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「壺石文」 下 10 (旧)一月九日(つづき)~、十五日、十六日

(散歩道のオニユリ)

一転して晴れた。夏到来を思わせる天気であったが、まだ梅雨は開けない。

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「壺石文 下」の解読を続ける。

夜になりて、この大徳(だいとこ)裳裾をかゝげ、灯火(ともしび)を照らし、高き腰立つ物を履きて、杖も付かず、雪を分けつゝ先に立ちて、案内(あない)し誘う。誘うまゝに後(しり)に立ちて行けば、来神(北上)川の河沿いの堤を登りて、小舟に乗りて、向いの岸に渡り、(聞老志に云う、来神川源、南部大岳に出ず、云々)石ノ巻の中町という処に至りて、とある家に入りて宿す。
※ 大徳(だいとこ)- 一般に、僧侶。法師。
※ 裳裾(もすそ)- 裳のすそ。衣服のすそ。


こゝにても、また埋火(うずみび)に寄り、臥し向い居て、物語りし、甚(いと)う更(ふ)かし大徳は帰りぬ。かくて後は、二無き得意となりて、夜となく昼となく、訪いみ訪われみ、かたみに(互いに)行き交いて、五、六日はこゝに過ごし居にき。
※ 得意(とくい)- 親しい友。

十五日、朝疾くこゝを立ちて富山に詣でて、宿りぬる頃は夕暮れのかわたれ時なるに、ひねもすに、空掻き暗し降りけるみぞれ、雨となりて、寒さこよなし。
※ 富山(とみやま)- 松島を見晴らす標高116.8mの山。別名を「麗観」という。山頂に富山観音がある。
※ かわたれ時(彼は誰時)- はっきりものの見分けのつかない、薄暗い時刻。夕方を「たそがれどき」というのに対して、多くは明け方をいう。


十六日、つとめて(早朝)庭に降り立ちて眺むるに、夜もすがら降り暮らしたる朝(あした)の雨、よう/\に晴れ行き、海づらの景色言わん方なく面白し。飽かず惜しと思えど、如何がはせん。時やゝ移ろいぬれば、山を下り、大路に出でて、松島に至り、月見ヶ崎殿守、伊藤ノ寛平と云う人の家を訪いて宿りぬ。
※ 月見ヶ崎(つきみがさき)- 観瀾亭の建っている西南の崎。
※ 殿守(とのもり)- 主殿寮(とのもりょう)の下級役人。ここでは、施設の管理人のようなもの。


   青海原 雪げにくもる 春夜の
        月見ヶ崎の 面白きかな


夜更けて寝覚めするごとに、起き出でて見れば、月影清う冴え渡りたる波の上に、雪を帯びたる島々崎々、遠近(おちこち)に漂えり。

   月雪の 眺めは足りぬ 同じくは
        しぐれの朝
(あした) 夕立の宵

猫の鳴きければ、

   月冴ゆる 雪げの軒も 通い来て
        妻恋う猫や 春心なる


雄島ヶ崎も這ひ渡るばかりなるに、梟(ふくろう)の鳴くを聞きて、
※ 這ひ渡る(はいわたる)- 近い距離で、車など用いずに歩いて行く。

   明方の 月や雄島の 木隠れて
        忍び/\に ふくろう鳴くも


読書:「猫男爵 バロン・キャット」神坂次郎 著
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