてるで。笑われるより惨いよ。
見た感じ、新世界のジャンジャン横町の古着屋の吊るしの背広にしか見えないよ。勿体無いねえ。オレだったら、前から狙ってる
パソコンとモニターと自転車を買ってイージーオーダーでスーツ二つとブレザー拵えて貰っても、まだ小遣い残るよ。
服に贅沢するときは、よくよく鏡に我が姿を映して、それに見合うものを身に着けるべしだよ。せめて服に笑われる程度に抑えるべしだね。
オレが、自分で、まだ見れるうちに、一発、張り込んで誂えても、せいぜい、7万円前後が最高品だろうね。ごっつい贅沢だろう。
「そんなの身に着けて、其の服は、どう思ってる?」 そうだね、もっと張り込んでも価値があるよと云ってるよ。「よく云うねえ」
夢で泣きごという奴居るか? 「10万円のでも惜しくないね」って云ってるよ。「3万アップしただけやないかえ」 軽く云うな、アホ。
『アラン・ドロン』 なんの映画だったかなあ?
オレは、他人(ひと)さんを見てる、人はオレを見てる。だから、オレにはオレは解らん。解ってるのは、オレの中身だよ。軽いねえ~ってね。
しかし、毎度、仕事で着てるサラリーマンにとっては、スーツに新鮮味を感じられないのは解るね。
休みまで着たくはないかもね。オレも、こんなのが毎度だったらしんどいかも知れん。時折だから、お洒落で着たくなるんだろうね。
オレは、織目は別として無地のネクタイが好きだね。黒っぽいのがいい。大きな柄ものは論外で細かな柄入りも好まないね。
そんなので独り静かに窓の傍らの椅子に腰かけ流れ来る音楽聴くでもなしにのんびりできる喫茶店がいい。
のんびりしつつ身を引き締めて在る自分が好きだね。だらしないのは好きじゃない。何かに緊張した部分がある時のほうがいいね。
日頃の自分から離れたところに、日頃の自分ではないオレをおいて、のんびりしたいって欲求があるんだろうね。違う自分探しかね?
『大列車作戦』 ジョン・フランケンハイマー監督 バート・ランカスター
昔、オレが店を独立して、なんとか昼の営業が軌道に乗った頃、本店のお店で常連のお客さんだったOLの女性が、オレの居所聞き出して
追いかけるように新しい店に来てくれたらしい。生憎(あいにく)、其のころは、まだ、夜の営業まで手が回らなかった頃だね。
何度も足を運んでくれたらしいけど時間が合わずに、結局、顔を会わすことはなかった。
誰だろって思ってた。義姉から「いつも昼の忙しい盛りが引いた頃、一人で来て、決まって奥のテーブルに着く女の娘(こ)やん」って云う。
ああ、あの艶やかな長い髪の毛の女性(ひと)かって解ったよ。何処ぞの偉いさんの秘書って感じの人だった、そういえば、よく目が合ったな。
其の頃のオレからしたら、なんか妖しい雰囲気の女性に思えたよ。いつも髪も制服?も靴下もヒールも黒で統一してタイトスカートが恰好良かったね。
女性の黒い靴下の後ろにラインが入ってるのがあるね、オレはあれに弱いの。クラクラとしてしまうよ。黒の網目のタイツも鼻血もんだね。
綺麗な人だったね。追いかけて来るなんて想いもしなかったよ。オレとは住む世界が違う人って感じで居たよ。初心(うぶ)だったからね。
オレはね、不思議とこういうタイプの女性に目をつけられるんだよ、それも少し個性っぽい人が多かったね。ママ、コワイって感じ。 「馬鹿やで」
女性から見たら、オレはどんなタイプの男に見えるんだろ? あまり考えなかったね。オレが知ってるオレでしかないと思ってたからね。
この歳なって、そんなのを考えるんだね。 「遅いわ、アホ」 なんでも遅いのがオレだよ。意外とモテるってのは解ってたけどね。
「なんでモテるねん?」 それだよ、それが解らん。なんでだろね? ひょっとすると、オレを独占したい弄びたいって衝動に駆られるじゃないか?
女の妖しい欲望だよ、こんなので良ければ好きにして。 「しょうもない男ほどモテるって云うけど地で行ってるね」 それって、オレのことか?
『砲艦サンパブロ』 スティーブ・マックィーン キャンディス・バーゲン リチャード・アッテンボロー リチャード・クレンナ
そんなことを霞(かすみ)のように思い出しては窓の外に目をやりながら、独り、頬を緩めてんだよ。「スーツ着て、そんなのを考えてんかよ?」
車のライトやテールランプの明かりが交錯する夜の大通りの交差点、ビルの窓の明かり、看板や陳列のネオン、色とりどりに明かりの数が矢鱈と多いのに、
不思議だね、信号の赤黄青の明かりだけは混じることなく目立ってる。それぞれに人も自分が混じらず目立ってると思って生きてんだろうかねえ。
「お客さま、お代わりしましょうか?」 あっ、ありがとう。ウェイトレスさんがニッコリ笑って綺麗な手つきでコップに水を足してくれてる。
気の置けない好きな人と一緒になってもね、そうして気持ちを込めてご主人に接してあげれば夫婦円満、家庭円満で幸せに人生を送れますよ。
気をおかねばならない人たちに囲まれて人は世の中を生きていく。お金や生活のためだけに、その綺麗な優しさをついやするのは勿体ないですよ。
唯一、気を置かずに付き合える人だから慣れて流れる日々の中、時折、心を込めて接してあげても罰(ばち)は当たらないですよ。
「余計なことを」 べつに口に出して云ってる訳じゃないよ、女性はね、こうして働く中では美しくあろうって意欲は盛んなんだけど
慣れた家に帰ると疲れて出し殻になって本性出し切って理解におんぶに抱っこで崩れる。無理のない処だけどね。女性に限ったことじゃないけどね。
空気と水の有難味と同じくで、有って当たり前の姿勢がね、いつしか空気も水も澱んで汚れて息苦しくなって飲めたものじゃなくなるんだね。
『陽のあたる場所』 シェリー・ウィンタース エリザベス・テイラー モンゴメリー・クリフト
「そんな矛盾をどうしたら防げる?」 溢れる愛情と感謝と思い遣り、互いの理解力だろうね、そして、其の隙を埋める相性の為せるわざだろうかね。
相思相愛の男女で互いが一生を愛しぬく人生もあるには在るね、相性に恵まれて互いの価値観が合体してんだろうね。
もう一つは、男と女は他人であるべきだね。他人が好き同士になっても他人としての礼儀を重んじて在るならば防げるかも知れないね。
神前に誓う、教会で互いが誓い合う、形式に倣って笑ってしまう。見えぬ明日からは、気が遠くなるほどの未来に繋がってる。よく誓ったもんだよ。
「おまえは?」 見よう見真似の展開だったね、神をも畏れぬ不埒(ふらち)な行為だよ。蛮勇行為だよ。
奥さんにして家に縛り付けて守らせて、主人の威厳で口封じよろしく我が身は勝手なことを平然として生きてる奴も意外と多く居るみたいだね。
奴隷制度みたいな意識の奴も居るからね。仕事やり手の奴にこういうのが多く生息しておるね。とんでもない奴だよ。「何不自由なく喰わしておるわいっ」
オレなんか、このセリフには弱い。諸に精神を突き破られるよ。「甲斐性なしのオカマは黙っとれいっ」 再起不能だよ。
また、こういう奴に限って横柄で口が達者なんだね。どんな顔して愛を語って結婚したんだろ? 「金だよ、地位だよ、貧乏人など知らぬ世界だよ」
なるほど、そんな世界に憧れて、純な男を袖にして奴隷になったんなら、それはそれで致し方ないけどねえ。「純な男?」「そんなの居たって誰か云ったか?」
よくある話だよ。「おまえが勝手に創っとんかっ無礼者っ」 そうカッカッすんな。 「なにい~っ」 居たからって、おまえが慌てることはないだろ?
「許さんっ」 自分は、そこらにバラ撒くのは良くて、奥さんのは許さんのか? 「貧乏人の癖して聞いたような台詞ぬかすなっ」「ゴミがっ、クズがあ~っ」
『熱いトタン屋根の猫」 ポール・ニューマン エリザベス・テーラー
傲慢極まりない奴だね、この手の男は気をつけないとDV男になる可能性もあるね。 「名誉棄損で訴えるぞっ」 縁とは繋ぐのも切るのも大変だよ。
こうした諸々の矛盾を防ぐには、味気ないけど契約結婚が一番理に適ってるよ。当てにならない誓いじゃなしに契約だよ。3年更新が頃合いだね。
署名、捺印が、その責任の意識を重くするよ。更新して続けて居ようって同意を確認し合える。そこには互いの愛情が生きていることを確認できるよ。
もしくは、独りで生きる。これが一番良いかも知れないね。今の若い人は結婚をしたがらないらしい、背中を見て習い知ったのかね?
カップの冷めたコーヒーを飲み干す、ほんの暫く、口に含んでゴクッって喉を通すとフウ~と溜息を漏らす。
我が意を通したければ、人も、また同じくだね。人の話を真摯に聞けて理解して、まず、意を通してあげることが大人なのかも知れないね。
杞憂に負けて人は狼狽が先に立つ。それに伴う心配事などは、ともに呑んであげればいいことで、ともに生きるってことはそういうことだろうね。
気心は一つになっても身は二つ、一つになり切れない。互いの意思を尊重して守り合う、愛情を誓うってのは、そういうものかも知れないね。
人の自由を束縛してはならない、常に自由でなくてはならない。人は人であることを忘れてはならない。独り、生きるに似てるね。
『007 ロシアより愛をこめて』
煙草が吸えないのが辛いね、身を正して背広に目を落とす、いい艶だね、品のある艶だよ。ポリエステルの艶とだいぶん違うよ。
よしい~、行くか。立ち上がってガラスに自分が映ってる、いいねえ~、オレは、シルエットのほうがいい男だね。「影やないか」
オレが見えない方が恰好いいよ。「袖は?」 ふっふふふ、落ちずに頃合いで止まってる。白いワイシャツの袖が際立ってるよ。「オッケーやな」 そう。
レジーでお店の女の子にニッコリ笑って、ありがとう。たまには、お洒落して街に出るのも悪くないね。