今月はじめに投稿したAの詩が手違いで消えてしまったので、再度アップします。
まるわ食堂のアジフライ定食
煙の向こう側
家族から逃げ居間から逃げて
活字かピアノか酒に向かっている父だが
食卓には一緒に就かざるを得ない
私がサラダを口に運ぶのを
向かい側でぼんやり見ているな
――と思ったら
鏡のように口を開けた
ハンバーグを口に運ぶと
また鏡のように口を開けた
味噌汁を飲むと
鏡のように同時に飲んだ
そして濃い水割りを作りに立ち
母にいい加減にしろと怒られた
身籠ると分厚い本を贈ってくれた
「ひとりひとりのお産と育児の本」
最高の選書と
口を開ける姿
あとはなにも残っていない
久しぶりに会ったいとこが
焼肉屋の七輪の向かい側で
私が亡き父の鏡であるかのように
口を開けてこっちを見ている