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日本左衛門騒動記 10 百姓三右衛門、江戸表へ訴え出る事(後)

(庭のニオイバンマツリ、紫から白へ次々色を変える)


日本左衛門騒動記の解読を続ける。

この事、御地頭様へ御訴え申し上げたく存じ候えども、同類手下、親類もこれ有り候間、若し願人相知れ候時は、如何様のあだ、やみ打ち、付け火ばど、甚だ心元なく存じられ、国元にて御訴え申出る者これ無く候えども、所々御役人中、御存知の儀に御座候。何と思し召し候や、一向御詮儀も御座なく、見のがしに成られ候事、貴意を得ず候。
※ 意を得ず - 理解できない。

依って益々押領に罷り成り、日本左衛門を始め、皆々不相応成る衣装にて、金銭を砂の様に遣い捨て、自合宜しき人には、相応に用達て候故、宿々にて誰知らぬ人もなく、所の勝手にも成る故、家々にて馳走致し、いよ/\押領に成り、この日本左衛門義は、知恵深く、力強く、釼術の早業(はやわざ)珍しき盗人なり。別して、他国盗人餘多入り込み、夜も寝られず、在々百姓は不寝番いたし、少しの間も油断ならず、是非なく御訴え申し上げ候。
※ 押領(おうりょう)- 他人の物、所領などを力ずくで奪い取ること。
※ 自合宜しき人 - 自分に都合がよい人。


なおまた、当秋作など御年貢米、払い米にて少々金子才覚致す御上納物など奪い取られ候わば、難義仕るべく、または郷蔵御年貢米など、押し取り仕るべきやと、これまた安気仕らず、よんどころなく御地頭様へ御訴え申し上げ候。
※ 安気(あんき)- 心配がないこと。また、そのさま。

早速御沙汰に及び、仰せ付けられ候には、この節、盗人ども徘徊致し候との事、村々へ盗人見え候わば、鐘、太皷を打ち追い散らし候様に、仰せ付けられ、この儀は中々命掛けにて、致し候者は御座なく、皆々押し込みの者どもは、抜き身を持ち、出合い次第に切り捨て候様子にて、誠に忠臣蔵夜討の狂言と等しく、声立てる人は御座なく候。盗人どもすべて隠れ忍び候事、少しも御座なく候。

この節は、伊勢、近江、尾張、伊豆、駿河など、日本左衛門が手下の者ども、餘多これ有り候由、承り候。遠州の盗人の義は、前書申し上げ候通りに御座候。この義、御大名方御領分の内は厳しき御吟味御座候ゆえ、盗人ども宿致すは御座なく、依って御代官、御旗本様御知行の内に徘徊仕り候。

日本左衛門始め、手下の者どもまでも、武芸勝れ候由、殊に大勢の儀に御座候えば、恐れながら御旗本様方の御国役人衆手勢ばかりにては、御召し取り候義、覚束なく、勿論所々に大勢入り込み罷り有り候間、御大名様方の御威勢にても、暫時に残らず御召し取りの事、計りがたし。それに国本にて御訴え申し上げ候わば、盗人同類、餘多御座候故、早速に御手に入れし儀も計りがたく、是非なく、右の趣、御願い申し上げ候。

御高察の故、御召し取り御吟味下され候様、偏えに御聞き済まし下し置かれ候わば、有り難き仕合わせに存じ奉り候。
 延享三年       遠州豊田郡向笠村
  丙寅の九月三日   花房三十郎百姓 三右衛門 印
            右同断五人組頭 喜八   印
       江戸鉄砲洲永松町二丁目宿 次兵衛  印
 御奉行所様

  恐れながら別紙書付を以って申し上げ奉り候
一 差し上げ候一書、密事の儀、申し上げ候。恐れながら御直覧遊させられ、下さるべく候様、願い上げ奉り候、以上。
※ 直覧(じきらん)- 親しく直接に御覧になること。手紙や文書の脇付(わきづけ)に用いる。

右の通り、願い書を以って、御月番本多紀伊守殿へ、九月三日願い出候。早速御評定これ有り、明昼四つ時、願い人三右衛門を召し出され、夜の八つ時分まで、紀伊守殿、御家老御両人、ひそかに御詮義これ有り、同九日にまた、三右衛門召し寄せられ、御評定の故、盗賊方徳山五兵衛殿組下へ仰せ付けられ、則ち国元へ盗賊方案内致すべく仰せ付けられ、願い人三右衛門は、本所石原、徳山五兵衛殿方まで、御公儀より人を付けられ遣しける。

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