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「旅硯振袖日記 上之巻」 5

(散歩道のアジサイの花の紅葉?)

散歩道で、とっくに枯れてしまう筈のアジサイの花が、しっかり残って、紅葉しているのを見つけた。そんな種類のアジサイがあるのだろうか。

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「旅硯振袖日記 上之巻」の解読を続ける。

写絵、思わず身を縮め、涙さしぐむ悲しさに、忍ぶ由とてもなかりしが、よう/\に気を取り直し、恐る/\言いける様、
※ さしぐむ(差し含む)- 目に涙がわいてくる。涙ぐむ。

「妾(わらは)事は、都の者にて、源氏平家の戦いより、修羅の巷(ちまた)に家を失い、父母も行方知れざるまゝ、吾妻の武蔵に少しの知る辺、それを訪ねて遥々と、下る旅路にはべるかし。」
※ 修羅の巷(しゅらのちまた)- 激しい戦闘や闘争の行われる場所。
※ 知る辺(しるべ)- 知っている人。知り合い。
※ はべる(れい)- あります。ございます。おります。(「あり」「居り」の丁寧語)
※ かし - 文末にあって、念を押し、意味を強める意を表す。


と偽り陳ずる言の葉も、うわの空なる皷の判官、先の程より写絵が器量を、つくづく見てあるに、沈魚落雁閉月羞花、またあるまじき装いに、心を奪われうつとりと、一人見とれて、糸の如くにしてありし眼(まなこ)を再び丸くして、百姓どもに打ち向い、
※ 沈魚落雁閉月羞花(ちんぎょらくがんへいげつしゅうか)-(美人を形容する言葉)あまりの美しさに、魚は沈み隠れ、雁は列を乱して落ち、月は雲間に隠れてしまい、花も恥らってしぼんでしまう、という意。

「汝(なんじ)らが働き、でかしたり。この女には詮議あれば、このまま陣屋に泊めおくなり。大儀/\早や立て。」と、一に喜び、百姓どもは皆うち連れて、帰り行く。
※ 一に(いつに)- ほかではなく、もっぱらそれによるさま。ひとえに。全く。

判官は自ら立ちて、写絵が手をとらえ、まずこちへ来よと言わるゝに、
写絵は再び驚き、
「殿様には私を今さら如何になし給うぞ。落人との御疑い晴れましたらば、このまゝに許して帰し給(たま)われかし。心にかゝる父母の行方、武蔵へ早く下りとう‥‥」
と半分言わさず打ち消して、判官打ち笑い、 

「ても、優しきお事が心、今まだ戦いのほとぼり冷めず、こゝまで来る道々も、さぞ恐ろしき目に遭いつらん。その艱難も厭わざる孝心を、今、纏頭(てんとう)の、我をして助け給う。こゝをよく弁えし。かゝる時節に、武蔵の果てまで訪ね行く道にては、また如何なる難義があらん。それよりは、まず判官が心に従い、閨(ねや)の伽(とぎ)して、この所にて暮らしなば、その身は安楽、父母の行方も、判官が威勢をもて訪ぬる時は、異国は知らず、およそ日本(にほん)のうちならば瞬(またた)く隙(ひま)に訪ね出して、逢わして安堵さすべきに、否応(いやおう)言わず、こちへ来よ。」
※ お事(おこと)- 二人称の人代名詞。あなた。親しみを込めていう語。主に中世・近世に用いた。
※ 纏頭(てんとう)- 当座の祝儀として与える金品。はな。
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