湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

物の詩パート11

2016-04-20 09:05:53 | オリジナル
共通テーマ「物」でAが書いた詩を投稿します。

椅子

世俗の塵が舞う中
この身を粉にする境遇で
椅子のひとつもないのでは
根のない惨めな草のよう
ゲームで鬼にされないように
空いたら即座に座るのだ
垢や傷のついた借り物で
置かれた位置に多少の不満があろうが
椅子がないよりは遥かにましだ
椅子が強いる義務に忠実に
椅子が許す権限を振るい
なるべくいい椅子に手を伸ばす

しかし今日座った椅子は
肘掛けが両袖机にぶつかって
自分の肘が机に載せられない
座れればいいと割り切れず
肘掛けがない椅子との交換を願い出た
すると管財係が言う 
〈あなたの等級を示すには肘掛けが必要なのだ 
では引っかからず前へ行けるよう
袖引き出しの分天板の長い机と換えてほしい
と頼むと管財係が言う
〈あなたの等級を示すには両側の袖引き出しが必須なのだ 

椅子の肘と机の袖に脚が挟まり潰れている
冷たく不合理な掟が支配する
錆びたまま干からびるスチールの檻から
わたしは脱出できなくなった
コメント
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