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「江戸繁昌記 ニ篇」 84 街輿(付猪牙舟)6

(散歩道のスイセン)

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

かつ寒郷僻地に至りては、浴場百洗、垢浮かび膩(あぶら)流るゝを須(もと)めて、取りて以って糞に代う。苦なるかな、稼穡の労、一滴一粒、民の血汗、それ下農の生(しょう)なるなり。受くる所の田、率(おおむ)ね五、六反に過ぎず。(邦俗、三百歩を謂う、一反と曰う)
※ 寒郷(かんきょう)- 貧しく、さびれた村里。
※ 稼穡(かしょく)- 穀物の植えつけと、取り入れ。種まきと収穫。 農業。
※ 邦俗(ほうぞく)- 国の風俗・習慣。


稲麦の外、かつ菽(まめ)、かつ菜、代々稼ぎに更々穡して、寸(わずか)で地力を尽かす。自ら苦を給(たまわ)らず、人を賃し、馬を傭(よう)す。ただこれのみならず、国に土しに城(きず)き、加うるに、徭役を以ってす。
※ 更々(さらさら)- ますます。いちだんと。
※ 穡す(しょくす)- 取り入れる。収穫する。
※ 傭す(ようす)- やとう。
※ 土す(どす)- 居住する。
※ 漕(そう)- ふね。
※ 徭役(ようえき)- 君主や地主が土地経営その他の必要から住民を無報酬で働かせること。


(ああ)、この苦を以って、この労を以って、卒歳の収十金に過ぎず。これを以って父母を養い、これを以って妻孥に衣す。口腹、何を以って飽くことを得ん。四體、何を以って暖を得ん。
※ 卒歳の収(そつさいのしゅう)-(「卒歳」は、一年を過ごすこと。)一年の収穫。一年の収入。
※ 十金(じゅうきん)- 十両。
※ 妻孥(さいど)-妻と子。また、家族。(「孥」は子の意)
※ 飽く(あく)- 十分に満足する 。満ち足りる。
※ 四體(したい)- 頭、胴、手、足、すなわち身体全体。全身。


人苟(いやし)くも、この苦を嚼(か)まば、孰(たれ)か、肯(あえ)て、宴楽急を取りて、肩輿、猪船、安然としてこれに上りて、足無くして飛び、翼無くして翔(かけ)るに忍びんや。
※ 宴楽(えんらく)- 酒宴を開いて遊興すること。また、その酒宴 ・宴会。
※ 安然(あんぜん)-(心が)平然としている。泰然としている。物事に動じない。


然りといえども、繁昌、土人また知らなきを以って貴しとなるの理、無らず。若し人々をして、これを知ら使(し)めば、轎夫尻痩せ、舟子腰細からん。かつ何以って繁昌を見ん。
※ 土人(どにん)- その土地で生まれ育った人。土着の人。(沖縄で問題になったが、それと区別のため、自分は「どにん」と読むようにしている)


読書:「弘法大師空海と出会う」 川﨑一洋著
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