湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

物の詩パート4

2016-04-11 13:14:01 | オリジナル
季節は巡っていきます。今年の逗子の桜写真シリーズは、今日で最終回にします。
 海宝院(沼間) 
では、共通テーマ「物」で、Aがショートストーリーを挿入して書いた詩を投稿します。

 物の独白  
           
汚れた
壊れた
飽きた
使いづらい
旧くなった
用済みになった
趣味に合わない
流行遅れになった
サイズが合わない
中身を使い切った
持ち主が居なくなった
成長して不要になった
家族が減って数が余った
貰ったが結局使っていない

さまざまな理由で
リサイクル市に連れてこられたわたしたち
砕かれ燃やされる前に使ってくれる人間と出会いたい
しかしごみ屋敷に引き取られ
歪んだサイクルに閉じ込められる仲間もいる
しっかり使ってくれる人の手に取られるのを棚で待つ間
人と空き瓶の物語を想像する

 資源ハウスの棚には三十以上の資源物入れがある。引っ越して来たばかりでこの町の分別に慣れていないマサトとヒロコの夫婦は、苛々していた。家でよく分けずに一度に大量に運んできたので、資源ハウスに着いてからの作業に信じられないほど時間を食っている。さっきまでいた他の住民たちは、持って来た資源物を各品目の籠に手際よく入れて皆帰ってしまった。
「資源の分け方説明したパンフがあっただろ。ちゃんと見て分けろよ」
「パンフがあるって分かっているのならちゃんと読んでから捨ててよ! 最初にマサトがなんでも一緒に捨てるからいけないのよ」
マサトは口をとがらせ、手元にあった透明瓶回収籠をいきなり地面に叩きつけた。頑丈な籠は破損しなかったが、ぶちまけられた瓶は、派手な音を立てて全て割れた。
資源ハウスがモザイクガラスの丘に建つ小さな神殿のように見える。マサトは大きく息をつき、勝ち誇ったような顔でヒロコを見た。頬は熱をもち、心臓や動脈が大きく打っている。
呆れて夫を見つめるヒロコに潔い想念がよぎった。心はごみを溜めるか空洞になるか、両極端などっちかだ。これ以上ごみ溜めみたいになるより、とりあえず空にしよう。
彼女は黄色い籠を突き出した。
「こっちの籠に入れないと」
籠には「割れたガラス・陶器」の表示。
必要があって購われ家に持ち込まれ空になって持ち出された瓶たちが、太陽に反射する美しい破片になって、黙々と集める二人に拾われていく。
「自分を捨てるとしたら、どの籠に入りたい?」
「どこにも入るわけないだろ。自分は自分だから」
 夫が将来、古くなり役割がなくなり居るだけで場所ふさぎになって見飽きてしまったとき、資源ハウスに置きに来る場面を空想して、ヒロコはひとりで微笑した。町のトラックでリサイクル工場に運ばれる前に、近所の女性が喜んで連れ帰るかもしれない。そのくらいのつもりでいれば、楽な気持ちでこの男と暮らしていける。
籠を戻した「割れたガラス・陶器」の棚には「破砕工場に運ばれ造粒砂になります」と書いてある。
 人は、砂粒になり土木材料になり舗道になるほどの自在さは持ち合わせていない。死んで骨になるまで弾性も塑性も加工性もなく、使ったり使われたりする相手を神経質に選び、意のままにならなければ愚痴を言い、排他的な自我を守って生きていく。そうしないと狂ってしまうと信じている。
 しかし二人は今少しだけ、柔かい輪郭を手に入れた気がしていた。


目論見を吹き込まれた資本から生まれ
運ばれていく不自由なわたしたち
人間たちと共にいて
使ってもらう以外には欲もない


さすがに大変なので、この1篇は合評会に書き写して持ってこなくてもよいことにします。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする