おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

歌舞伎鑑賞教室。その4。舞踊『京鹿子娘道成寺』。西川寛。変幻豊かで、迫力のある踊り。

2023-07-03 21:30:58 | お芝居

歌舞伎には、「道成寺物(どうじょうじもの)」とよばれる作品群があります。これらの作品は、能の『道成寺』から、鐘供養に訪れた女性が舞を披露し、恨みの表情で鐘に飛び込む、という枠組みを取り入れています。「道成寺物」は、元禄年間(1688年~1704年)から上演されるようになりますが、それらの作品を集大成したのが、1753(宝暦3)年に初代中村富十郎(なかむらとみじゅうろう)が初演した『京鹿子娘道成寺』です。

今回は、日本舞踊西川流家元 西川寛による「京鹿子娘道成寺」。

1時間近くを1人の女方が踊りぬく女方舞踊の大曲。

白拍子(しらびょうし=歌舞を生業とする遊女)の花子が道成寺の鐘供養に訪れ、舞を次々に披露するうちに鐘に飛び込み、蛇体となって現れるという設定ですが、内容はいくつかの部分に分けられ、恋にまつわるさまざまな女性の姿を踊り分けることが主眼となっています。

聞いたか坊主

舞台は桜花爛漫の紀州(今の和歌山県)道成寺。所化(しょけ=修行中の僧)たちが「聞いたか聞いたか」「聞いたぞ聞いたぞ」と繰り返して登場。今日は焼け落ちた鐘楼の鐘が再興され、鐘の供養が営まれるのだが、師匠の長い御経を聞くのが憂鬱なので何か気晴らしの打開策を巡らしている。

いざ道成寺へ

道成寺からほど近い小松原。振袖姿の娘・花子が道を急いでいる。ふと袂や裾の乱れた自分の姿に気づいて恥ずかしがり、やがて恋人との逢瀬を回想。朝の別れの時を告げる鐘の音が憎らしいと、鐘への恨みを覗かせ、道成寺へ向かう。

花子の頼み

美しい花子の訪問に所化たちは大騒ぎ。花子は白拍子で、鐘を拝ませて欲しいと頼む。鐘供養は女人禁制だが、所化たちの禅問答のような問いかけに花子が見事に答えたので、所化たちは舞を舞うことを条件に寺の中に入ることを許す。

白拍子の舞

                                           

花子は赤の振袖姿になり、烏帽子をつけ中啓(扇の一種)を手に舞い始める。能の趣を取り入れた厳かな場面。夕暮れに響く鐘の音から、初夜(午後八時)の鐘は諸行無常と響く…など時を告げる鐘の音を世の無常になぞらえた歌詞で舞う。

                  

町娘の踊り

花子は烏帽子を脱ぎ、能仕立の舞から離れて、ぱっと華やいだにぎやかな歌舞伎の踊りになる。恋に乱れる女心とつれない男の心を歌った歌詞を手踊り(小道具を使わない踊り)で軽やかに綴り、「引き抜き」という手法で一瞬にして赤の衣裳から水浅葱(薄水色)の衣裳に変わる。ここから、つぎつぎと衣裳も小道具も歌も趣向を変えながら、さまざまな恋の踊りが続いていく。

一旦引っ込み、上半身だけ鴇色(ときいろ=薄いピンク)の衣裳になる。赤の笠をかぶった愛らしい娘の姿で、「振り出し笠」(一つの笠を降り出すと三つの笠が連なる仕掛けの笠)を使い可憐に踊る。「梅と桜はどちらが兄か弟かわからない」というかつての流行歌「わきて節」がのどかな趣。

所化も浮かれて

所化たちも肌脱ぎをし花傘を持って踊り出す。

赤の襦袢に卵色の股引を見せた坊主たちの楽しい群舞で、「菖蒲と杜若はどっちが姉か妹かわからない」という歌詞で踊る。

花子は藤色の衣裳で、手拭いを使いしとやかに踊る。

花子は藤色の衣裳で、手拭いを使いしとやかに踊る。恋する思いをかき口説く「クドキ」と呼ばれる眼目の場面。「貴方のために綺麗にお化粧したのに…」とじれたり、ちょっとした言葉に喜んだり、「一緒になろうと約束したのは嘘なのだろうか」と悩み、嫉妬して泣いたり…と恋する娘に共通する思い、女心の切なさが情緒たっぷりに描かれる。

羯鼓を打つ娘

上半身を卵色の衣裳に替え、富士山に吉野山、嵐山、中山、石山、…と、山の名前が読み込まれた「山尽くし」で展開。「末の松山いつか大江山」「恋路に通う浅間山」と恋歌の趣ある詞章で、羯鼓(かっこ=腰に付けて撥で打つ鼓)を打ちながら軽快に踊る。羯鼓を打つ音と足拍子のリズムが耳にも楽しい。

歩きながらスーッと「引抜き」白の衣裳になり、鈴太鼓(振り鼓ともいう)を使って踊る。二つの鈴太鼓を打ち付ける音、中の鈴のジャラジャラした音、足拍子などの音の複合が楽しい場面。田植え歌で、夢中になって鈴太鼓を床にうちつけてドコドコ音をさせるうちに、いつしか花子の顔色が変わり…。

鐘入

                           

鐘をきっと見上げる花子。制する所化たちを振り払い、鐘に上る。上に被せた赤の衣裳を取り去り蛇体の本性を表す「鱗模様」の衣裳になり、鐘の上から所化たちをキッと見下ろして幕となる。かつて恋する男を隠した憎い鐘に、再び巻き付いて執念をあらわにするのだ。

西川寛

日本舞踊5大流派の1つ「西川流」宗家直門師範 扇若会会主

1982年横浜市生まれ 幼少時より父、西川扇三郎 祖母、西川扇豊より指導をうけ、18歳の時西川流の名取を戴く。以降人間国宝である西川扇藏師に指導をうけ、本格的に日本舞踊家の道に進む。 歌舞伎座 国立劇場等多数の舞台に出演する一方、芸者衆をはじめとする弟子の育成に力を入れている。 テレビ等での所作指導も担当。現在、新宿(東京)柏(千葉)守谷(茨城)会津若松(福島)にて指導中。

(「西川寛オフィシャルサイトより)

※5大流派=花柳、若柳、西川、坂東、藤間流


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