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「壺石文」 下 9 (旧)一月八日、九日

(散歩道のカサブランカ)

朝から、強い雨が降ったり止んだりの天気が、夜まで続いている。

午後、掛川古文書講座に出席した。今日、本来の課題は、8年前に教材として使われた、入会地の出入の文書であった。自分は先月資料をもらって読み始めて、すぐに気付いた。自宅に戻り確認したところ、全く同じ古文書であった。今日、講座の始めに、講師より弁解があった。長くやっているとこういうこともある。気を付けねばならないと自戒した。

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「壺石文 下」の解読を続ける。

八日、空薄曇りて、風混ぜに降りくる雪を打ち払いつゝ、浦伝い、山路越えて、渡波(わたのは)という処に至りて、常楽院と云う優婆塞がり(とぶら)いて宿る。世に危うき事を譬えては、深き渕に臨むが如く、薄き氷を踏むが如し、とかや云いめれど、今日一日来し道はしも、青波騒ぐ千尋の海を足元に臨み、雪高く降り積り、岩角鋭(するど)に凍り、滑らかなる峰を攀(よ)じ、谷を渡りて危うき事こよなかりき。
※ 渡波(わたのは)- 現、石巻市渡波。
※ がり(許)- ~の所へ。~の元へ。


九日、と云う所の明王院という優婆塞をぞ訪(とぶら)いける。箱崎と云う町家の片方(かたえ)に、木高き岡辺を広らに占めて、何ならん斎(いつき)祀るらん御社、御堂、こゝかしこ(此処彼処)にあり。雪いと高く降り積りたりければ、寒さこよなき夕暮れに、簀の子突い居て(こわ)作れば、家刀自(とうじ)だつ女の、三十ばかりなる、出で来て答(いら)えす。
※ 湊(みなと)- 現、石巻市湊。
※ 簀の子(すのこ)- 簀の子張りの床または縁。
※ 突い居る(ついいる)- かしこまって座る。ちょこんと座る。
※ 声作る(こわづくる)- せきばらいをする。
※ だつ - そのようなようすを帯びる、そのような状態が現れるという意を表す。


しかし、かの由言い入れければ、即ち誘うまゝに、足結(あゆ)を解きて、北面に入り居て待てば、墨染の衣を麗しう着なして、しわぶきを先に立ち出でて、対面(たいめ)するは、七十ばかりなる老法師なりけり。いといややかに迎い居て、煙吹きつゝ、緩るかに語らう言の葉、舌訛みずあわれにぐうづきて、尊とげなり。
※ 足結(あゆ)い - 古代の男子の服飾の一つ。活動しやすいように、袴をひざの下で結んだ紐。
※ いややか(礼やか)- 礼儀正しいさま。うやうやしいさま。
※ 舌訛む(しただむ)- 言葉がなまる。
※ ぐうづく(功付く)- 年功が積もる。熟達する。


そも/\かく振り延へて訪(とぶら)い来たるは、この老法師は、世に二無き験者(げんざ)なるよし。去年(こぞ)の秋、白川わたりにて、ほの聞き置きてければなりけり。今こゝに相見て言挙げするに、聞しに勝りて尊かりける聖(ひじり)なりけり。
※ 振り延う(ふりはう)- ことさらに物事をする。わざわざする。
※ 二無き(になき)- 二つとない。この上ない。最上である。
※ 験者(げんざ)- 修験者。修験道の行者。
※ 言挙げ(ことあげ)- 言葉に出して特に言い立てること。


   旅衣 袖振り延えて 遥々と
        訪ね来にける 甲斐は有りけり

※ 振り延う(ふりはう)- のばして振る。わざわざする。

   梅の花 色をも香をも 知る人を
        相見て笑う 春ぞ嬉しき
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