湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

物の詩パート11

2016-04-20 09:05:53 | オリジナル
共通テーマ「物」でAが書いた詩を投稿します。

椅子

世俗の塵が舞う中
この身を粉にする境遇で
椅子のひとつもないのでは
根のない惨めな草のよう
ゲームで鬼にされないように
空いたら即座に座るのだ
垢や傷のついた借り物で
置かれた位置に多少の不満があろうが
椅子がないよりは遥かにましだ
椅子が強いる義務に忠実に
椅子が許す権限を振るい
なるべくいい椅子に手を伸ばす

しかし今日座った椅子は
肘掛けが両袖机にぶつかって
自分の肘が机に載せられない
座れればいいと割り切れず
肘掛けがない椅子との交換を願い出た
すると管財係が言う 
〈あなたの等級を示すには肘掛けが必要なのだ 
では引っかからず前へ行けるよう
袖引き出しの分天板の長い机と換えてほしい
と頼むと管財係が言う
〈あなたの等級を示すには両側の袖引き出しが必須なのだ 

椅子の肘と机の袖に脚が挟まり潰れている
冷たく不合理な掟が支配する
錆びたまま干からびるスチールの檻から
わたしは脱出できなくなった
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物の詩パート10

2016-04-19 12:06:07 | オリジナル
共通テーマ「物」でSが書いた詩を投稿します。

  不幸な動物

たとえば馬だ
ニューヨークの
観光客を乗せて車をひく
走ったりあばれたりせぬように
空腹のまま歩き続ける
まずい晩めしは何時ごろだろう
それから ああ温和なロバよ
頭上の渡り鳥がどんなにうらやましいことか
選択肢のない
ひとつしかないニンゲンそっくりのそのあたまに何をかぶせる?

夜が更ける
かれらは古いシャツのように
針金のハンガーにかけられる
サヨナラも
コンニチワもない
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物の詩パート9

2016-04-18 01:13:20 | オリジナル
共通テーマ「物」でSが書いた詩を投稿します。
 丸七商店街 フニクラ / puuchicapuu
なつかしい物

ありありと視える
タドン
むしろ
そして 母(とても寡黙な人であった)
なつかしい なつかしい
手を振れば
物も人もすぐ
風景になってしまう
「なつかしいとは何だろう」
「物とは何だろう」
わたしらは何者かに成りそこなう
きみらは永遠に洗練されている
           *「タドン」「むしろ」「母」に傍点
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フリースタイルフェスタ逗子&物の詩パート8

2016-04-17 00:05:32 | オリジナル
FREESTYLE FESTA ZUSHI 2016の本日の陸上イベントは中止になったそうですが、みんな逗子海岸にウインドの妙技を見に来てね!

では、共通テーマ「物」でAが書いた詩を投稿します。

夜中のスリッパ

スリッパたちが言う
(私たちすごく眠たくて
履かれたくないんです
歩きたくないんですよ)

「私も眠たいんだけどさ
おしっこしたくなっちゃって
膀胱が起きている状態で
眠ることはできないから
トイレまで歩かないと」

右のスリッパが(それは大変ですね)と言う
左のスリッパは窓の方を向いて欠伸をしている
右は律義スリッパ左は自由スリッパだったのか

律義な右だけあるいは嫌がらせで左だけ
履いて行ってやろうかと寝ぼけ頭で考えた
しかし片方だけ履いても歩きにくいので
夜中に素足でトイレに行った
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Hands On Tap&物の詩パート7

2016-04-16 17:24:11 | オリジナル
臨時合評会で喉が渇いたので、黒門で今日だけやっていたHands On Tapというアメリカンクラフトビールフェスティバルに直行。

Hands On Tapというのは樽から注ぐ生ビールという意味なのですが…
並んでたら目前で売り切れに。でも缶ビールは買えました
では、共通テーマ「物」でSが書いた詩を投稿します。

見えないもの

空には道がないが
それ以上に わたくしの立つ
沼地に道はない
首までどっぷりひたっているのも
一つの死に方だと思う
おそらく口をあけてねむっているから
わたくしの口は穢れているだろう

窓のむこうには 見えないバラが咲いている あなたの嫌いな花
いくら「わたくしがバラ好き」だからといって
なぜバラばかり植えるのか あるいは黄色のバラだけ植えるのか
どっちつかずの立場にあるバラを
好きになれとはあなたにも言えない

神は死んだ
見えない神の死体はすでに臭い
被造物であるわたくしは
見える物質を支配できるか
愛は見えないから信じよう
と言いかえられるか?
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物の詩パート6

2016-04-15 14:46:00 | オリジナル
共通テーマ「物」でTが書いた詩を投稿します。

 ものの記憶

赤いバラ 赤いゼラニウム 赤いしゃくなげ
空間を引き裂いて花開いていた

共感し 親密になった彼女は
二年後  突然
私の境界を越えて侵入し占拠しようとした
即 私は彼女を切り離した
切断面から血が滴り落ち
彼女の赤い花が咲いた
くいこんだ彼女をとりだすため
CDや本など彼女の痕跡のあるもの全てこの世から消去
過ごした時間も記憶から締め出した

次の年の若葉の頃
引き出しの奥に赤いバラの模様のポーチを見つけた
彼女にもらったもの
これは使用可能にした
彼女は見知らぬ人だった
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プレバト鎌倉大仏俳句

2016-04-14 21:12:57 | 文学
今日の「プレバト2時間スペシャル」俳句の才能査定ランキングは、55年ぶりの保存修理工事が完了してきれいになった鎌倉大仏とつつじがお題でした。
大仏を包む若葉と星明かり (特待生FUJIWARA藤本作) 夜の情景を想像した俳句です。
夏井先生の添削は 大仏を包める夜の若葉かな で、現状維持でした。
 工事中に展示してあったプロセス写真
才能アリ1位の三遊亭円楽作品は み仏の指やわらかく春の風
中七を「指やわらかし」にすれば完璧という講評でした。得度もしたという円楽師匠の視点は、仏に対する深さと広さが感じられます。
ほかに注目したのは、上記以外の作品に対するポイント説明で「~も」は要注意という部分。
たった十七字の俳句では安易に何かと並列するとポイントがぼやけてしまうからだそうです。
散文や詩を書く時にもAは「も」を特に警戒しています。他の助詞でこと足りるところを安易に「も」にしちゃうことが、誰にでもよくあるんですよ。

保存修理工事中、高徳院で流されていたライブ映像から、螺髪部アップ。珍しい左巻だ~
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会のレターケース

2016-04-13 16:34:30 | 
白バイに行儀よく行列している幼稚園児がかわい~今日の午前中、逗子駅前で行われていた春の交通安全キャンペーンで。

さて、当ブログに1カ条ずつ掲載していた金子光晴「作詩にあたっての十個条」ですが、全文を逗子市民交流センターの湘南文芸レターケースに入れました。メンバーの方はその場で読むかコピーして戻す形でご利用ください。入会案内も入れてあるので必要な方は使ってください。
では「作詩にあたっての十個条」の各項目を下記にまとめて載せておきます。
第一条機が熟するまでは、腰をあげないこと。蒸れのたりないアイディアは、おもいつきに終わる危険がある。
第二条はじめに心でできあがったものを、そっくり表現にうつす場合と、書きながら新しい発見をして、行から行へと冒険をしてゆく場合との違った心組みのこと。
第三条表現はじぶんのものであって、同時に他人のものであることを忘れないこと。
第四条かならずしも詩は、実景を模写するものではなく、じぶんのなかでべつの現実をつくりあげることで、いっそう、いきいきと実景のこころまであらわすことができるものであることについて。
第五条日常の垢のついたことばを、その垢をけずり落として使わねばならないこと。
第六条日本語で詩を書くなら、日本語の変化に通暁しておかねばならないこと。
第七条字づらの効果よりも、心に受けわたす中身のほうに重点を置かねばならないこと。
第八条現在の詩の水準を知ること。たとえ、時代を超越したようにみえる作品でも、その時代とのつながりがなくては、価値の標準のおきようのないことを心得るべきこと。
第九条作家は、書くことによって、旧套から脱し、新境地をひらくことができるので、けっして、手をこまねいて考えていたのでは成長できないこと。
第十条スランプのとき、自棄的になることなく、じょうずにそれを手なずけて、つぎのジャンプに備えて、足場とすること。
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物の詩パート5

2016-04-12 11:37:54 | オリジナル
先週ダイヤモンド富士が見えた時の、太陽の季節文学記念碑付近。撮影にちょうどいい場所だからダイヤモンドデーは混むんです。

では、共通テーマ「物」でAが書いた詩を投稿します。

恋する物質

君はわたしをぞんざいに扱う
欲望を処理し使い捨てにする
頬も手もまなざしも
わたしに触れなくなって
君にとって存在しない物になる
霧になって消えてしまいたい

しかしあくまでも物体だから
おとぎばなしの結末のような気化は
わたしには起こらない
別の持ち主を探すどころか
ほんの少し震えることすらできない

楽器になった夢を見る
君はわたしの躰にすべての指を
やさしく正確にすべらせていく
わたしはうっとりと痙攣し声を響かせる
美しい刃紋を持つ鋭利なナイフになるのもいい
きっと君はわたしの柄から手を放せなくなる

そう、よく切れる楽器になればいい
高らかにさえずり君が憎むものを刺す
わたしの精密な機構は血糊でしあわせに錆びて
やがてばらばらになる
ようやく消えることができる

「物」の詩の合評会は5月7日(土)14:00から行います。
4月16日(土)14:00からの臨時合評会の対象は4月の定例合評の残り「霧がいちばん深い場所」「無言でいる」「無口な君」です。
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物の詩パート4

2016-04-11 13:14:01 | オリジナル
季節は巡っていきます。今年の逗子の桜写真シリーズは、今日で最終回にします。
 海宝院(沼間) 
では、共通テーマ「物」で、Aがショートストーリーを挿入して書いた詩を投稿します。

 物の独白  
           
汚れた
壊れた
飽きた
使いづらい
旧くなった
用済みになった
趣味に合わない
流行遅れになった
サイズが合わない
中身を使い切った
持ち主が居なくなった
成長して不要になった
家族が減って数が余った
貰ったが結局使っていない

さまざまな理由で
リサイクル市に連れてこられたわたしたち
砕かれ燃やされる前に使ってくれる人間と出会いたい
しかしごみ屋敷に引き取られ
歪んだサイクルに閉じ込められる仲間もいる
しっかり使ってくれる人の手に取られるのを棚で待つ間
人と空き瓶の物語を想像する

 資源ハウスの棚には三十以上の資源物入れがある。引っ越して来たばかりでこの町の分別に慣れていないマサトとヒロコの夫婦は、苛々していた。家でよく分けずに一度に大量に運んできたので、資源ハウスに着いてからの作業に信じられないほど時間を食っている。さっきまでいた他の住民たちは、持って来た資源物を各品目の籠に手際よく入れて皆帰ってしまった。
「資源の分け方説明したパンフがあっただろ。ちゃんと見て分けろよ」
「パンフがあるって分かっているのならちゃんと読んでから捨ててよ! 最初にマサトがなんでも一緒に捨てるからいけないのよ」
マサトは口をとがらせ、手元にあった透明瓶回収籠をいきなり地面に叩きつけた。頑丈な籠は破損しなかったが、ぶちまけられた瓶は、派手な音を立てて全て割れた。
資源ハウスがモザイクガラスの丘に建つ小さな神殿のように見える。マサトは大きく息をつき、勝ち誇ったような顔でヒロコを見た。頬は熱をもち、心臓や動脈が大きく打っている。
呆れて夫を見つめるヒロコに潔い想念がよぎった。心はごみを溜めるか空洞になるか、両極端などっちかだ。これ以上ごみ溜めみたいになるより、とりあえず空にしよう。
彼女は黄色い籠を突き出した。
「こっちの籠に入れないと」
籠には「割れたガラス・陶器」の表示。
必要があって購われ家に持ち込まれ空になって持ち出された瓶たちが、太陽に反射する美しい破片になって、黙々と集める二人に拾われていく。
「自分を捨てるとしたら、どの籠に入りたい?」
「どこにも入るわけないだろ。自分は自分だから」
 夫が将来、古くなり役割がなくなり居るだけで場所ふさぎになって見飽きてしまったとき、資源ハウスに置きに来る場面を空想して、ヒロコはひとりで微笑した。町のトラックでリサイクル工場に運ばれる前に、近所の女性が喜んで連れ帰るかもしれない。そのくらいのつもりでいれば、楽な気持ちでこの男と暮らしていける。
籠を戻した「割れたガラス・陶器」の棚には「破砕工場に運ばれ造粒砂になります」と書いてある。
 人は、砂粒になり土木材料になり舗道になるほどの自在さは持ち合わせていない。死んで骨になるまで弾性も塑性も加工性もなく、使ったり使われたりする相手を神経質に選び、意のままにならなければ愚痴を言い、排他的な自我を守って生きていく。そうしないと狂ってしまうと信じている。
 しかし二人は今少しだけ、柔かい輪郭を手に入れた気がしていた。


目論見を吹き込まれた資本から生まれ
運ばれていく不自由なわたしたち
人間たちと共にいて
使ってもらう以外には欲もない


さすがに大変なので、この1篇は合評会に書き写して持ってこなくてもよいことにします。
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