おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

歌舞伎鑑賞教室。その7。弁天娘女男白浪/稲瀬川勢揃いの場。歌舞伎名台詞。お嬢吉三(三人吉三廓初買、大川端の場)。与三郎(与話情浮名横櫛、源氏店の場)。・・・

2023-07-06 20:24:21 | お芝居

<稲瀬川勢揃いの場の口上>

舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」第三部。

『弁天娘女男白浪』特別ポスター。(2022・5)。

尾上右近の弁天小僧菊之助、坂東巳之助の南郷力丸、中村隼人の忠信利平、中村米吉の赤星十三郎、そして坂東彦三郎の日本駄右衛門。

                   

日本 駄右衛門

問われて名乗るもおこがましいが、産まれは遠州浜松在、十四の年から親に放れ、身の生業も白浪の沖を越えたる夜働き、盗みはすれど非道はせず、人に情を掛川から金谷をかけて宿々で、義賊と噂高札に廻る配附の盥越し、危ねえその身の境界も最早四十に、人間の定めはわずか五十年、六十余州に隠れのねえ賊徒の首領日本駄右衛門。

弁天小僧菊之助

 さてその次は江の島の岩本院の児あがり、ふだん着慣れし振袖から髷も島田に由井ヶ浜、打ち込む浪にしっぽりと女に化けた美人局、油断のならぬ小娘も小袋坂に身の破れ、悪い浮名も竜の口土の牢へも二度三度、だんだん越える鳥居数、八幡様の氏子にて鎌倉無宿と肩書も、島に育ってその名さえ、弁天小僧菊之助。

忠 信 利 平

 続いて次に控えしは月の武蔵の江戸そだち、幼児の折から手癖が悪く、抜参りからぐれ出して、旅をかせぎに西国を廻って首尾も吉野山、まぶな仕事も大峰に足をとめたる奈良の京、碁打と言って寺々や豪家へ入り込み、盗んだる金が御嶽の罪科は、蹴抜の塔の二重三重、重なる悪事に高飛びなし、後を隠せし判官の御名前騙りの忠信利平。

赤 星 十三郎

 またその次に列なるは、以前は武家の中小姓、故主のために切り取りも、鈍き刃の腰越や砥上ヶ原に身の錆を磨ぎなおしても抜き兼ねる、盗み心の深翠り、柳の都谷七郷、花水橋の切取りから、今牛若と名も高く、忍ぶ姿も人の目に月影ヶ谷神輿ヶ嶽、今日ぞ命の明け方に消ゆる間近き星月夜、その名も赤星十三郎。

南 郷 力 丸

 どんじりに控えしは、潮風荒き小ゆるぎの磯馴の松の曲りなり、人となったる浜そだち、仁義の道も白川の夜船へ乗り込む船盗人、波にきらめく稲妻の白刃に脅す人殺し、背負って立たれぬ罪科は、その身に重き虎ヶ石、悪事千里というからはどうで終いは木の空と覚悟は予て鴫立沢、しかし哀れは身に知らぬ念仏嫌えな南郷力丸。

歌舞伎名台詞をいくつか。

お嬢吉三三人吉三廓初買、大川端の場)

月も朧に白魚の 篝も霞む春の空
つめてぇ風もほろ酔いに 心持ちよくうかうかと
浮かれ烏のただ一羽 ねぐらへ帰る川端で
棹の雫か濡れ手で粟 思いがけなく手に入る百両
ほんに今夜は節分か
西の海より川のなか 落ちた夜鷹は厄落とし
豆沢山で一文の 銭と違って金包み
こいつぁ春から縁起がいいわぇ

与三郎(与話情浮名横櫛、源氏店の場)

与三郎:え、御新造さんぇ、おかみさんぇ、お富さんぇ、
    いやさ、これ、お富、久しぶりだなぁ。
お 富:そういうお前は。
与三郎:与三郎だ。
お 富:えぇっ。
与三郎:おぬしぁ、おれを見忘れたか。
お 富:えええ。
与三郎:しがねぇ恋の情けが仇 命の綱の切れたのを
    どう取り留めてか 木更津から めぐる月日も三年越し
    江戸の親にやぁ勘当うけ よんどころなく鎌倉の 谷七郷は喰い詰めても
    面に受けたる看板の 疵がもっけの幸いに 切られ与三と異名をとり
    押借り強請やぁ習おうより 慣れた時代の源氏店
    そのしらばけか黒塀の 格子造りの囲いもの
    死んだと思ったお富たぁ お釈迦さまでも気がつくめぇ
    よくまぁ おぬしぁ 達者でいたなぁ
    安やい これじゃぁ一分じゃぁ 帰られめぇじゃねぇか

※「安」=蝙蝠安。

清心(花街模様薊色縫、百本杭川下の場)

しかし、待てよ。今日十六夜が身を投げたのも、
またこの若衆の金を取り殺したことを知ったのは、
お月さまとおればかり。
人間わずか五十年、首尾よくいって十年か二十年がせきの山。
つづれをまとう身の上でも金さえあればできる楽しみ、
同じことならあのように騒いで暮らすが人の徳。
ひとり殺すも千人殺すも、取られる首はたったひとつ。
とても悪事をし出したからは、これからは夜盗家尻切り、
人の物はわが物と栄耀栄華をするのが徳。
こいつぁめったに死なれぬわぇ。

揚巻(助六由縁江戸桜)

こりゃ意休さんでもない、くどいこと言わんす。
お前の目を忍んでな、助六さんに逢うからは、
客さん方のまんなかで、悪態口はまだなこと、
叩かりょうが踏まりょうが、手にかけて殺さりょうが、
それが怖うて間夫狂いがなるものかいなぁ。
慮外ながら揚巻でござんす。
男を立てる助六が深間、鬼の女房にゃ鬼神がなると、
今からがこの揚巻が悪態の初音。
意休さんと助六さんをこう並べて見た所が、
こちらは立派な男ぶり、こちらは意地の悪そうな顔つき。
例えて言おうなら雪と墨。
硯の海も鳴戸の海も、海という字にふたつはなけれど、
深いと浅いは間夫と客。間夫がなければ女郎は闇。
暗がりで見ても助六さんと意休さんを取り違えてよいものかいなぁ。
たとえ茶屋舟宿の異見でも、親方さんの詫び言でも、
小刀針でもやめぬ揚巻が間夫狂い。
さぁ、切らしゃんせ。
たとえ殺されても、助六さんのことは思い切れぬ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 歌舞伎鑑賞教室。その6。歌... | トップ | 7月7日。小暑。鰻・万葉集。... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

お芝居」カテゴリの最新記事